Better beingで、学校を変える 周辺機器大手・エレコムの教育DX最前線

教育現場のリアルな声を製品とサービスに還元し続ける企業がある。マウスやキーボードで知られる周辺機器大手・エレコム株式会社は、GIGAスクール構想を機に大学研究者と手を組んだ製品を開発するなど、子どもたちの学習環境と向き合ってきた。ICT機器の導入が進む一方で、教員の負担増や学校現場のネットワーク格差といった課題も浮き彫りになるなか、同社ソリューション推進部長の安齊義貴氏は「GIGAスクールがあるからビジネスを作ろうという発想ではない」と言い切る。「不公平なくすべての子どもに一定水準の教育環境を」その信念の構想と実践を聞いた。

周辺機器メーカーが、
教育インフラへ踏み出した理由

村田 健太郎

安齊 義貴

エレコム株式会社
ソリューション推進部 部長
写真は、安斎氏と教育用キーボード「KEY PALETTO」

エレコム株式会社は1986年に大阪で創業したコンピュータ周辺機器メーカーだ。マウス・キーボードをはじめ10部門で業界トップシェアを誇り、約20,000点のラインアップを持つ。近年はBtoB比率がグループ全体で約4割に拡大し、2023年にはネットワークエンジニア200名超を擁するgroxiがグループ入りするなど、ネットワーク構築・SIerの領域へと事業を広げている。

教育分野との関わりはGIGAスクール第1期に遡る。タブレットや安全設計のモバイルバッテリーを全国の自治体・学校に納入するなかで培った現場感覚を土台に、寝屋川市・守口市・大阪市・京都・気仙沼市・いなべ市など全国各地の教育委員会とのネットワークを着実に広げてきた。

エレコムが教育市場に向き合う姿勢について、安齊氏は明確に語る。「我々の会社はGIGAスクールがあるからそこにビジネスを作ろうという発想ではなく、自治体や生活圏において、防災であり教育であり医療であり、生活全体の中で我々として力になれるところから始めていこうという考えです。いかに皆さんの生活水準を不公平なく高められるかというところが根底にあります。」

その姿勢が色濃く表れているのが、この大阪電気通信大学との産学連携だ。子どもの身体的特性や学習行動に関する生体力学研究を起点に、教育現場の声を反映した教育用キーボード「KEY PALETTO」を開発した。研究者の知見と現場観察を組み合わせ、現場の声を製品とサービスに還元するサイクルを、安齊氏は地道に回し続けてきた。

 

150校を歩いて見えた、
ネットワークの「死角」 

GIGAスクール構想で端末が全国の学校に配備されてから数年が経つ。AI教育の本格化によりクラウド・SaaS側での処理が増え、ネットワーク環境の逼迫を懸念する声が現場から届くようになった。その実態を確かめるべく安齊氏が主導したのが、2024〜2025年度にかけて全国150校超で実施したネットワークアセスメントだ。 

「ほとんどの学校が2020年前後にWi-Fiを導入されていて、その際に細かいところまで行き届いたネットワーク設置というのが意外にできていない。アクセスポイントを中心にネットワークの帯域はあるのですが、構造物によってはその範囲が遮られてしまって部屋の端が通らないといったことがあります。自宅でWi-Fiを使っていてもキッチン横の電波が弱いと感じることがあると思いますが、学校は広いだけあって、ネットワークの狭間のようなものがかなり多く存在します」と現状を語る。そしてこの問題は、「きちんときめ細かく設計・シミュレーションすることであり、小さな投資で大きな効果を実感していただけるのではないか」と安齊氏は話す。 

アセスメントを通じて見えてきたのはネットワークの問題だけではなかった。給食費・部費・保護者会費など、学校は日本の団体の中で最も現金を扱う処理が多い機関の一つだ。やりたいことは山ほどあっても、最後のボトルネックは常にネットワークの問題に行き着く。ICTはあくまで手段であり、教員が子どもと向き合う時間を生み出すための環境整備こそが本質だと、安齊氏は現場を歩く中で確信するようになった。 

情報発信・安全・校務DX 
ICTで学校環境を変える 

学校における情報発信環境の整備にも力を入れる。青山学院大学では全校生徒向けの情報発信をデジタルサイネージで一元管理するシステムを構築した。

「外国人の生徒様が増えてくる中で、言葉の制約を受けない視覚的な情報発信や、マルチリンガルな情報発信が重要になってきます。サイネージはあくまで箱でしかないので、中身のコンテンツや運用でどういったものを織り込んでいくかが大事です。いくつかの教育機関には無償でサイネージを設置させていただいて、学生様や教職員様向けにどういった使い方が一番よいのかを検証実験させていただきたいと考えています」と安齊氏は語る。

学校の安全面でも、ICTの役割は大きい。「学校における死角をなくしたいと考えています。これは昨今の事件とは関係なく、一昨年度から強く感じていたことですが、エレコムグループはネットワークカメラ・セキュリティカメラのメーカーでもありますので、学校の校舎裏や通用口、校舎に至るまでの死角にネットワークカメラを導入させていただいている学校様もあります。ますますこの重要性は増してくると思いますので、サイネージとネットワークカメラ、どちらもお子様の安全をいかに守るかというところでお役に立てるご提案をしていきたいと思っています」と安齊氏は語る。

校務DX支援にも本腰を入れる。「校務DX初めの第一歩」と名づけたサービスパッケージは、複雑に絡み合う校務DXの入口の難しさに着目し、まずネットワーク環境を校務DXに耐えられるよう冗長化することに絞って設計したものだ。2026年第2四半期には共同検証実験を実施する予定でいる。

「Better being」 
より良き社会へ、エレコムの使命 

一連の取り組みを貫く哲学について、安齊氏はこう語る。「エレコムの企業文化として、健全に儲けるということが大事にされている一方で、それをきちんと社会に還元していくという考えがあります。特に教育やクオリティ・オブ・ライフというところで、極力なるべく不公平なく、全ての方にある一定水準のものを享受していただくべきだという思いが根底にある。すばらしいクラウドサービスやSIerのパッケージは世の中にありますが、数千万円するものですと自治体の予算感や補助金の額によって差が出てしまう。ビジネスインパクトというよりも、より不公平なく教育を受ける環境を、エレコムグループの設備やソリューションでなるべく広く届けさせていただきたいというのが根底にあると思います」

創業者・葉田順治会長が設立した財団をはじめ、エレコムは、建築家・隈研吾氏が設計した児童養護施設の建設など、教育・福祉の各分野で社会への還元を続けている。医療の領域では、医師の肩書も持つ葉田甲太執行役員が、医療の知見とエレコムの製品力を掛け合わせた取り組みを進める。防災・教育・医療—それらはすべてエレコムがパーパスとして掲げる「Better being」を実現し、より良き社会を目指して「いかに皆さんの生活水準を不公平なく高めるか」という一本の軸でつながっている。

教育現場を歩き、子どもたちの使う姿を観察し、研究者と議論し、製品とサービスに落とし込む。その地道なサイクルが、エレコムを「周辺機器メーカー」から「教育環境の設計者」へと変えつつある。