国境を越え響き合う協働学習 すべての生徒に世界の扉を開く

「すべての生徒が異文化交流を経験できる世界」を創出すべく、AirPangaeaは中高生に向けた国際協働学習プラットフォームを展開。オンラインによる異文化交流やSDGsをテーマにしたプログラムで「世界が身近にある」という実感と自律的な学びを引き出していく。

次世代に国際的視野を
機会格差への危惧を原点に

明石 剛

明石 剛

株式会社AirPangaea 代表取締役
京都大学大学院工学研究科修了、米クレアモント大学院大学ドラッカースクールMBA修了(ベータ・ガンマ・シグマ会員)。NECで事業開発やベンチャー投資に従事。リクルートに入社し投資委員会事務局長などを務めた後、買収先TrustYouの経営統合のためドイツに駐在。帰国後、グローバル教育事業 Quipper(スタディサプリ海外版)にグローバル財務責任者として参画。2020年、インドネシアの友人Fikri Akbar氏とAirPangaeaを共同創業し、2022年に同社を設立。同社は日本ESD学会の団体会員。テクノロジーと教育の融合による国際協働の機会提供に尽力している。

文部科学省の2025年度補正予算では、「高等学校教育改革の推進」における3つの柱の一つに「国際交流・留学プログラム構築推進事業」を盛り込み、グローバル人材育成に向けて高校生の国際交流を推進している。在留外国人増加など急速な国際化を背景に、多様な価値観に触れながら多文化共生力を培い、世界で活躍するグローバル人材の育成を目指すものだ。同事業を通じて、国際交流や留学プログラムなど、環境整備に係る経費の支援を予定している。

「世界の学校をつなぎ、次世代に『国際協働』の体験を」というミッションを掲げるAirPangaea(エアパンゲア)は、中学校・高等学校に向けた国際協働学習プラットフォーム「Global School Gateway (GSG)」を提供している。

日本の中高生とアジアの同世代からなる少人数のグループがオンラインで交流、課題に取り組むなど共に学び合うプログラムだ。

代表取締役の明石剛氏は、2020年にインドネシアの友人Fikri Akbar氏と共同創業し、2022年に法人化した。社名である「エアパンゲア」は、2億年前に存在した巨大なパンゲア大陸に由来している。テクノロジーで再び世界を一つにつなぎ、国境を意識せずに学び合える教育インフラ「越境型オンラインキャンパス」の実現を目指すという。

明石氏の原体験は、大学院時代の1990年代後半に遡る。当時は海外に無関心な理系学生で、「20万円あるなら旅行よりパソコンを買いたい」と考えていたが、友人に半ば強引に誘われ、3週間のトルコ放浪旅行に行ったという。

「空港に降り立った瞬間、イスラム圏特有の熱気と強烈なタクシー勧誘に圧倒されました。街を歩けば商品を売りこむ子どもたちが後をついてくるし、トルコ人とクルド人が激しく衝突している光景にも遭遇しました。最も衝撃を受けたのはハイパーインフレーションです。到着時に空港で70万トルコリラだったホットチョコレートが、わずか3週間後の帰国時には倍に跳ね上がっていたのです。これらの現実は、日本にいては決して知り得ないものでした」

この偶然の旅が明石氏の人生観を大きく変えた。世界に目を向ける必要性を強く感じ、その後のグローバルキャリアへとつながっていく。同時に、その頃から、日本の教育現場に対する強い違和感も覚えていたという。

「ドイツ赴任中に娘を本帰国させる時にも感じたのですが、日本の教育システムでは、異文化に触れる機会は親の経済力や偶然の出会いに依存しています。外務省の旅券統計をもとにした試算では、日本の19歳以下のパスポート保有率は3割にも満たないと推測され、相当数の若者が異文化に触れないまま社会に出る。すべての生徒が異文化交流を経験できる世界を創りたいと思い至り、それが創業の原点になったのです」

1対1の対話が育む自己効力感
言語の壁を越える独自の仕組み

国際協働学習プラットフォームGSGは、学校のカリキュラムに応じて自在に構成できる、2つのプログラムを主軸としている。一つは、ライトな異文化交流を目的とした「TOMODACHIプログラム」だ。

標準的なモデルでは、日本とアジアの学校をオンラインで繋いで、45分×8日間(授業時間活用)または90分×4日間(放課後活用)のプログラムを約半年間かけて実施する。各国から文化紹介・学校紹介を行った後は、少人数(3〜4人)のグループに分かれて、テーマに沿った意見交換などで交流を深めていく。最大の特長は、多くの国際交流プログラムでは採用されにくい1対1の交流も取り入れている点だ。

「TOMODACHIプログラム」でグループ交流をする日本とインドネシアの高校生たち。

交流中の日本の学校の教室の様子(写真は徳島北高等学校)。

「グループ交流では、英語が得意な生徒だけが話し、他の生徒が萎縮して一歩引いてしまうことがよくあります。私自身もグループの中では積極的に英語を話せないタイプでした。しかし、1対1の環境であれば、生徒たちはミスを恐れず拙い英語でも伝えようとします。同世代ならではの共感・親近感を感じながら、『伝わった』という成功体験を積むことができます。これが生徒の自己効力感を向上させるのです」

心理的ハードルを下げる工夫も徹底されている。オンライン掲示板「Padlet」を活用し、生徒たちは事前に写真と短い英文を投稿しておく。当日は画面共有しながら視覚的に会話でき、英語力に自信がない生徒の心理的負担を下げられる。また、学期をまたぐ期間設計には、交流と自己学習のサイクルを回すとともに交流相手との親交を深める狙いがある。

相手校の選定も戦略的に行っている。インドネシアなどアジア圏の優秀な学校を主なパートナーとしており、時差の少なさだけでなく、英語を「第二言語」として学ぶ者同士という対等な関係を重視しているという。

「ネイティブ相手だとどうしても『教わる側』になりがちですが、非ネイティブ同士なら対等な立場で健全な刺激を受けやすいのです。特にインドネシアの生徒は、日本語を学んでいる場合も多く、日本文化に関心が高いのが特徴です。また英語力も高いので、生徒たちにとって身近なロールモデルにもなってくれます」

2024年12月から2025年11月までに同社が実施した参加者アンケートでは、95%以上の参加者が「英語学習のモチベーションが向上した」と回答している。実社会で英語を使う実践経験が、日々の学習意欲に直結していることがうかがえた。

探究学習でSDGs課題に対峙
深化する越境協働体験

もう一つは、より踏み込んだ探究を行うSDGs国際協働学習「MOTTAINAIプログラム」だ。異文化交流の次のステップとして、段階的に選べる設計となっている。

こちらは日本と海外の生徒3名ずつ計6名の混成チームを組み、6〜12週間にわたって特定の社会課題について議論・調査を行い、最終的に英語での発表に至る流れだ。

「もったいない」という日本語のコンセプトを基に、身近な給食の食品廃棄などを入口に地球規模の天然資源の保全・課題へと視野を広げていく。生徒たちはGoogle スライドやCanvaで共同編集しながら両国の実態を比較し、改善策を検討する。

海外の生徒と議論を進めるにはある程度の英語力が必要になるため、参加者には英検2級以上の語学力が推奨されている。

「単なる交流を超えて、共通の課題に挑む国際協働学習(COIL:Collaborative Online International Learning)です。このPBL(課題解決型学習)のプロセスを通じて、地球規模の課題を自分ごととして捉える視座が養われます。環境問題などのテーマを英語で議論し発表するのは高いハードルですが、それを乗り越えた時には大きな達成感があります。受講後のアンケートでも、相互理解や英語学習意欲の向上、地球規模課題への関心の高まりが示されています」

GSGは学校のニーズに合わせて柔軟なカスタマイズにも対応している。例えば、HR高等学院とは、1年間に5カ国のアジア諸国をオンラインで巡り交流を行う「ASIANリーダーズ・プログラム」を発表。複数の異文化圏の同世代と継続的な対話を重ねることで、アジア諸国の多様な価値観への理解を深め、グローバル人材に必要な国際的視野を育んでいく。

プロジェクトを通して、教員側の意識も顕著に変化するという。普段の授業では消極的な生徒が海外の同世代を前に生き生きと話す姿を見て、驚く教員は少なくない。

「オンライン国際交流は、細かな日程調整に加え、国内外の生徒の急な欠席や回線トラブルへの対応といった煩雑な実務がつきものです。分単位の緻密な交流設計とオペレーションにより、オンライン特有の待ち時間や滞りを極力排除した交流品質を担保しています。これらを引き受けることで、先生方が生徒の見守りや教育的フォローに集中できる体制を整えています」

“世界は身近にある”を実感
越境型キャンパスの実現を

インドネシアのジャカルタ首都圏の高校(MA Pembangunan UIN Jakarta)訪問時の校長先生との様子。現地に直接赴くことで、トップから現場までの協力を得て交流の質を担保している。

AirPangaeaは、新たな取り組みとして、オンライン交流と現地訪問を組み合わせた「ハイブリッド型国際交流」を本格化させている。東京女子学園中学校高等学校(現・芝国際中学校・高等学校)とインドネシアのSMA Dwiwarna校とのプロジェクトでは、半年間にわたるオンライン協働学習で「ジャカルタの観光・魅力探究」というテーマに取り組んでいる。生徒たちは混合チームを結成し、観光地の動線・集客課題を調査。改善案を練り上げ、2026年5月に実際に現地を訪問し仮説検証を行う予定だ。現地で行うインドネシア観光省などへの提案を前提とした、英語での発表会がゴールとなる。

明石氏は、グローバル人材育成の本質は「心理的な国境をなくすことだ」と強調する。重要なのは、英語の勉強より先に「世界が身近にある」と腹落ちする体験を届けることだ。

「世界が自分にも届く場所にあると実感した瞬間、英語は勉強の目的から、自分を表現するための道具へと変わります。ひとたびその手応えを掴めば、生徒たちは自走して学び始めるでしょう。卒業後にグローバルキャリアを歩むかどうかは、本人が選べば良いことです。ただその選択肢を、家庭や学校環境で制限しないことが重要なのです」

同社は、予算やリソース・地理的制限に課題を抱える公立校や地方校も視野に入れ、「教育機会の公平性」の実現を目指している。2025年10月、徳島県教育委員会が推進するグローカルリーダー育成事業に採択され、「TOMODACHIプログラム」を開始している。

また、2026年1月には、学校の枠組みを超え、意欲ある生徒が直接参加できる「TOMODACHI留学」をリリースした。海外の生徒と親交を深めながら英語力と国際感覚を育むオンライン留学プログラムだ。今後も国境を意識せず学び合える「越境型オンラインキャンパス」の実現を見据え、蓄積した知見を学校教育へ還元していきたいと、明石氏は語る。

「自治体や国と連携し、誰もが安心してアクセスできる国際交流の共通インフラを創りたいと思っています。生徒たちが、国境を超えて多様な価値観にふれ、共に学び合うことで、多文化が自然に共生する社会の実現を目指していきます」