「情報活用能力ベーシック」が支える 学習者主体の授業デザイン

探究的な学びの基盤「情報活用能力」をどう日常の授業に落とし込むか。教師の授業づくりの多様性を保障する実践的な指標「情報活用能力ベーシック」のねらいと活用法を解説する。

探究的な学びを支える
情報活用能力

小林 祐紀

小林 祐紀

放送大学 教養学部 准教授
公立小学校・中学校の勤務を経て2015年4月〜2024年3月まで茨城大学教育学部准教授。2024年4月より現職。専門は教育工学(ICTを活用した教育実践研究、情報活用能力に関する研究)。日本教育メディア学会理事、AI時代の教育学会理事、日本デジタル教科書学会理事、文部科学省学校DX戦略アドバイザー。

VUCA時代といわれる変化の激しく予測困難な時代を生き抜き、社会づくりの一翼を担っていく、現代の子どもたちにとって真に必要となる能力はどのようなものでしょうか。おそらく課題解決能力、コミュニケーション能力等の大きな枠組みの能力を想像された方が多いと思います。このような大きな枠組みの能力は資質・能力(コンピテンシー)と呼ばれています。そして、子どもたちに資質・能力を育む学びとして「探究的な学び」が今改めて注目されているのです。探究的な学びは、学習指導要領において校種・教科を問わず重視される学びであり、学習者中心の学びと言い換えることもできるでしょう。

そして探究的な学びを支え、駆動させる基盤として「情報活用能力」は位置づけられています。情報活用能力の具体については、学習指導要領解説において次のように示されているところです。

学習活動において必要に応じてコンピュータ等の情報手段を適切に用いて情報を得たり,情報を整理・比較したり,得られた情報を分かりやすく発信・伝達したり,必要に応じて保存・共有したりといったことができる力

ここに示されているのは「調べて,まとめて,伝える」という探究的な学びそのものです。情報活用能力は、探究的な学習活動を経験する中で育まれ、発揮される能力といえるでしょう。また探究的な学びを、学習者の視点から見直すと「教わる授業」ではなく、学習者自身が「学び取る授業」ともいえます。このような学びを実現する授業において、GIGAスクール構想で整備された環境は授業を支えるインフラ(デジタル学習基盤)です。したがって、子どもたちがインフラとしてのツールや環境を主体的に活用することは極めて重要なのです。

授業づくりの困難さを支援する

一方で、情報活用能力の重要性は理解したけれど…授業づくりに反映させることは難しいという声は各地から聞こえてきます。実は、情報活用能力の重要性が最初に指摘されたのは、1986年の臨時教育審議会第二次答申であり、すでに40年近く経過しています。しかし、私たちの2019年の調査では、学習指導要領における情報活用能力に関する記載や学習の基盤となる資質・能力といった根幹的な位置付けについての理解は、十分ではないことが明らかとなっています※1。特に、情報モラル、プログラミングといった個別の指導内容に関する認知を下回る傾向がみられたことも確認されました。したがって、文部科学省が示す情報活用能力の中でも、特に日常の授業に直結する「問題解決・探究における情報活用」については、具体的な授業イメージが不足していると考えられます。

このような現状において、子どもたちの情報活用能力を育成するためには、教師たちの、授業を構想し実践することへの支援が重要であることはいうまでもありません。そこで、私たちは「情報活用能力ベーシック」を開発し、普及・促進を図ってきました。

情報活用能力ベーシック

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情報活用能力ベーシックとは、探究的な学習の5つの過程(【課題の設定】【情報の収集】【整理・分析】【まとめ・表現】【振り返り・改善)】に基本となる授業展開を関連づけた情報活用能力育成のための授業指標のことです。教師たちが日々実践する授業づくりを支援することを目的に、小学校の各教科(国語・社会・算数・理科では低中高学年別の記載)、中学校においては5教科(国語・社会・数学・理科・外国語)を開発しました※2

情報活用能力ベーシックは、文部科学省が公開している学習指導要領等の情報をもとに情報活用能力の構成要素を明らかにした上で、基本となる各教科の授業展開を示しています。例えば、国語(小学校)の【整理・分析】における学習展開例では「伝え合うために必要な情報かどうか,多様な観点から比較・分類して整理することで,伝えたいことを明確にする」と記載されており、あくまでも基本となる授業展開例であることがわかります。

したがって、情報活用能力ベーシックの特徴の1つめは、学習指導要領に紐付いており安心して活用できることです。そして2つめは、教師の授業づくりの多様性を自覚し支援するという立場から、指示書やマニュアルの類いではなく、あくまでも参考となる指標にとどめていることです。ぜひこの情報活用能力ベーシックが授業を考える際の「ベーシック」として活用されることを願っています。

授業づくりの困難さを支援する

情報活用能力ベーシックは、活用事例の詳細を含めガイドブックを公開しています(参考:https://www.japet.or.jp/info-ut-ability/)。すでに学校研究に取り入れる小学校・中学校・特別支援学校、県・市全体で授業づくりの指針として採用している自治体も複数あり、実践事例が多数公開されています※3

教師が情報活用能力育成の授業づくりの視点をもつためには、これからも多様な取組を行っていくことが重要です。例えば、情報活用能力ベーシックをもとに全国各地で教員研修プログラムを実施したり、各学校で実施できる校内研修パッケージの開発を進めたりしています。また情報活用能力ベーシックの良さを実体験できる小学校・中学校の模擬授業の開発も毎年進めています。しかしながら、情報活用能力の育成はまだまだ道半ばです。本稿で示す内容が読者の日々の授業を見直すきっかけになることを期待しています。

※1 稲垣忠,中川一史,佐藤幸江,前田康裕,小林祐紀,中沢研也,渡辺浩美(2019)小中学校教員を対象とした情報活用能力の認知および指導状況に関する調査,『日本教育メディア学会第26回年次大会発表集録』,pp.94-97
※2 小林祐紀, 秋元大輔, 稲垣忠, 岩﨑有朋, 佐藤幸江, 佐和伸明, 前田康裕, 山口眞希, 渡辺浩美, 中川一史(2023)学習過程に関連づけた情報活用能力育成のための授業指標の開発と評価,『AI時代の教育論文誌』,第5巻,pp.60-67
※3 中川一史,小林祐紀,佐藤幸江,岩﨑有朋(2025)『情報活用能力ベーシック 活用ガイドブブック』,東洋館出版社