まちづくりと小さな成功体験が若者のシティズンシップを育む

2015年に発足したNPO法人わかもののまちは、静岡県内はもちろん、県外の様々な地域で、子ども・若者の地域社会や政治への参画を広める活動を展開。代表理事を務める土肥潤也氏に、「高校生まちづくりスクール」など同法人の取組みや、シティズンシップ教育の重要性を聞いた。

“できる”“変えられる”
小さな成功体験を積み上げる

土肥 潤也

土肥 潤也

NPO法人わかもののまち 代表理事
静岡県焼津市生まれ。早稲田大学社会科学研究科修士課程修了、修士(社会科学)。2015年に、NPO法人わかもののまちを設立。2020年に、一般社団法人トリナスを共同創業、現在は代表理事。静岡県内を中心に、わかもの会議やユースセンターの発足・運営に携わり、全国各地で子ども・若者の地域参加、政治参加に関わる研修や実践支援に取り組む。2023年10月に株式会社C&Yパートナーズを起業、同社代表取締役。こども家庭審議会委員、元内閣府 若者円卓会議 委員、元子供・若者育成支援推進のための有識者会議 構成員。

2015年に発足したNPO法人わかもののまちは、静岡県内はもちろん、2018年からは全国の様々な地域で、子ども・若者の地域社会や政治への参画を広める活動を展開している。

代表理事を務める土肥潤也氏は、「急速に進む人口減少社会のなかで、地域課題を全て行政任せにできる時代は終わり、自分たちの地域の課題は自分たちで解決する時代となっています。また、デジタル化の進展やAIの台頭で社会が複雑多様化する中、人には社会的な合意形成を築く力がより強く求められるようになっています」と話す。

一般に主権者教育や市民性教育と訳されるシティズンシップ教育は、1人の市民として自己を確立していく、社会をつくる主体としての市民を育てていくための教育だ。同法人では、特に「成功体験をいかに作っていくか」を重視している。

「例えば、高校生の主権者教育で、“あなたたちは市民で主権者であり、社会を構成する一員”だと。“だから社会に参画しましょう”といきなり言われても、なかなかそうは思えない現状があります」

例えば、生徒会活動は各学校で行われているが、多くが形骸化しており、自分たちの力で自分たちの学校を変える経験を、できていない生徒も多いだろう。

「身近な社会、地域を自分たちで変える。あるいは、もっと些細なことでもよいので、そうした成功体験を小さくてもいいから積み上げていく。“できる”“変えられる”という経験を積み上げていくことで、子どもや若者の地域社会への参画を促していければと思います」

社会の課題解決へ向け
自ら考え、行動する力を

わかもののまちでは2017年から「高校生まちづくりスクール」を運営している。高校生1人ひとりの興味関心から地域課題を発見し、解決に向けて取り組むワークショップ形式のプログラムだ。静岡市でスタートし、菊川市、磐田市の県内をはじめ、愛知県名古屋市、茨城県東海村など県外にも広がっている。

1人ひとりの興味関心から地域課題を発見し、解決に向けて取り組むワークショップ形式のプログラム「高校生まちづくりスクール」の様子。小さな成功体験がシティズンシップを育む

プログラムの構成は地域によって異なるが、手上げ式で参加する高校生を募り、約半年間で6回ほどのワークショップを開催する。

「基本的には学校の外へ出て、地域の大人とたくさん出会う場を作ることを大切にしています」

プログラムでは、行動しながら仮説を実証していくという、アクション・リサーチの方法論をとっている。

地域をリサーチした上で、高校生自らが課題とその解決へ向けた仮説を立て、立てた仮説に対して実証するプロセスとしてアクションを起こし、結果を検証・振り返る。その振り返りをもとに、再度サイクルを回していく。

静岡市で行ったプログラムではこれまで、「LGBTQへの理解」、「障がいのある子が通える学校」、「静岡市の観光促進」、「タトゥーへの偏見をなくす」、「ゴミを“少ない”から“ゼロ”に」、「林業問題を身近に」など、幅広いテーマに対し、高校生自らが課題解決へ向けたプロジェクトに挑んできた。

「成功体験という意味では、実際に社会を動かせたといった社会的なインパクトを出せればベストですが、プログラムに参加する高校生は、もう少し手前で成功体験を感じているようです」

例えば、自分が考えたプランに対し、地域の大人が耳を傾けてくれる。そんな些細なことでも、子どもたちにとっては大きな成功体験となっていると土肥氏は話す。

この他、静岡市のプログラムに参加し、市の投票率向上に取り組んだ女子高生2人組は、“この活動が原体験になった”と、その後、ウクライナ戦争の勃発を機に、平和活動として高校の仲間と共にクラウドファンディングを立ち上げ、100万円ほどを集めたという。

菊川市を1つのモデルに
わかもののまちの生態系づくりへ

高校生まちづくりスクールを県外に展開する一方で、NPO法人として注力しているのが「わかもののまちの生態系づくり」だという。

「高校生まちづくりスクールでは、参加できる高校生の数が限られてしまいます。より多様な子ども・若者の地域への参画を進めるため、まち全体を〈わかもののまち〉にしていく取り組みにチャレンジしています」

2017年4月には、日本版ローカル・ユースカウンシル・プロジェクトを開始。ユースカウンシルとは、「その地域に住む若者たちの声を集め、地域の若者をエンパワメントし、地域を変えるための協議体」のことで、日本語では「わかもの会議」「若者議会」「若者協議会」などと訳される。同プロジェクトでは、欧州を中心に広がるユースカウンシルの考え方と方法をもとに、「日本版ローカル・ユースカウンシル」を開発・普及するのが目的だ。

直近では、菊川市で2023年6月に市民、学校、企業、行政と連携し「市こども・わかもの参画協議会」を組織。同協議会では、市内の高校生や大学生らが委員の3分の1を占め、子どもや若者の社会参画の意義や在り方などを大人たちと共に議論。5回に渡る会議を重ね、11月に市内で開かれた「わかもののまちサミット2023」では、全国に先駆けて「菊川市こども・わかもの参画宣言」を発表した。

土肥氏が、ユースカウンシル視察で若者の社会参加が進むスウェーデンへ行って学んだのは、「多様な取り組みがまちのあちこちにあり、生態系のようになっていること」だった。

菊川市はもともと、小中高大生のまちづくり参加への取り組みが盛んな地域。「菊川市こども・わかもの参画宣言」、「高校生まちづくりスクール」など、多様な取組みをさらに加速し、わかもののまちの生態系を作っていく。

「人口規模5万人以下の菊川市は、全国へ横展開する上でのモデルとしてはピッタリです。菊川市を1つのモデル地域として横展開していくことで、わかもののまちの生態系づくりを、全国へ広げていく。子どもや若者の声が届くまちづくりのエコシステムを構築していきたいと考えています」