各大学の特色を活かした連携で四国を教員養成の中心地域に
少子化や人口減少に伴い、大学の教育リソースが縮小する中、徳島・鳴門教育・香川・愛媛・高知の5大学は、一般社団法人四国地域大学ネットワーク機構を通じて教員養成で連携。「教員養成は四国から」というキャッチフレーズのもと、地域を支える教員養成機能の強化を図っている。
分散協働型の広域連携で
各県の教員需要に応える
佐古 秀一
一般社団法人四国地域大学ネットワーク機構 代表理事/鳴門教育大学 学長
大阪大学大学院人間科学研究科行動学専攻後期課程単位修得退学。京都家庭裁判所・家庭裁判所調査官補、大阪大学人間科学部助手、鳴門教育大学学校教育学部講師、助教授を経て、1999年、同大学学校教育学部教授。2022年4月より鳴門教育大学学長。文学修士(大阪大学)。主な研究分野は教育経営、学校組織開発など。
一般社団法人四国地域大学ネットワーク機構は2021年3月、四国の5国立大学である徳島大学・鳴門教育大学・香川大学・愛媛大学・高知大学が設立した。2022年3月には文部科学大臣から、広域ブロックでは全国初となる「大学等連携推進法人」の認定を受けた。
大学等連携推進法人は複数の大学が連携して教育・研究を進める枠組みだ。認定されると、他大学の授業科目を自ら開設した科目として教育課程に組むことができる連携開設科目の開設や、連携開設科目を活用した連携教職課程の設置など、教学上の特例措置を受けられる。
これにより、連携開設科目による授業科目の共有や、大学間で配置すべき専任教員の共有など、各大学のリソースの相互利用が可能となり、各大学の強みや特色を生かして、充実した教育プログラムの提供や、弱点分野の相互補完、地域が求める人材の連携した育成などができる。
「教員養成大学・学部の規模を縮小する流れは、以前からありました。2001年に出された文部科学省の懇談会の報告書※1では、人口動態や採用事情を踏まえ、国立の教員養成学部の再編・統合を図る方針が示されました。いち早く人口減少が進んでいた四国の教員養成大学・学部は、強い危機感を持っていました」
四国地域大学ネットワーク機構代表理事で鳴門教育大学学長の佐古秀一氏は、こう振り返る。こうした中、大学間の連携に向けて、2018年には教職大学院を中心に、教育リソースを共有する単位互換協定を大学間で締結。さらに同年、教員養成分野の連携事業の推進が学長会議で承認され、2020年には大学等連携推進法人認定と共同教職課程の設置に向けた検討組織の設置などを経て機構設立に至った。
「懇談会の報告書が示したように複数県の教員養成をどこかの県に統合する考えでは各県の教員需要に応え、教員の資質向上を図るのは難しいと考えました。そこで四国各県の大学が県教育委員会と緊密に連携する仕組みを生かしつつ、リソースが細っても機能が落ちないよう『分散協働型の広域連携』を進めることになりました」(佐古氏)
機構設立以前から、既に、リソース不足に伴う課題が生じていた。例えば、美術の教員免許を取得するコースでは絵画、彫刻、工芸といった幅広い専門分野の科目を揃える必要があるが、鳴門教育大学では専任教員が欠けている分野があった。一方、鳴門教育大学には絵画の教員がいたが、他大学では他分野の欠員が生じていた。このため、互いのリソースを融通し合えば双方の教職課程が豊かになり、学生が幅広く学べるメリットがあった。
高校では2022年度から「情報Ⅰ」の必修化に伴い、県の教育委員会から情報科の教員免許を有する教員養成の要望が出る中、リソース不足で対応できない大学もあり、連携はその課題解決にもつながった。
佐古氏は「大学間の連携で大切なのは連携の理念・目的で、これをしっかり議論しなければ連携の方向や形態が定まりません」と強調する。機構では、「学生のために豊かな教職課程を維持すること」を目的として定め、各大学で共有した。さらに、連携のコンセプトとして上述した「分散協働型の広域連携」を掲げ、教職課程の「豊富化」と「特色化」を打ち出した(図参照)。
美術・家庭・情報の3教科で
連携教職課程を展開
機構では現在、「連携教職課程」と「四国人財育成塾」の2事業を運営している。人財育成塾は教員養成に限らず、四国の将来を牽引する人材の育成を目指し、各大学が持ち回りでテーマを立てて取り組みを共有・発信する。
連携教職課程は2023年度にスタートした。現在は5大学が美術(中・高一種)・家庭(中・高一種)・情報(高校一種)の3教科・46科目を連携して開設している。受講生は716人にのぼる。単独では開設できない大学があった情報のほか、単独では充実した課程が組みにくい美術や家庭でも各大学が補い合う。例えば美術では、「絵画演習I」は鳴門教育大学、「絵画演習Ⅱ」は香川大学、「映像メディア表現」は徳島大学というように分担し、開設している。
連携を通じて、より特色や魅力がある授業の実施も可能になった。その一例が、高知大学が開設責任を担った家庭科における「持続可能な生活づくり」だ。この授業では建築家の隈研吾氏を招き、高知県の山間地・梼原(ゆすはら)町で地域の暮らしをテーマにワークショップを開催。高知大学のほか、連携大学の教員や学生も参加した。
他大学の学生との交流を深めるきっかけにもなるワークショップの様子。連携を通じて、より特色ある授業の実施も可能となった。
もう1つは美術科の授業で、香川、鳴門教育、徳島の3大学が船を借り上げ、瀬戸内国際芸術祭の舞台となっている島々を巡った。この授業では、学生は芸術を観賞するだけでなく、芸術家が地域活性化にどう関わっているかを学び、意見を交わした。企画は3大学の教員が担った。
5大学の学生間の交流も成果の1つで、他大学の学生が互いに知り合えるだけでなく、教職や教科教育に関する意見を交換できる場にもなっている。こうした特色授業の経費は、機構から各大学へ支援金として支出されている。
連携教職課程における課題
今後は3教科以外での連携も視野に
梅津 正美
鳴門教育大学 理事(教育・改革・国際担当)・副学長(教育・改革担当)
広島大学大学院教育学研究科修了後、島根県立高等学校教諭、広島大学附属福山中・高等学校教諭を経て、1995年に鳴門教育大学学校教育学部助教授。2008年、同大学大学院学校教育研究科准教授、2010年、同大学大学院学校教育研究科教授、2022年4月から現職。博士(教育学)(広島大学)。主な研究分野は教科教育学(社会科教育、歴史教育)。
他方で、連携教職課程の運営には課題も存在する。第1に、現行制度では、参加する大学は単独で8単位以上の連携開設科目を用意し、学生は連携先となる他大学の科目を8単位以上取得する必要がある。
「教員養成の単科大学である鳴門教育大学はフルスペックで8単位を用意できますが、総合大学の教育学部は予算や教員数の削減で厳しく、8単位は難しいのが実状です。逆に、学生は他大学の授業を8単位以上取る必要があるため、自分の大学の専任教員の授業を受講しにくいという事態も発生しています。現状では、これが最大の難点だと思います」
鳴門教育大学理事(教育・改革・国際担当)・副学長(教育・改革担当)の梅津正美氏は、こう話す。ただ、梅津氏によると、教職課程認定基準の改正により、8単位履修の縛りが緩和される見通しだという。
他には、授業の始業・終業時間は大学ごとに異なるため、時間割を揃えるところから話し合う必要があった。これには、対面授業を金曜5時限に統一するなどの対応をしている。
一方、広域連携のため授業の中心はオンライン(双方向・オンデマンド)だが、システム面では、2013年、香川大学主幹による「四国5大学連携による知のプラットフォーム形成事業」によって、先行して整備されていたことが、大きな助けになった。
2023年度に開設された連携教職課程は、2026年度で第1クールが終了し、初の卒業生を送り出す。佐古氏は「課題もありますが、一定の成果を上げたと思います」と話す。
社会的なインパクトとして、他大学からの視察や問い合わせが11件以上寄せられているほか、教育関係団体や学会等からの依頼による情報発信も積極的に行っている。
次の第2クールは2027年度からの4年間で、機構の教職連携委員会では連携教職課程における開設科目の拡大も含めた議論を始めている。
例えば、いじめ・不登校への対応やAI・データサイエンス、多様性の包摂などに関係する科目の共同開発なども考えられる。
「今後はさまざまな強みや専門性に関わる部分で5大学がさらにリソースを共有し、科目を開発していけるかが鍵になりそうです。これまでの3教科にとどまらず、教科教育はもちろん、インクルーシブ教育やデータサイエンスなども含めた複数領域で共有できるものも作り上げる形になると思います」(梅津氏)
教員志望の気持ちを支える
カリキュラムや活動に注力
全国的な課題となっている教員不足に関して佐古氏は「教員免許取得者を増やせば解決できる」という議論には否定的だ。全国では毎年、約9万人の学生が教員免許を取得しているが、公立学校の教員採用者数はその約3分の1だ。
このため、「何となく教員になっても良い」と考える学生でなく、強い目的意識を持つ学生を育てて送り出すことが、確実な成り手確保につながるとみている。
鳴門教育大学の教員就職率は高い状態が続いている。文科省の資料※2によれば、2025年3月学校教育学部卒業者の教員就職率が89.4%、国立教員養成大学・学部の中で3年連続全国第1位となっている。全国第1位は、直近15年間で11回目、全国トップレベルを維持し続けている。教員を志して入学した学生一人ひとりに、1年次からその気持ちを支え続けるカリキュラムや活動を丹念に組んできた結果だ。
「教員採用試験の倍率が低くても、志願者らがしっかりした教員志望を持っていれば良いはずで、そういう学生を育てるのが私たちの役目です。その役目を果たし、他大学にもそのような教員養成のあり方を発信していきたいです」(佐古氏)
機構では「教員養成は四国から」をキャッチフレーズに掲げ、大学連携を通じて教職課程の質を高めると共に、四国の教員養成の魅力向上を図っている。「教員になるなら四国へ行くのが良い」「四国に行けば面白い教育が受けられる」と評価され、四国が教員養成の中心地になることが目標だ。そして連携教職課程で育った教員がそれぞれの専門分野で、教育を通じて地域に貢献する未来を描いている。
※1 2001年11月「今後の国立の教員養成系大学学部の在り方について-国立の教員養成系大学学部の在り方に関する懇談会-」文部科学省高等教育局専門教育課
※2 「国立の教員養成大学・学部の令和7年3月卒業者の就職状況等」文部科学省
