『学校改革――働き方を変えて、学び方を変える』

『学校改革
─働き方を変えて、学び方を変える』
本間 朋弘 著/168頁/1800円+税/時事通信社
神奈川県横浜市の横浜創英中学・高等学校では、2020年度から働き方改革を進め、いよいよ2025年度からは新しい教育課程がスタートする。本書では、2024年4月に就任した本間朋弘校長が、同校における改革を紹介しながら、学校における学び方改革と働き方改革の実践について語っている。
これからの学校は、社会で活躍するための準備の場所に変わっていかなくてはならない。社会で必要な経験の場を学校がどれだけ提供できるか、それをカリキュラムに焦点化できるか。それがこれからの学校の大きな役割だ。著者はそう強調する。理想とする学校像の実現には、教師の時間的余剰を生む働き方改革が欠かせない。そこで同校では4つの重点戦略と14の具体的な項目を定め、その多くがすでに達成されているという。
例えば戦略④として「勤務時間の適正化」をあげており、完全週休2日制を整えるためのシフト制を導入している。全員出勤日である火曜日と金曜日以外は、全体の4分の1の教師が休みとなる。互いに日常的な業務をカバーし合う必要が出てくるが、それによって横の関係性が強くなり、結果として仕事の質向上につながっているという。
また、学びを生徒主体に移譲する学び方改革も進めている。教育課程の再編成を考え抜いた結果、同校が行き着いたゴールは、高等学校における自由選択制の「超」拡大だ。2025年度から必修科目を最低限にして、教育課程の大半を自由選択科目で編成する。つまり、クラス共通の時間割がなくなり、全校生徒が1,200人いるなら、1,200通りの時間割が生まれるわけだ。生徒一人ひとりが主体的に選択しながら、自分の強みや尖りを探すことができるようになる。そうした学びからこそ、真似事ではない自分自身の正解を生み出す力が育めるという信念が背景にある。
「そんなことできるはずがない」と思う読者もいるだろう。実際、同校でも当初はそうした声が多く聞かれたという。しかし生徒一人ひとりの興味・関心や将来の方向性が違うのであれば、一人ひとり違う時間割を組むしかない。「できるかできないか」ではなく、それこそが学校が背負うべき使命だと著者は言う。
学校が未来に向けて子どもと社会をつなげる場所になってほしい。教師の仕事も未来に向けて希望に満ちあふれたものに変わってほしい。そんな思いで取り組んできた同校の改革ストーリーを読み進めるうち、「ぜひ、うちの学校でも!」と意欲が湧いてくるだろう。
新刊一覧
●教育学
フルインクルーシブ教育見聞録
イタリアの現場を訪ねて
大内 紀彦 著/248頁/2000円+税/現代書館
学校の法律がこれ1冊でわかる
教育法規便覧 令和7年版
窪田 眞二、澤田 千秋 著/624頁/4200円+税/学陽書房
●学校教育一般
学校改革5つのアクション
日本橋小は、どのようにして学校を再生したのか
児玉 大祐 著/216頁/2100円+税/東洋館出版社
挑戦し続ける学校SOLAN
自立・自律した学習者のための教育をつくる
瀬戸SOLAN学園 初等部 著/128頁/2000円+税/さくら社
集団で言葉を学ぶ/集団の言葉を学ぶ
石田 喜美 編/224頁/2800円+税/ひつじ書房
●学級経営
クラス満足度100%の学級経営アイデア
笑顔あふれるクラスへの仕掛け
樋口 万太郎 監修、島田 航大 著/152頁/2100円+税/明治図書出版
「けテぶれ」学級革命!
自分で考え、自分から動く子が育つ!
葛原 祥太 著/128頁/1950円+税/学陽書房
●ICT
ぼくたちはChatGPTをどう使うか
14歳から考えるAI時代の学び
東大カルぺ・ディエム 著、西岡 壱誠 監修/208頁/1600円+税/三笠書房
●幼児教育
大豆生田啓友対談集 保育から世界が変わる
大豆生田 啓友 著、木村 明子 聞き手/240頁/2000円+税/北大路書房
●特別支援教育
元・しくじりママが教える
不登校の子どもが本当にしてほしいこと
鈴木 理子 著/224頁/1500円+税/すばる舎
分離はやっぱり差別だよ。
人権としてのインクルーシブ教育
大谷 恭子 著、柳原 由以、黒岩 海映 編/232頁/2000円+税/現代書館
誰にも頼れない不登校の子の親のための本
野々 はなこ 著/296頁/1500円+税/あさ出版
●人材育成・マネジメント
リジェネラティブ・リーダーシップ
「再生と創発」を促し、生命力にあふれる人と組織のDNA
ローラ・ストーム、ジャイルズ・ハッチンズ 著、小林 泰紘 翻訳/480頁/3500円+税/英治出版
冒険する組織のつくりかた
「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法
安斎 勇樹 著/448頁/2400円+税/テオリア発行、ディスカヴァー・トゥエンティワン発売
センテニアルズ
“100年生きる組織”が価値をつくり続ける12の習慣
アレックス・ヒル 著、小山 竜央 監修、島藤 真澄 監訳、服部 聡子 訳/384頁/2200円+税/KADOKAWA
若手が伸びる会社が育成でやっていること
田島 一貴 著/240頁/1580円+税/クロスメディア・パブリッシング
離職防止のプロが2000人に訊いてわかった!
若手が辞める「まさか」の理由
井上 洋市朗 著/256頁/1600円+税/秀和システム
●その他
シン読解力
学力と人生を決めるもうひとつの読み方
新井 紀子 著/296頁/1800円+税/東洋経済新報社
オランダ人のシンプルですごい子育て
リナ・マエ・アコスタ、ミッシェル・ハッチソン 著、吉見・ホフストラ・真紀子 訳/328頁/ 900円+税/日本経済新聞出版
注目の一冊

『探究のコンパス
学びのデザインを変える15のヒント』
学校法人新渡戸文化学園 編著/208頁/2300円+税/明治図書出版
国際人として世界平和に尽力した新渡戸稲造が創立した新渡戸文化学園は、「未来の学校をこの世に描き出す」という目標を掲げ、2019年以来、探究学習を軸にした学びへと進化を遂げてきた。その挑戦から得られた「学びが変わる」ためのヒントと、そのノウハウを初めて言語化したのが本書だ。
「学びの舵を握るのは学び手本人」「自分の問いをもつ」など、15のヒントは非常に具体的だ。小学校から中学校・高校まで、校種別の授業デザイン案も盛り込まれ、幅広い読者に対応。未来の学びへと導くコンパスだ。