コレクティブ・エフィカシー─自立的で相互依存的な学習者を育てる
「コレクティブ・エフィカシー」とは何か。この言葉を初めて耳にする読者もいるだろう。これはカナダの心理学者アルバート・バンデューラが考案した用語で、「他の人と一緒に行動することで、より多くを学ぶことができる」という生徒の信念を意味するのだという。言い換えれば、「個々が一致団結して課題を克服し、意図した結果を出すことができるという信念を共有するグループは、より効力を発揮する」となる。例えば、企業においては、チームメンバーがチームの能力について肯定的な信念を持っている場合、創造性と生産性が高まる、という具合だ。
どうすれば、このコレクティブ・エフィカシーを高め、教育現場において、よりよい学びを確保することができるのか。本書では「私」スキルと「私たち」スキルに分類して解説している。多くの生徒にとって、集団で活動する学習は当たり前のことではない。自分自身との向き合い方や他者とのかかわり方、共有したり与えたりすることや、他者から学ぶことの認識に乏しい場合にも、生徒がグループの取り組みや成功を確実にするために貢献するスキルや確信をもてるようにすることが大切だと本書は述べる。そのために先の2つのスキルをいかに高めるべきかが詳述されている。
さらに、生徒がコレクティブ・エフィカシーを発揮する機会を確保するための学習設計と授業準備のあり方についても、豊富な具体例が示されている。集団内での生徒の役割や最適なグループサイズなど、コレクティブ・エフィカシーにまつわるスキルの価値を最大化するために、教育者が利用できる重要な方式も明示されている。
「アクティブラーニング」や「主体的・対話的で深い学び」が盛んに言われる昨今、授業にペアワークやグループワークを取り入れている教師も多いはずだ。本書を通し、それらがコレクティブ・エフィカシーのスキルを伸ばすための手段であると明確に位置づけられれば、いっそう深い学びの機会を創出できるのではないか。
翻訳書ならではのボリューム感のある本書だが、まずは「Point!」として強調されている最重要箇所を拾い読みするだけでも、コレクティブ・エフィカシーの概略が理解できるだろう。原書の刊行は2021年と新しい。そのため、随所に「オンライン授業では」というコラムが設けられているのも実践的だ。本書を読めば、コレクティブ・エフィカシーこそが子どもたちの学びを力強く育む。そう確信できるだろう。
新刊一覧
●学校教育一般
学習者主体の「学びの質」を保証する
2030年の学校教育を見据えた子どもと教師の学びの姿とは?
中田 正弘、坂田 哲人、町支 大祐 著/192頁/2100円+税/東洋館出版社
改訂版 学びの技
14歳からの探究・論文・プレゼンテーション
登本 洋子、伊藤 史織、後藤 芳文 著/168頁/1800円+税/玉川大学出版部
学校組織の中でトラが吠える
最強の生き方改革
樋口 万太郎 著/162頁/2300円+税/学芸みらい社
●幼児教育
ぐんぐん生きる力を育むよみきかせできるよ!のお話25
「できるよ!のお話25」チーム(東京大学CEDEP)監修、ささきあり 著/264頁/1600円+税/西東社
保育者のための
気になる子が複数いるクラスの整え方
多層的なかかわりで子どもたちが落ち着く・まとまる
柳田 めぐみ 著/128頁/2000円+税/中央法規出版
「こどもかいぎ」のトリセツ
すぐできる!対話力を育む保育
豪田 トモ 著、成川宏子 監修/184頁/2400円+税/中央法規出版
人と人とがつながりあえる知と身体
保育・身体・中動態
田代 和美 著/128頁/1400円+税/子どもの未来社
●特別支援教育
発達「障害」でなくなる日
朝日新聞取材班 著/224頁/891円+税/朝日新聞出版
発達障害児を育てるということ
柴田 哲、柴田 コウ 著/328頁/960円+税/光文社
〝関係支援〟を核とした学級づくり
「特別でない」特別支援教育をめざして
拝野 佳生 著/224頁/2000円+税/解放出版社
図解でわかる障害児・難病児サービス
二本柳 覚 著/266頁/2200円+税/中央法規出版
●人材育成・マネジメント
失敗しない人事制度の運用のしかた
小林 傑、山田 博之、野崎 洸太郎 著/180頁/2200円+税/ディスカヴァー・トゥエンティワン
中小企業も実践できる
従業員エンゲージメントの教科書
志田 貴史 著/196頁/2400円+税/中央経済社
静かなリーダーが心理的安全性をつくる
川野 いずみ 著/206頁/1780円+税/クロスメディア・パブリッシング
業績を最大化させる
現場が動くマネジメント
中尾 隆一郎 著/256頁/1800円+税/フォレスト出版
●その他
勉強ができる子は何が違うのか
榎本 博明 著/176頁/800円+税/筑摩書房
10才からの自信をもつ方法
高濱 正伸 監修、深蔵 マンガ/160頁/980円+税/永岡書店
注目の一冊
「森のようちえん」が注目を集めている。自然の中で子どもを信じて待つ、新しい幼児教育・保育のスタイルだ。北欧発祥とされ、今では日本全国で約300カ所が開園している。
自然環境で過ごすと、子どものどんな力が伸びるのか。信じて待つことが、なぜ必要なのか。本書では、野外保育40年の編著者による森のようちえん論に加え、第1次森のようちえんブームをつくった17園の創設者たちがその魅力を存分に語る。オールカラーで写真も多数収録。伸びやかな子どもたちの様子が伝わってくる。