日々の積み上げと習慣化が重要 生成AI時代に必要な情報活用能力

文部科学省は学校教育で生成AIを活用するため先導役となる「生成AIパイロット校」52校を指定し、24年2月に成果報告会を開催した。生成AIの活用が進む中で、特に注意が必要なのがファクトチェックの視点だ。生成AIと情報活用能力について、信州大学准教授の佐藤和紀氏に聞いた。

生成AIの教育利用では
ファクトチェックが重要に

佐藤 和紀

佐藤 和紀

信州大学 教育学部 准教授
東北大学大学院情報科学研究科・修了、博士(情報科学)。専門は教育工学、教育方法学。東京都公立小学校・教諭等を経て現職。NITS独立行政法人教職員支援機構・フェロー、日本教育工学会・代議員、日本教育工学協会・常任理事。文部科学省 学校DX戦略アドバイザー、同 情報活用能力調査の今後の在り方に関する調査研究 企画推進委員、同 GIGAスクール構想に基づく1人1台端末の円滑な利活用に関する調査協力者会議 委員、同 リーディングDXスクール事業推進委員等を歴任。

膨大な情報を学習し、それらしい応答をする生成AIだが、その回答は必ずしも真実ではなく、ハルシネーション(もっともらしい嘘)と言われる通り、誤りや事実無根の内容が示されることもある。このため生成AIを使いこなすには、出力された回答に対して、常に「最後は自分で確認、判断する」姿勢が必要となる。

文部科学省は昨年7月、「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を発表。その後、文科省は「リーディングDXスクール事業」において、学校教育で生成AIを活用するため先導役となる「生成AIパイロット校」52校を指定し、24年2月に成果報告会を開催した。

成果報告会で全体講評を担当した信州大学准教授の佐藤和紀氏は「生成AIを利用する上で重要なのは、事実かどうかを確認するファクトチェック」と話す。昨年度後半になって、佐藤氏が教鞭をとる大学の学生からも生成AIを使ったレポートが度々出てくるようになったという。

「倫理観やモラル、引用に必要な基本的な知識とスキル、事実かどうかを自分自身で確認する姿勢や態度を含めた情報活用能力が身に付いていない学生が多いと感じます」

文部科学省の情報活用能力の体系表例では、発達段階ではなくステップで示されている。

「重要なのは日々の積み上げと習慣化です。生成AIパイロット校の成果報告会では『教科書に記載されたものでも引用を示しましょう』といった話をしました。例え学校で配られているものでも、参考、参照したものは基本的に示していく。そうした姿勢は、小学生からでも養うことができるのです」

文科省のガイドラインでも「全ての学校で、情報の真偽を確かめること(いわゆるファクトチェック)の習慣付けも含め、情報活用能力を育む教育活動を一層充実させ、AI時代に必要な資質・能力の向上を図る必要がある」と記している。

日常の授業や生活で情報を比較し
ファクトチェックの習慣化を

ファクトチェックは教科書でもWebでも、身の回りのものを使って低学年から毎日できる。

佐藤氏自身、小学校の教諭であった当時、情報活用能力やメディア・リテラシーの育成に努めてきた。この一環として虚構新聞のバウムクーヘンの天日干しのニュースを子どもたちに紹介すると、そのまま信じてしまう子も多かったと振り返る。

「先生だって間違うし嘘をつくかもしれない。知識があることも大事ですが、何でも鵜呑みにせず、批判的に見るという見方、考え方が常に働くことが重要です」

そのためには、まず情報を「比較する」ことが重要だ。学校教育のあらゆる場面で比較して考える。比較して違いがあれば、なぜ違うのかを調べる。これが、ファクトチェックの習慣化につながっていく。

佐藤氏は文科省のYouTube公式チャンネルで「生成AIを活用する上での基本的な考え方」と題して、情報の読解のための基本的な発問などを紹介している。例えば、折れ線グラフを読み取る際は「1.題は何ですか。読みましょう。2.出典を読みましょう。3.縦軸は何を表していますか。4.横軸は何を表していますか。5.グラフの変化で気づいたことは何ですか」といった例を挙げている。

文科省の公式YouTubeチャンネル(文部科学省/mextchannel)では、佐藤氏が「生成AIを活用する上での基本的な考え方」をテーマに「情報活用能力、読解力と生成AIの活用」「生成AIを活用する前に」「生成AIへの理解や学びへの活用」について解説している

また、鎌倉幕府の成立が昔は1192年、現在は1185年、恐竜の姿も昔は羽毛がない、現在は羽毛があったなど、各教科の中で、常に指導することは可能だ。

この他、広告に載っている発売から1週間のランキングと年間ランキングでは随分違いがある。これがいつの情報で、どのくらいの期間の情報かといったことを正確に読み解くことは、教員や保護者が意識すれば、教科や日常の生活でいつでも子どもに声がけすることもできる。

GIGAスクール構想により、一人一台端末が整備されたことで、端末を活用して「個別最適な学び」「協働的な学び」をどう実現していくかに力が注がれている一方で、情報活用能力の関心はそれほど高まってはいないと佐藤氏は指摘する。

ただ、子ども一人ひとりが主体的な学習をする時には、学習の質、情報の質、情報の信頼性がより問われていくようになる。GIGAスクール構想を先進的に進めた次のフェーズで情報活用能力に注目する自治体や学校は実際に出てきている。

例えば、静岡県吉田町では、「個別最適な学び」「協働的な学び」を追求してきた結果、「子どもたちの学習や活動の質を上げたい」といった話になり、情報活用能力育成のためのカリキュラムを学校の先生たちが自発的に作り始めているという。

教育はスケール感が大事
子ども達の数十年先を見据える

情報活用能力の育成が学校現場で目が向かない原因の一つに「1時間の授業として考えすぎる」点を佐藤氏は指摘する。1時間のスケールで「漢字が書けるようになること」を目標にするなら、紙とノートがあれば十分で、情報活用能力は必要ない。

「スケール感が大事で、単元で人を育てたいと思うのか、年間で育てたいと思うのか、それとも、その子どもたちが社会に出る十何年先を捉えたスケールで育てるのか。1時間の授業なら今までの技術で十分で、多分、ICTもいりません。でも、十何年先の社会で生きていくことを考えれば、情報活用能力の育成は必要不可欠でしょう」

教員側の目線で見れば、教員の働き方改革に生成AIは大きく寄与する。クラウド化を進めた静岡県吉田町は4年前に比べ、教職員の残業時間が2分の1に減っているという。

「教育委員会や学校には、先生方が生成AIを活用することを認めてあげていただきたいです。『インフラは整えたけど制限が厳しすぎて使えない』では、働き方改革は進みません。先生がチャレンジし、失敗することで、その先の子どもたちへの活用の仕方も見えてくるでしょう。教育への活用という意味では、目の前にある情報に対峙することからやっていただきたい。そして、1時間の授業という小さいスケールではなく、もっと先のことを見せていくような教育施策を作っていっていただきたいと思います」

※虚構の事件等を報道するニュースサイト。情報活用能力の育成を図る教材として、教育現場でしばしば活用されている