生成AIとともに育てる 外国語教育の新しい力
現在、生成AIを外国語教育に利用する試みが広まっている。そうした動きの中で、学校現場の実践から見えてきた成果と課題も踏まえ、外国語教育における可能性と教師の役割を考える。
『AIのある外国語教育』
水本 篤
関西大学外国語学部・外国語教育学研究科教授
博士(外国語教育学)。専門はAI・コーパスの教育利用、語彙学習方略、言語テスティング。2025〜2026年度文部科学省「小・中・高等学校を通じた英語教育強化事業」(AIの活用による英語教育強化事業)調整委員を務める。2026年3月『AIのある外国語教育』(松柏社)を出版。
私は3月に『AIのある外国語教育』(松柏社)を出版しました。その背景には、ChatGPTが登場した2022年末以降の急速な変化があります。生成AIの登場で、学習者は教室の外でも英文の添削や対話練習、要約、翻訳などの支援を受けられるようになりました。一方で、学校現場では「書く力が育たなくなるのではないか」「どこまで使わせてよいのか」といった不安も広がりました。
私自身、これまでコーパスやデータに基づく外国語学習支援を研究してきた立場から、学習者が必要な支援を対話的に引き出せる可能性に大きな手応えを感じる一方、慎重な活用の必要性も痛感してきました。講演や研修で現場の先生方と話すたびに感じたのは、必要なのは賛成か反対かの議論ではなく、明日から使える原則と具体例だということでした。そこで本書では、生成AIを怖いものではなく、使えるものとして捉え直すための視点を整理しました。
産出技能への影響
外国語教育で最も変化が見えやすいのは、ライティングとスピーキングです。ライティングでは、生成AIはアイデア出し、構成づくり、言い換え、文法修正、フィードバックの提示を得意とします。学習者が書いた英文に対して即時に助言を返せるため、書いて終わりではなく、書いて直し、もう一度書くという推敲の回数を増やしやすくなります。
スピーキングでは、AIが練習相手となり、学習者は時間や場所を選ばず繰り返し話す練習ができます。人前で話す不安が強い学習者にとっては、まずAI相手に試せること自体が大きな足場になります。ただし、ここで重要なのは、AIに完成版を作らせることではありません。学習者自身が提案を比較し、採用するかどうかを決めることで、はじめて学びになります。
これまでの学校現場での実践では、「AI相手なら発音や表現の誤りを過度に気にせず何度でも話したり書いたりできるため、英語を学ぶ意欲や、話す・書くことへの自信が高まる」ということが示されています。特に、英語に対する苦手意識の強い学習者にとっては、添削や点数表示が自信の回復につながりやすく、意欲の維持や改善に結びつく可能性があります。AIが「何度でも質問できる相手」になることの意味は小さくありません。
受容技能とその周辺
リーディングやリスニングでも、生成AIは有効です。たとえば、読む前に話題に関わる語彙を予測したり、難しい本文をやさしく言い換えたり、読後に要約や設問の根拠を確かめたりする支援ができます。リスニングでも、聞く前に要点を見立て、聞いた後に聞き取れなかった箇所を振り返るような活動と組み合わせると効果が高まります。ただ、受容技能では、AIが答えを与えすぎると学習者の本文理解や聞き取りの努力をしなくなってしまう危険もあります。そのため、AIは理解の代替ではなく、理解を深めるためのパートナーとして位置づける必要があります。
さらに教育現場の実践では、「この英文は合っていますか」ではなく、「もっと詳しく書いた方がよいのではないか」といった内容に迫る質問が増えたことも報告されています。学習者が正誤確認から一歩進み、表現の質や伝達内容に目を向け始めたということです。加えて、一人でAIと対話する、友だちと教え合う、教師の個別支援を受けるなど、自分に合った学び方を選べるようになった点も見逃せません。
また、生成AIの影響は四技能だけにとどまりません。語彙や文法の学習支援、語用論的に適切な表現の比較、学習動機や自己効力感の向上にもつながります。その一方で、過度な依存や批判的思考の弱まりというリスクもあります。だからこそ、「使うか使わないか」ではなく、「いつ、なぜ、どのように使うか」を学習者自身が考えられるようにすることが大切です。
導入は段階を踏む
導入にあたっては、まず利用規約や年齢条件、個人情報の扱いを確認し、何を入力してよいか、何を入力してはいけないかを授業ルールとして共有する必要があります。そのうえで、年間指導計画や単元計画の中にAI活用を位置づけ、どの機能をどの意図で使うのかを明確にします。
最初から自由利用にせず、教師が使い方を示し、全体で出力を検討し、その後に個別活用へ進むといった段階設定も有効です。AIとの個別対話だけで終わらせず、学習者同士や教師、ALTとやり取りする場面を意図的に組み込むことも重要です。AIによる反復練習や即時フィードバックのあとに、人間同士の対話で伝えたい内容を深める設計が必要だからです。
教師やALTは、活動中の発話やAI活用の履歴からつまずきや共通課題を見取り、既習表現を想起させたり、よい発話を価値づけたりしながら、AI活用を学びの深化へつなげていく役割を担います。AIの回答を鵜呑みにせず批判的に吟味する姿勢や、自分の変化に気づかせる自己調整の支援も欠かせません。
評価の考え方も変わる
評価の考え方も変わります。ライティングにおいては、完成した英文だけを見るのではなく、最初の草稿、AIからの提案、採用しなかった理由、最終稿までの変化といったプロセスを見取ることが重要です。AI活用の履歴は、一斉指導では捉えにくい学習状況を把握する手がかりにもなります。評価を隠れたAI利用の摘発ではなく、学習過程の可視化と振り返りの機会へ転換できるかが問われています。
授業準備での具体例
紙幅の都合上、具体例は授業準備に絞ります。授業準備で最も役立つのは、完成品を一度で作らせることではなく、複数案を短時間で出させて比較することです。たとえば、同じ教科書本文を扱うときに、「導入で関心を高める案」と「活動を早めに始める案」の二つをAIに出させ、どちらが学習目標に合うかを教師が判断します。また、既習文法や語彙の範囲を指定して、導入文や補助教材、内容理解問題の下書きを作らせることもできます。こうした作業は確かに時短になりますが、教師が確認すべき観点は、自然さだけではありません。難易度が学習者に合っているか、その教材で何を学ばせたいのかが明確か、後の評価と矛盾していないか、という点まで見なければなりません。
AI時代における
外国語教師の役割
AI時代に外国語教師の役割が小さくなることはありません。むしろ、学習者のつまずきを見取り、必要な支援を焦点化し、学びの意味を価値づける役割は一層重要になります。AIが正確さや反復練習を支え、人間の教師が目的意識、相手意識、対話の質を支える。その分担がこれからの授業の要になります。学校現場の先生方には、まず一つの単元、一つの活動から試し、成果と課題を記録しながら、年間計画の中で無理なく位置づけていくことを勧めたいと思います。生成AIは授業を置き換えるものではなく、学びをよりよく設計するための道具なのです。