DXをテーマに産学連携による人材育成や大学DX推進を議論

大学支援フォーラムPEAKSが、3回シリーズで開催する『PEAKS産学連携パートナーシップ構築セミナー』。11月17日に開催された第2回目のテーマは「『DX』の実現に向けた組織的な産学連携」。特に〈人材育成〉〈大学DX〉にテーマを絞り、基調講演・パネルディスカッションが行われた。

DXを主導する
AI・データサイエンス人材の育成

尾上 孝雄

尾上 孝雄
大阪大学 理事・副学長

様々な分野で取組みが進むDX。基調講演に登壇した大阪大学理事・副学長の尾上孝雄氏は、「DX“everywhere”に向けた産学連携」をテーマに話した。

DXを進めるなかでデジタル化の価値を出していくには、AIを含めた高度なデジタル処理が必要となる。1956年にAIという言葉が初めて登場して以来、現在、第3次ブームで機械学習・ディープラーニングなどが盛り上がっている。

「人工知能学会の会員数は過去最大の状況です」と尾上氏。

2021年6月、政府は「AI戦略2021」を策定。人材戦略としては、「デジタル社会の〈読み・書き・そろばん〉である〈数理・データサイエンス・AI〉の基礎などの必要な力を全ての国民が育み、あらゆる分野で人材が活躍」できる状況を目指す。

「AI人材に求められる技能・知識とは、①人工知能技術の問題解決、②人工知能技術の具現化、③人工知能技術の活用の大きく3つかと思います」(尾上氏)

DXを主導するAIやデータサイエンス人材の育成は様々な大学で行われている。東京大学、大阪大学は2017~2019年度にかけ、NEDOプロジェクトを核とした人材育成・産学連携等の総合的展開として、実データで学ぶ人工知能講座「AIデータフロンティアコース」を展開。

メーカーの開発プロジェクト従事者などを対象に、AIに係る日本トップレベルの大学の講義と実データを扱う演習を短期間のパッケージで提供。企業の求める「データから価値を生み出す力」「稼ぐ力」を有するAI即戦力人材の短期間での育成を目指し、一定の成果を上げている。

組織間連携における取組みでは、大阪大学とダイキン工業との情報分野を中心とした包括連携がある。2017年7月~2027年6月までの10年間で56億円を投入する。

具体的にはAI人材養成プログラムとしてダイキン情報技術大学を設置。5年間で約1000人の人材を作ることを目標に、ダイキン社員に対しAI人材養成プログラムを展開。オフィスアワーを設け、実際の仕事への適用に関し、随時、相談できる体制でサポートしている。

大学自体のDXに関して、大阪大学ではOUDXイニシアティブを立ち上げ、オープンサイエンスを支える「DX in Research」を整備し、研究遂行の全てのプロセスをオンラインでサポートするデジタル技術の導入を進める。尾上氏は、研究インテグリティ(研究における公正性)の観点から、①システム間の強固な連携、②システムを使いこなす専門人材の配置の重要性を指摘。「大学の様々な活動におけるDXを進めていく必要がある」と話した。

大学と企業が一緒になり
大学を越えて教育する仕組みを

榮藤 稔

榮藤 稔
大阪大学 先導的学際研究機構 教授

梶田 将司

梶田 将司
京都大学 情報環境機構IT企画室 教授

斉藤 信也

斉藤 信也
グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 執行役員 パブリックセクター本部長

基調講演に続き、尾上氏をファシリテーターに、大阪大学先導的学際研究機構教授の榮藤稔氏、京都大学情報環境機構IT企画室教授の梶田将司氏、グーグル・クラウド・ジャパン執行役員パブリックセクター本部長の斉藤信也氏によるパネルディスカッションが行われた。

デジタルと社会課題をどうマッチングして解決できるかがDXの本質。それには体系的知識、実践的スキル、発見能力の3つが重要と大阪大学の榮藤氏。「体系的知識は大学で教えることができますが、実践的スキル、発見能力は、大学を越えて教育する仕組みが必要なので社会との接続をどう設計していくかが重要かと思います」と話す。

企業との接続領域では、特に基礎研究、応用研究と研究開発・事業化を俯瞰的に見ていくことが重要だ。例えば医学部だと病院という現場があり、開発に臨床医がいて応用医学があり、基礎医学がある。「企業は応用研究、基礎研究を見ながら開発を行い、大学側も研究開発・事業化を念頭において応用研究、基礎研究を進める必要があります」(榮藤氏)。

続いて京都大学の梶田氏は産学連携によるシェアード型大学情報環境の構築を提案。大学情報環境のペインポイント(悩みの種)として、「人的・財政的リソースが限界に来ており、ICTのスケールメリットを活かせない構造的な問題に陥っている」と指摘。大学のDXには情報基盤整備の再デザインが必須で、「新しいデジタル協働基盤の構築」の必要性を説いた。

世界では、エンタープライズアーキテクチャ(TOGAF)を活用しデジタル協働基盤を構築する動きが出ている。大学のなかでも非競争領域については協働でアーキテクチャを作りながらシェアドサービス化していくことが重要だ。「企業と大学が一緒に、オープンな大学情報環境を場として知見をためることで、産学連携によるシェアード型情報環境開発を進めていくことが重要です」(梶田氏)。

グーグル・クラウド・ジャパンの斉藤氏はIT企業の視点から「DXを過去20年間やり続けてきた会社として、DXをやり抜くには、制約を取り除き、ゼロベースで考える必要性がある」と話す。DX推進には、心理的安全性が高くチャレンジしやすい組織への組織変革、その組織で能力を発揮できる人材育成、その人材が生み出すアイデアを実現するための先端技術の3つの柱が必要と斉藤氏は指摘。同社では実際のDXプロジェクトの中で人材育成を進めるといった取組みを大学・企業・官公庁等と協働で展開している。

Google Cloud製品群にはAI技術を用いたサービスも多くある。大学DXでは「例えば、複雑なID管理等は、世界規模で使えるシステムが確立しています。個別にゼロから作るより、権限管理をはじめ、既存のサービスを上手く活用いただいた上で、組織に合わせて構築していく方が生産的かと思います」と斉藤氏は話した。