オンラインと実地で切り拓く 国際交流教育の最前線

With The Worldは「世界の果てまで教育を届け続ける」をミッションに、オンライン国際交流から海外研修まで、国境を越えた協働学習の場を創出。世界67カ国と国内の学校を結び年間約2万人に学びの機会を提供。代表取締役の五十嵐駿太氏に起業の原点や事業の強みなど話を聞いた。

世界と学び合う教育を届ける
若き起業家の原点

五十嵐 駿太

五十嵐 駿太

株式会社With The World 代表取締役社長
大学在学中は硬式テニス部に所属。部活動引退後、TV番組で教育活動を行っていた日本人に感化され、話を聞きにフィリピンへ訪問。個人テニスコーチとして、ラケット約100本など必要な道具の寄付をSNSで募り、子どもたちにマナーなども交えながら指導。学校に行くことのできない子どもたちの覚えの良さや真面目な学習意欲が高いことを知る一方で、スラムの状況をあまり知らない地元の子どもたちが多くいることを知る。大学卒業後、大手人材会社に入社し、6つの新規事業立上げに参画。その後、2018年に株式会社With The Worldを創業。

「世界各地の学校を繋ぎ合わせ、国境の垣根を超えた協同学習を当たり前に行い、友達を作ることは、いつか戦争のない平和な世に繋がるのではないか」。Facebookの固定投稿に、そう記すのはWith The World代表取締役の五十嵐駿太氏だ。同社は2018年の設立以来、学校・教育機関向けにオンライン国際交流プログラムを展開。現在は世界67カ国546校と日本の200校をつなぎ、年間約2万人の生徒に学びの機会を提供している。

起業の原点は、学生時代にテレビ番組で見た「海外で教育に携わる日本人」の姿にある。彼らに会うために訪れたフィリピンで、都市部に暮らす子どもたちが、すぐそばのスラム街についてほとんど知らないという現実に衝撃を受けた。

この経験を通じて、「地域課題に向き合う若者を育てたい」という思いが芽生えた。

「教育事業での起業を目指し、大手人材企業で社内ベンチャー制度にも挑戦しました。最終的には、関西学院高等部との出会いをきっかけに独立し、同校が当社オンライン国際交流プログラム初の導入校となってくれました」

オンライン国際交流プログラムは、世界67カ国546校と日本の200校をつなぎ、年間約2万人の生徒に学びの機会を提供している。

事業が大きく動いたのは2020年。コロナ禍で急速に整備されたICT環境を背景に、オンライン国際交流の需要が高まった。さらに追い風となったのが、政府が掲げた「J-MIRAI(未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ)」の存在だ。2033年までに日本人学生の海外派遣50万人、外国人留学生の受け入れ40万人という目標が示され、国際教育の充実は国家的な課題となった。

J-MIRAIは主に高等教育機関を対象とした施策だが、五十嵐氏はその方針を「教育の国際化」全体の潮流として捉え、「初等・中等教育の現場でも、オンラインを活用した国際協働学習は、その潮流の一翼を担う中核的手段になるはずです」と語る。

年間計画に合わせた
テーラーメイド設計が強み

事業の中核を担うのは、探究型のオンライン国際交流プログラムだ。単なる語学体験にとどまらず、同世代同士のつながりを起点とした協働学習を特徴とし、学校行事や地域活動と連動させたテーラーメイド型の年間プログラムとして構成されている。対象は小学生から大学生までと幅広いが、メインは中高生。プログラムの内容は年齢や発達段階に応じて柔軟に設計する。

小学生は英語への苦手意識が芽生える前段階で、外国語活動の一環として「絵の交換」など非言語的な交流からスタートする。

中学生になると、「学んだ英語で、どう友達になるか」「成果物をどう協力してつくるか」といった目的志向の交流へと進化する。高校生・大学生には、SDGsなどの社会課題を軸とした探究学習を展開する。

「例えば、ジェンダーに関心を持つ生徒は、なぜそのテーマを選んだのか、課題の背景にある構造や地域性、必要とされるアクションについて、毎回異なる国の同世代と対話を重ねながら、1年かけて学びを深めていきます。交流の相手国は英語を第二言語とする非ネイティブ圏が中心。完璧な英語でなくても『伝えたい』という気持ちが高まりやすく、生徒たちは臆せず発言しやすくなるからです」

こうした設計を支えているのが、授業のファシリテーション役として活躍する、約100人のバイリンガル大学生アシスタントだ。事前に14種類以上の社内研修プログラムを受け、スキルを磨いた上で現場に立つ。

実際の授業では、生徒4〜5人のグループごとに大学生メンターが1名ずつ配置され、生徒の今日の目的などを丁寧にヒアリングし、各々に合わせたサポートを行う。交流は通常2回実施され、途中に振り返りの機会を設けて学びを深める。大学生は単なるサポーターではなく、進路相談にも応じる伴走型メンターとして、生徒の視野を広げている。

また、教員との連携も密に行われる。授業前の準備段階では「この国際交流が成功と言える状態とは何か」を共有し、共通のゴールを設計。授業当日は、生徒のアウトプットや反応を観察しながら、準備内容との照合や必要に応じたサポートを担っている。

なお、このプログラムは、日本側の授業料のみで運営され、売上の一部は五十嵐氏が原体験を得たフィリピンやアフリカへの教育支援に還元される。例えば、アフリカ・ザンビアとのオンライン授業では、HIV孤児と日本の高校生がリアルタイムで交流。授業料の一部をザンビアの教育支援に還元した。

授業費用の売上の一部を世界各国の教育支援に繋げている。例えば、フィリピンのごみ処理場のある村に食料・就学支援、図書館・ウォーターポンプの設営や、ザンビアで教室建設などを展開している。

「授業料から30万円を投じて現地に教室を建設しました。オンラインでつながった相手に、自分たちの送ったお金が確かに届いたという実感を得たとき、生徒たちは『お金をどう使えば本当に意味のある支援になるのか』を、自分ごととして考えるようになります。画面越しに育まれた友情と対話が、現地でインフラという形を持って可視化される。この実感こそが、生徒の意識を変える強い原動力になるのです」

海外研修プログラムで
オンライン交流を発展

画面越しの出会いを、リアルな交流へと発展させる海外研修プログラムも用意している。実際、授業に参加した生徒の約9割が「海外に行きたい」と回答し、その多くが「オンラインで出会った友達に会いたい」と話すという。こうして培われた信頼関係をもとに、現地ではハグから始まり、文化交流やフィールドワークに自然に入り込める。これは形式的な国際交流とは異なる、関心ベースでつながった協働の学びと言える。

訪問先は台湾、ベトナム、オーストラリア、フィリピン、タイなど。フィリピンでは、東京ドーム5~6個分相当の巨大なゴミ処理場の隣村を訪れ、現地の住民や大学生と協働で課題を探り、「自分たちに何ができるか」を考えるフィールドワークを実施。費用の一部は寄付金として積み立てられ、食糧支援や家屋の再建、子どもたちの就学支援に充てている。

画面越しの出会いを、リアルな交流へと発展させる海外研修プログラム。対面で互いの文化を直接理解し絆を深めながら、現地に足を運び、SDGsや貧困など「社会問題のリアル」を目にすることで、より学びを深めることができる。

訪問先は台湾、ベトナム、オーストラリア、フィリピン、タイなど。フィリピンでは、巨大なゴミ処理場の隣村を訪れ、現地の住民や大学生と協働で課題を探り、「自分たちに何ができるか」を考えるフィールドワークを実施した。

年間プログラムの集大成として実施されるのが「世界合同プレゼンテーション」だ。これは世界中の中高生が自国や地域の課題を題材に、5年以内に実現可能な解決策を英語で発表する国際大会。2025年は国連のスポンサーを受けて実施され、さらなる注目を集めた。発表テーマは「発がん性」「ジェンダー」「地震対策」など多岐にわたり、選考を通過した国内外のチームが登壇する。

プレゼン後のディスカッションを含めて評価され、部門賞や優勝校が選出される仕組みだ。2023年度は15カ国・60チームが参加。日本からは14校が出場し、奄美市立金久中学校が「アマミノクロウサギの交通事故死」対策をテーマに、日本部門で優勝を果たした。

こうした取り組みの背景には「社会とつながることで、自己効力感と自己肯定感が育つ」という考え方がある。

「神戸大学との共同研究では、生徒の発言を継続的に記録・分析した結果、『できなかった』などのネガティブな言葉から、『次はこうしたい』と前向きな表現に変化したことが分かりました。さらに、発話量も増加し、失敗を恐れず挑戦を楽しむ姿勢が見られるようになりました」

企業や自治体との協働も重要な柱だ。例えば富山情報ビジネス専門学校では、ご当地ラーメンをインドネシア市場に展開する商品開発プロジェクトを実施。地域企業と海外の学生をつなぎ、文化や宗教的配慮を踏まえたマーケティングを体験的に学んだ。

こうした活動の成果として、導入校の約9割が翌年もプログラムを継続している。導入校の内訳は私立と公立でほぼ半々。公立校では自治体との連携により、地域格差のない参加機会の提供が進んでいる。また、経済産業省の補助金制度「探究・校務改革支援補助金2025」を活用し、学校の費用負担を軽減するモデルも整えている。

教育格差を越えて
日本型教育の海外輸出も視野に

With The Worldは新たな試みも開始。品川区と連携し、メタバース空間を活用した不登校支援に取り組んでいる。東京都の「バーチャル・ラーニング・プラットフォーム」事業の一環で、オンライン学習支援を担う城南進学研究社などと連携して運営している。

「この事業を始める前、『人生をリセットしたい』と語ったある生徒は、日本の学校で居場所を見つけられず、高校を中退しました。その後、試行的に始めたメタバース空間を通じた国際交流を経て、バリ島の高校に編入し、知らない国の、知らない言語を話す同世代と関わる中で、“新しい自分”としての一歩を踏み出したのです。国際交流は、そんな人生の再スタートを後押しする力があると実感しました。現在、その生徒はジャカルタの大学に通いながら、交換留学生として東京の大学に通っています」

今後は、学校や自治体のニーズに応じて全国展開を目指す方針だ。

さらに、文部科学省「日本型教育の海外展開(EDU-Portニッポン)」事業への申請も検討している。今後は海外の教育現場にも足を運び、現地ニーズを吸収。それを日本と共有する双方向型の連携フェーズへと舵を切る。その一環として、世界中の学校同士が自由につながるオンラインプラットフォームの開発も進行中だ。学校が自校の情報を登録すると、条件に合った海外校を検索・選択し、直接オファーを出せる仕組みを予定している。

また、2025年4月から開催している大阪・関西万博では、大阪ヘルスケアパビリオンに出展し、「教育格差を越える国際交流」の実践事例を紹介。「世界の果てまで教育を届ける」という同社のミッションを、来場者に広く発信した。国も文化も越えて学び合う機会を、一人でも多くの子どもたちに――With The Worldの挑戦は、これからも続いていく。