遠隔教育の「公平性」から多様な学びの実現を目指す
少子化が加速する中、高校の小規模化に伴い専門科目を開設できないなど、地域では教育課題が山積している。こうした課題解決に向けて、ビデオ会議ソリューション企業Neatframeでは自治体の遠隔教育インフラ構築を支援している。支援窓口開設の経緯など話を聞いた。
文科省が進める高校教育改革
知見を活かし相談窓口を開設
Neatframe株式会社代表取締役の柳澤久永氏(右)と同社小野香織氏(左)
ノルウェーに本社を置くビデオ会議ソリューションブランド「Neat」を展開するNeatframeは2019年の設立以来、「人と人の遠隔コミュニケーションをシンプルに実現する」ことをミッションに掲げ、90か国・50万台の販売実績を持つ。
日本法人代表の柳澤久永氏は「同じ部屋にいる人とリモートで話す人との体験をイコールにしたい。それが当社の原点です。設立直後はコロナ禍もあり、対面とリモート参加者間で生じる『会議の見え方・聞こえ方の差』を解消する『公平性』の実現をより大事にしています」と話す。
当初は企業の会議室をテーマに製品開発を進めていたが、コロナ禍でいち早く強いニーズが生まれたのが教育現場だった。以来、国内外の教育機関において遠隔教育環境の構築支援の実績を積み上げてきた。
文部科学省は2026年2月、「高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)~2040年に向けた『N-E.X.Tハイスクール構想~』」を公表。改革のための基金を都道府県に造成し、先導的な学びの在り方を構築する高校(改革先導拠点)を創設する。
パイロットケースとなる改革先導拠点は以下の3類型を示している。
類型1:アドバンスト・エッセンシャルワーカー等育成支援
類型2:理数系人材育成支援
類型3:多様な学習ニーズに対応した教育機会の確保
文科省では1都道府県あたり最大62億円程度の予算を確保し、26年2月から「産業イノベーション人材育成等に資する高等学校等教育改革促進事業」として各都道府県に向けた公募を開始。類型3では学校間連携や遠隔授業等を活用した教育機会の確保などが想定されている。
こうした状況を受け、同社は26年1月に「N-E.X.T.ハイスクール遠隔教育インフラ構築支援窓口」を開設。背景には自治体の担当者と対話する中で「どうしたらいいかわからない」という孤立感を抱える声が多かったからだ。「私たちの知見を活かしてお役に立てると考え、支援窓口を立ち上げました」と柳澤氏は話す。
支援窓口では①学校環境診断・最適設計に関する相談、②実地デモンストレーション・体験会の実施支援、③導入校等との事例共有会(座談会)企画支援、④オンライン相談窓口・技術Q&A対応、⑤導入後フォローアップ・活用促進相談と5つの支援内容を提供している。
「誰でも簡単に使える」強み
音質への4つのこだわり
高機能会議システムを提供する「Neatデバイス」(Neat Bar Pro、Neat Board Pro、Neat Pad、Neat Frame)は遠方の生徒と教員が、同じ空間にいるかのように感じられる映像と音声のソリューションを、誰でも使える簡単な方法で提供する。都道府県では大分県教育庁が2025年4月に開所した遠隔教育配信センターでの導入を皮切りに青森県、三重県、北海道で導入されている。
例えば三重県教育委員会ではNeatのビデオ会議デバイスを県総合教育センター内に整備する遠隔授業配信センターで導入した。三重県では学校規模の縮小や教員定数の減少により、特に小規模校で「数学Ⅱ・物理」等の講座開設が難しくなるなど、学びの選択肢が限られやすい課題があった。こうした課題を背景に、学校の規模や所在地にかかわらず、すべての生徒が多様な学びを選択できる環境整備が進められている。
「Neat デバイス」を導入した三重県教育委員会の遠隔授業配信センター内の様子。
「Neatデバイス」は遠方の生徒と教員が同じ空間にいるかのように感じられる映像と音声のソリューションを、誰でも使える簡単な方法で提供。
Neatデバイス採用の決め手は「教員が機器操作に煩わされないこと」「映像・音声品質が安定していること」「セットアップが簡便であること」の3つの観点だったという。
特に力を入れるのが「音」へのこだわりだ。同社の教育分野を担当するビジネスアライアンスマネージャーの小野香織氏は「授業ですから音の品質は非常に重要です」と話す。その特長は大きく4つ。教室奥の生徒の声もしっかり拾える高い集音性、人の声を通しながらノイズのみをカットするノイズキャンセル機能、教員と生徒が同時に話しても音が途切れない同時発話対応、教室の前後で声の大きさが異なっても均一なボリュームに自動調整するバランス機能だ。
三重県は大分県・北海道等の先行事例を視察して導入を決めたという。「喫緊に解決すべき課題を目の前に、実証済みのモデルをそのまま活用すれば、一早く始められるので先行事例の真似は非常に効果的だと思います」と小野氏は指摘する。
遠隔教育の可能性は広い
最初の一歩を踏み出すこと
先の支援窓口を開設して見えてきた自治体の課題がある。「遠隔教育」という言葉が固定的なイメージで捉えられ、その可能性が狭く理解されていることだ。
「不登校対策や入院中の子どもへの対応、学校間連携、日本語を母語としない子どもたちへの日本語指導、海外の学校と連携した英語授業など、遠隔教育が活きる場面は幅広くあります」と柳澤氏は指摘する。
デバイスの進化も目覚ましい。360度カメラ・マイク「Neat Center」を例に挙げると、教員や生徒が黒板の前に立つと自動でカメラが切り替わる。こうした機能を実体験すると、教員から「すぐに使いたい」という反応が返ってくるという。
ただ、遠隔教育は機器を整えるだけでは成立しにくく、教室音響・映像・ネットワーク・運用ルール・教員負荷など、複数要素を同時に設計する必要がある。柳澤氏が特に留意を促すのが「音響設計」だ。
「例えば、建物内に複数の配信ブースを作る場合、天井の配管が全て繋がっていることがあります。ある部屋で行われている授業の音が配管を通じて隣の部屋に漏れてしまうケースも実際にあり注意が必要です」
そして設備設計以上に自治体には「どんな授業を実現したいか」「子どもたちにどんな学びを提供したいか」に集中してほしいと柳澤氏は呼びかける。「自治体ごとに課題は違います。不登校対策からスタートする自治体も、学校間連携からスタートする自治体も、どこからでも当社の製品ラインナップでカバーできるよう設計しています。小規模な製品から始めて、後で大きな製品が必要になってもアーキテクチャが共通なので追加導入も容易です。最初の一歩さえ踏み出していただければ」と柳澤氏は力を込める。各自治体も一度使い始めると「次はこんなことをやってみたい」という声が次々と生まれてくるという。Neatは機器を届けるだけでなく、導入後も伴走するパートナーであり続けることを目指す。学びの公平性を地域に根付かせるための挑戦は、これからが本番だ。