特集2 DX時代の大学経営戦略 デジタルを活用した人材育成・大学経営

2040年、大学進学者数の大幅な減少が予測される中、理系人材の不足などが懸念されている。そうした状況を踏まえ、文部科学省高等教育局専門教育課長の松本英登氏が高等教育政策の諸動向や大学等におけるデジタル人材育成の推進、大学のDXや生成AIの活用などを解説した。

高等教育を取り巻く現状と課題
文理分断からの脱却を

松本 英登

松本 英登

文部科学省 高等教育局 専門教育課長

18歳人口の急減に伴う大学進学者数の減少により、2024年時点で約63万人の大学進学者数は2040年に約46万人まで減少することが予測されている。人口減少が進むことにより、理系学部への進学者の総数も減少することが懸念される。さらに、産業構造の変化により、経済産業省「2040年の就業構造推計」によると、事務職や文系の大学・大学院卒業者が余剰となる一方で、理系の知識を持った人材の不足といった人材需給のミスマッチが起きることが指摘されている。文部科学省高等教育局専門教育課長の松本英登氏は、高等教育を取り巻く課題の一つに「文理分断からの脱却」があると指摘する。

「こうした状況を打破するためには、高校および大学における文系・理系の割合の見直しを図り、文理分断からの脱却も図りながら、理工・デジタル分野を厚くしていくことが必要になります」

松本氏は、もう1つの課題として「地域を支える人材の確保と大学のリバランス」を挙げる。大都市を除き、地方では高校・高等専門学校(高専)・大学の卒業者ともに広く理系人材の不足が予測されている。また、地域別の観点として、大学進学時における都道府県間の流入・流出の状況を考える必要があり、多くの道府県で流出超過の傾向が示されている。

このため文部科学省では、高校段階の改革と大学の構造改革を連動。「高等教育改革基金」(2950億円)を都道府県に造成し、大学の構造改革では「成長分野転換基金」の拡充(200億円)のもと、理数を中心に学ぶ生徒の確保、専門高校の機能強化支援、地域のアクセス・多様な学びの確保、大都市の私立大学の理工農・デジタル分野の重視、ST比(学生教員数比率) の改善などを推進。また、「地域構想推進プラットフォーム」の構築では、地域の人材需給や産業ニーズを踏まえ、高等教育機関を中心とした実効的な産学官金等連携による人材育成の取組を促進していく(図)。

図 高校・大学を通じて大転換するには

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18歳人口の急減に伴う大学の量的規模の対応について、松本氏は「2040年に約3割の学校法人で資金ショートするリスクが特に高くなると予測されていることから、文部科学省では、2026年から30年を第一期、2031年から35年を第二期として、大学の量的規模の適正化に関する総合的な施策を推進し、地域に必要な人材を確保しながら、大学の機能強化について、重点的に支援していきたいと考えています」と話す。

大学等における
デジタル人材育成の推進

2019年に策定された「AI戦略2019」はデジタル社会における基礎的な素養として「数理・データサイエンス・AI」を全ての国民が身につけることが示され、小学校段階から中学・高校・大学に至るまでの教育改革を目指すこととなった。

2022年にはデジタル社会を牽引する人材を2026年度までの5年間で230万人育成する「デジタル田園都市国家構想基本指針」が示された。こうした背景から、文部科学省では大学や高専における数理・データサイエンス・AI教育の推進を進めてきた。具体的には大学や高専の数理・データサイエンス・AIに関する優れた教育プログラムを文部科学大臣が認定する「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」、モデル教材の普及や大学間でのワークショップを通じて、全国への数理・データサイエンス・AI教育の普及展開を促進する「数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアム」の形成支援を行ってきた。この結果、例えば、認定制度のリテラシーレベルは、国立大学・高専は9割以上が認定教育プログラムを実施、私立大学全体では約6割が実施した。

また、デジタル・グリーンなど成長分野への学部転換等の支援に「大学・高専機能強化支援事業」として2022年度補正予算で3002億円を計上。2025年度補正予算で200億円を加え「大規模文理横断転換枠」を新設した。デジタル人材育成の推進における今後の課題について松本氏は「大学生の半分が人文・社会科学系である現状を踏まえ、理工・デジタル分野以外の学生にも、理数的素養を身につける教育を行うことが必要だと考えています」と話す。

取組事例から見る
大学のDXや生成AIの活用

文部科学省では「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」を通じて、デジタルを活用した教育の高度化に取り組む大学や高専への支援を行ってきた。松本氏は教育DXの事例として、各種システムを有機的に連携させる「デジタル情報プラットフォーム」の構築によりシステムを高度化し、その利活用により個々の学生に最適化された学びを実現する施策への発展に取り組む法政大学の事例を紹介した。

また、生成AIの教学面の取り扱いは大学・高専ごとの実態に応じた対応が重要だと松本氏は指摘する。

「生成AIの利用は促進しつつ、教育の本質である学生主体の学修を損なわない運用設計を現場でもお願いできればと考えています」

文部科学省では、学生が可能性の伸長を実感できる大学教育の実現につながる「教学マネジメント」を推進するため、2025年度に取組事例集を作成。松本氏は事例集から生成AIを活用する二つの事例を紹介した。一つ目は学生の分野横断的な学びを実現する「全学分野横断創生プログラム」を実施する新潟大学の生成AIによる科目レコメンドシステムによる学修支援だ。

「同プログラムでは、学生は所属学部の学位プログラムで学ぶ主専攻分野に加えて、その他の副専攻分野も学ぶことが可能です。全学の膨大な科目から、学生自身の興味関心や問題意識がある科目選択をサポートしていくために、人による学修支援と生成AIを活用した支援、両面から学修に対する支援が行われています」

もう一つは、授業評価アンケートにおける学生からの意見や成績分布を生成AIに取り込み授業改善の試みを行う芝浦工業大学の取組を紹介。最後に松本氏は「AI時代に対応した大学の教育力向上に向けて、引き続き、取組を進めていきたいと考えています。現場の皆様からのご協力もよろしくお願いいたします」と締めくくった。