文科省、2040年見据え大学の規模適正化と機能強化を一体推進

文部科学省は、「2040年を見据えた高等教育改革の方向性について~大学等の機能強化と量的規模適正化~」と題した資料を公式サイトに掲載している(2026年9月30日更新)。18歳人口の急減を踏まえ、大学の規模を適正化すると同時に、理工・デジタル分野への転換や地域を支える人材の育成を一体的に進める方針を示した。

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大学進学者は2040年に約46万人へ

18歳人口は、2026年の約111万人から2040年には約74万人へと、約3割減る見込みだ。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(令和5年推計)」のうち、出生低位・死亡低位の推計に基づく数字である。文科省は、急速な人口減少に伴い、現在約63万人いる大学進学者数が2040年には約46万人まで減ると推計している。

私立大学の経営への影響も試算した。対象は、2024年度時点で設置されている私立大学601校(短期大学、通信制大学、大学院大学、募集停止中の大学を除く)だ。大学進学者が2040年に46万人へ減ることを前提に、一定の仮定を置いて計算した。予測イメージによると、2040年度には資金ショートのリスクが「特に高い」(耐久年数4年未満)大学が183校、「高い」(同4年以上10年未満)大学が79校になる。

人口減少の影響は、地方ほど大きい。2024年の大学進学時の都道府県別流出入をみると、他県からの進学者のほうが多い流入超過は、東京都、京都府、大阪府、愛知県、福岡県、神奈川県、宮城県、石川県、滋賀県の9都府県にとどまる。残る38道県は流出超過だ。資料は青森県の分析も示しており、2040年には弘前大学医学部を除くすべての学部が定員割れや撤退に陥るとの試算を紹介している。

大正期から続く文理分断の転換を訴え

改革の中心に据えられたのが、文系と理系の分断構造である。資料によると、高校生の半分は普通科の文系に、大学生の半分は人文・社会科学系に在籍し、その多くが理数の学びから離れている。文科省は、1918年の勅令である高等学校令に始まる日本固有の文系・理系の分断構造を、今こそ転換しなければならないと強調した。

学びの密度にも差がある。教員1人あたりの学生数を表すST比(学生教員比率)は、理学の6.4人に対し、社会科学では36.9人に上る。最終学年の1週間の学習時間を比べると、理学・工学の33.2時間に対し、社会科学は23.7時間にとどまる。

資料が挙げる課題には、高校から大学にかけての文理分断もある。「数学Ⅰが難しいから」などの理由でとりあえず文系を選び、高校1年生で文理を選んだ後は理数科目から離れてしまう流れだ。資料は、社会科学系の学生定員の多さ、学修時間の少なさ、密度の低い学びとあわせて、「学生にとっても社会にとっても深刻なリスク」と指摘した。

産業界が必要とする人材とのずれも大きい。資料は、経済産業省の「2040年の就業構造推計(改訂版)について」を引用している。2040年には事務職が437万人余る一方、AI・ロボット等の利活用を担う人材は339万人、生産工程や建設、サービスなどに従事する現場人材は260万人不足する見通しだ。学歴別にみると、資料は大卒・院卒の理系で124万人の不足を見込んでいる。

理工農系35%、人社系34%のイメージ

人材のずれを埋めるため、資料は高校から大学院までの人材構成を見直した場合の姿も示した。高校の普通科理系や専門高校、大学の理工農系と保健の割合を、仮に高めた場合のイメージである。

学部段階では、理工農系の学生が14万人(22%)から16万人(35%)に増える。人社系は29万人(46%)から16万人(34%)に縮小する。高校では、理系として学ぶ生徒26万人(27%)を、2040年には理数・デジタル的素養を中心に学ぶ26万人(39%)とする。生徒数が減るなかで人数を保つため、割合が高まる計算だ。

大学院は、2040年に見込まれる院卒理系人材27万人の不足を解消するため、まず2030年までの目標を掲げた。修士の入学者を5.5万人から6.4万人へ、博士の入学者を1万人から1.4万人へ増やす。

伝統ある私立11大学が理系転換を構想

学部の転換を資金面で支えるのが、「成長分野転換基金(大規模文理横断転換枠)」である。首都圏・大都市圏にあり、長い伝統を持ち選抜性の高い私立11大学が、理系への転換や文理分断からの脱却を具体的に構想し、基金を活用する意向を表明した。早稲田大学、慶應義塾大学、上智大学、学習院大学、明治大学、青山学院大学、中央大学、法政大学、関西学院大学、関西大学、立命館大学の11校だ。

中央大学は、農学と情報科学を融合させた情報農学部(仮称、設置構想中)を、2028年4月に多摩キャンパスに開設する予定だ。入学定員は297名を見込む。2027年度に予定するスポーツ情報学部(仮称)の設置と合わせ、理系分野の学部学生比率は約19%から約26%に高まる見通しである。

基金を活用した組織の新設は、すでに各地で進んでいる。安田女子大学(広島県)は2025年、女子大学として全国初の理工学部を開設した。生物科学科、情報科学科、建築学科の3学科で構成し、入学定員は180名となる。熊本大学は2024年4月、半導体技術者・研究者の育成に特化した工学部半導体デバイス工学課程を新設した。

公立高専の新設と高専から大学への道

高等専門学校(高専)は、中学校などを卒業した生徒に5年間一貫して専門教育を行う学校だ。公立高専を新たに設ける動きも出てきた。滋賀県では、公立大学法人滋賀県立大学が設置・運営する滋賀県立高等専門学校が、2028年4月に野洲市で開校する予定である。入学定員は120人で、県内で初めての高専となる。資料は、約40年ぶりの公立高専の新設と位置付けている。

愛知県は、愛知総合工科高等学校の校地内に県立高専を設け、同校と併設して運営する計画だ。設置・運営主体は愛知県公立大学法人で、2029年4月の開校に向けて準備を進めている。

専門高校や高専から大学へ進む道も広がりつつある。慶應義塾大学の総合政策学部と環境情報学部は、2028年4月から高専卒業者を対象とする「第3学年編入学制度」を導入する。山梨県では、2028年4月に山梨県立甲府工業高等学校へ新学科(25名)を設ける。同学科で3年間学んだ生徒は、希望すれば原則として全員が山梨県立大学のメイカーズ工学科(仮称)に進学でき、高校と大学を通した7年間の一貫教育を受けられる。

高専の研究機能と学位授与を検討

高専そのものの強化も改革の柱になる。文科省は2026年8月28日、「高等専門学校の機能強化に関する検討会」の中間整理を公表した。中間整理は、高専の「量的拡大」、高専教育の「質的向上」、高専卒業者の「国際通用性の確保」という3つの柱を掲げている。

量的拡大では、工学を基礎としながら、農業やコンテンツなど新たな分野に必要な教育環境の基準づくりを検討する。質的向上では、高専で研究活動が実際に行われていることなどを踏まえ、設置目的に「研究」を位置付ける方向で、法制面を含めた検討が必要だとした。国際通用性をめぐっては、本科卒業生に与えられる「準学士」の称号が諸外国で十分に理解されていない。そのため、本科卒業者に学位を授与できる制度の整備に向けた検討を求めている。

知事を中心に地域の人材需要を協議

地域の医療や産業、インフラを支える人材の育成では、「持続可能な地域高等教育システム」を確立する方針を打ち出した。知事を中心に地域の人材需要や社会構造の変化を話し合い、その結果を踏まえて大学等の再編・統合・転換や、高校と大学の一貫した連携を進める仕組みである。

医療人材の確保に向けては、医学部などの「地域枠」を抜本的に拡大する。資料が先行例として挙げた新潟県の例では、入学前から義務年限の終了(卒業後9年目)まで、経験の場や成長支援、相談体制を切れ目なく整えている。離脱率は約1%(547人中8人)にとどまり、義務年限後の県内定着率は92%(26人中24人)に達した。

高等教育局の概算要求は2兆2,754億円

一連の施策は、2026年7月21日に閣議決定された「骨太の方針2026」を踏まえている。同方針は2030年までを第1期と定め、大学等の機能強化と、18歳人口の減少を踏まえた規模適正化を総合的に進めるとした。高等教育の分野・地域のリバランスや「18歳中心主義」からの脱却を図るほか、大学の経営体力がある段階での撤退を進めることも盛り込んでいる。

予算面では、高等教育局の2027年度概算要求・要望額が2兆2,754億円に上り、前年度予算額の1兆7,314億円を5,440億円上回る。施策は「強靱な高等教育への転換に挑戦する10の重点施策」として整理された。目玉の一つは、ST比を改善し、留学などの「知的修羅場体験」を通じて、自分の頭で考えて判断し、その結果の責任を引き受ける力の基礎を養う大学教育への支援で、新規に165億円を求めた。支援の対象は100学部(3年間で300学部)に絞り込む。成長分野転換基金には1,100億円を積み増し、国立大学法人運営費交付金には1兆2,512億円を要求している。

私立大学等への助成(私学助成)は4,803億円とした。定員を満たしていない大学への減額(171億円)や、ST比の高い大学等への減額(277億円)を行う。その一方で、理工農・デジタル系分野や地域を支える人材の育成、研究力の強化などには310億円を上乗せし、めりはりのある支援をめざす。

大学の撤退や再編を伴う規模適正化と、理工・デジタル分野への転換を同時に進める今回の改革は、高校から大学、大学院までの人材育成システムを一体的に見直す取り組みでもある。第1期が終わる2030年までに、各大学や自治体の構想がどこまで具体化するかが焦点となる。