対話を通じて学びを深める 学習科学とAIが描く新たな学び

文部科学省は生成AIパイロット校を通じて、教育活動や校務における生成AI活用を支援し、知見の蓄積を進めている。生成AIパイロット校の指定を受けた中学校の実践に伴走した学習科学の研究者である青山学院大学教授の益川弘如氏に生成AI活用に必要な視点などを聞いた。

対話を通じて見方・考え方を知る
メカニズム「建設的相互作用」

益川 弘如

益川 弘如

青山学院大学 教育人間科学部 教授
博士(認知科学)。専門は学習科学、認知科学、教育工学。一人ひとりなりに持っている「学ぶ力」を、対話を通して引き出す授業づくりや学習評価の在り方、ICT活用を追求している。また、学習観・授業観の変容に興味があり、子供たちや先生方が授業や研修を通して見直してゆけるような学習環境デザインに興味がある。聖心女子大学文学部教育学科教授を経て、2024年4月より現職。学習科学青山研究所所長。

『AIと仲間と学び合う』

『AIと仲間と学び合う』
梅野 哲・益川 弘如・豊田 大登 編著/
相模原市立中野中学校 著、
168頁、2025年10月、2100円+税、
明治図書

生成AI活用が学校現場で進む中、2023年7月、文部科学省は「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」を策定した。ガイドラインを踏まえ文科省では、教育活動や校務での生成AI活用に取り組む「生成AIパイロット校」を指定、「効果的な教育実践の創出」によって更なる議論に資するよう知見の蓄積を進めている。

生成AIパイロット校である神奈川県の相模原市立中野中学校は、教育・校務の両分野で生成AI活用に取り組んでいる。2025年10月に出版された『AIと仲間と学び合う』(明治図書)では、同校の試行錯誤を経た、具体的な実践を紹介している。編著者の一人で、学習科学の研究者として、同校の実践初期から関わってきた青山学院大学教授の益川弘如氏は「人間は一人ではなく、二人以上で考えを出し合って、それらを組み合わせて解決策を探す、そうした対話を通して、一人では気づかなかった見方・考え方を知ることができ、さらに学びを深めていくメカニズムが生まれつき備わっています。これを学習科学では『建設的相互作用』と呼びます。中野中学校では、生成AIを1対1で使う、調べ学習ではなく、生徒同士の話し合い活動において、どう上手く活用していくのか。そういった観点から主に授業づくりなどで関わらせていただきました」と話す。

生成AIと人間をバディにする
「ダブルバディシステム」の可能性

建設的相互作用を発揮するために、中野中学校では生成AIをどう活用したのか。益川氏によれば、最初はグループで話し合って、気になったことを生成AIに質問し、出力された回答を基にグループで再び話し合う活動から始めたという。

「1年程が経過してある変化が起きていました。それは多くの先生が生成AIと生徒がどんな話し合い活動をしてほしいのかを具体化し、そのために必要なプロンプト(生成AIへの命令文)を事前に準備していました。授業で『問い』を共有し、それを解決する過程で生徒自身が気づきにくい視点を提示し、学びを深めるために、プロンプトによって、生成AIに質問すると、回答だけでなく、質問を返してくる。生徒はやり取りを繰り返しながら考えを深めていき、その結果をグループで話し合う。こうした使い方に発展することで、建設的相互作用が発揮されやすい授業づくりを目指していきました」

教員がプロンプトを事前準備することで、生徒側は意外な視点が指摘され、自分の考えを見直すことにつながるという。この他、益川氏によると、建設的相互作用が発揮された場合として、アプリをつくる課題に生徒が取り組んでいた際、生成AIとのやり取りを繰り返して、作り直す過程で確認できたと指摘する。

「ただ質問を繰り返すだけではなくて、自分が分かったことを生成AIに確認したり、生成AIと一緒に考えていくような使い方、人との対話を通じて学び合うようなやり取りが必要だと思います」

教室内の活動以外の実践も見ていこう。体育の長距離走(1500m)の授業では、生徒の1周(150m)ごとの記録データをもとに、生成AIが走者のパフォーマンスを評価し改善点をフィードバックする。生成AIをバディとしつつ、クラスメイトを人間のバディにする。人間のバディとは互いに目標を共有し、声掛けをしながら共に取り組んでいく。生成AIのバディと人間のバディを組み合わせて学ぶ方法を「ダブルバディシステム」と名付け、著書では多面的な学習支援が期待できると紹介している。

「この実践から生成AIの意義を感じた点は、子どもたちが、よりきちんと考えられるようになったことです。体育といった身体活動は、課題や改善策も言語化しにくい領域です。記録を伸ばすには、どういった走り方が効果的なのか。これまで感覚的だった課題や改善策が生成AIの活用で、言語化が上手く促されたと思われます」

中野中学校の実践に伴走する中、益川氏は同校を通じて、二人の生徒から協力を得て、2年間、生成AIをどの様に活用してきたのか。そのログを分析している。

「ログ分析とインタビューから分かったことは、二人とも体育の授業でよく活用していたことです。例えば、走り幅跳びでは、自分にどんな課題があって、どう改善すればいいのか。色々と振り返り活動をしながら使い込んでいました。体育は、他教科と違って教科書がないことも特徴の一つです。それが生徒に生成AI活用を促した一側面としてあるかもしれません」

AI×学習科学から社会実装へ
学習科学青山研究所の取組み

2024年、青山学院大学に着任した益川氏が同年に立ち上げ、所長を務める「学習科学青山研究所」では、一人ひとりなりの「学ぶ力」を引き出し、高め、磨いていく学習環境を構築する学習科学研究を推進。

AI技術や一人一台端末の建設的活用、多様な他者との対話を通した学習や学び方の学び、学習評価を支援する学習環境の開発・検証・社会実装を進めている。

「最新テクノロジーを活用した授業づくりやCBT(Computer Based Testing)など研究しています。そうした研究から具体的なツールの開発、社会実装を目指して、複数のプロジェクトを進めています」

一例として、公益財団法人日本漢字能力検定協会と「AI時代の言語能力を育成するための学習環境と評価」をテーマに共同研究を進めている。

「生成AIの登場で、言葉の学び方も変わっていくはずです。共同研究では生成AIを活用した新しい言葉の学び方、学習者の支援方法を探っています。具体的な支援ツールを開発していくつかの学校で試していただいているところです」

最後に益川氏は「今後、学校現場も生成AIを使うことは離れられないと思います。だからといって、単にたくさん使えばいいわけではなく、本当に良い学びが起きてるかどうか。授業観・学習観を見直し、子どもたちの学びの事実、エビデンスを検証しながら進めて積み上げることが大事です。私自身も生成AI活用が本当に学びを強化してくれるのか、長期的にデータを集めて、検証していきたいと考えています。皆さんと情報交換しながら進められると嬉しいので、学校現場や企業・団体とも連携を深めていきたいと思います」と締めくくった。