自治体との持続可能な連携に向けて、ブリッジ人材に必要な学びを実践

最新技術で地域の社会課題を解決してきたオムロン ソーシアルソリューションズ。同社は、社会構想大学院大学の地域プロジェクトマネージャー養成課程の第1期生に4名を派遣した。養成課程で学んだ同社執行役員常務の尾武宗紀氏に、学びの狙いや今後の活動への想いを聞いた。

尾武 宗紀

尾武 宗紀

オムロン ソーシアルソリューションズ株式会社 執行役員常務・事業開発統轄本部長
慶應義塾大学商学部卒業後、立石電機株式会社(現オムロン)に入社。 主にファクトリーオートメーション領域を歩み、執行役員 営業本部長を経て、2020年よりオムロンソーシアルソリューションズ(株)に転籍し、現在に至る。

「地域プロジェクトマネージャー」とは、総務省が2021年度に創設した新制度。地域活性化には、産官学連携によるプロジェクトの推進が重要だが、地域の自治体がそうしたプロジェクトを行うには、行政と民間の違いを理解し、様々なステークホルダーをつないでいく「ブリッジ人材」が欠かせない。そこで、市町村がそうした人材を地域プロジェクトマネージャーとして任用する、新しい制度として創設された。

地域プロジェクトマネージャーの雇用には、総務省から自治体に650万円/人を上限に特別交付税措置を行っている。2021 年10月、社会構想大学院大学が開講した「地域プロジェクトマネージャー養成課程」 第1 期 では、地域プロジェクトマネージャーを目指す人材などを対象に、5か月(全40講・総受講時間60時間)のカリキュラムを提供している。また、オンラインのため場所に捉われず学ぶことができる。

同課程の特長は大きく4つある。1つ目が地方自治体の独特の仕組み、ルール、組織、慣習、思考 、予算管理等がわかること。公務員経験のある教員や各自治体での指導実績のある教員、現役第一線の公務員による講義で、実践に役立つスキル、知識を身につけることができる。

2つ目が、公民共創プロジェクトの組成の仕方、運営、資金調達など成功への道筋がわかること。公民共創プロジェクトに、これまで400件以上携わり、自治体や企業に指導してきた教員から体系的に学ぶことができる。3つ目が、志を同じくする仲間 、人脈を得られること。講義に登壇する市長をはじめ、多様なゲスト講師から、様々な経験を積んできた他の受講生と切磋琢磨することで、業界や地域、職種を越えて人脈を形成することが可能となる。

4つ目は、地域活性に関する理論と実務の双方が習得できること。 講師には、自治体の局長級から課長級職員や「博士号」を取得している職員もいる。

社会ソリューションを担う企業が
 4名で養成課程を受講

舞鶴市共生型MaaS「meemo ミーモ 」実証実験の様子。MaaS アプリ「meemo」を使用して、住民同士の送迎や公共交通機関(バス・タクシー)を組み合わせた移動を実現する。

写真提供:舞鶴市

世界初の「 電子式自動感応信号機」や「無人駅システム」など、独自の技術で社会ソリューションを担ってきたオムロン ソーシアルソリューションズ。近年は、そのノウハウや最先端技術を活かして、地域が抱える社会問題の解決に取組んでいる。2019年4月には、スマートシティ化を目指す京都府舞鶴市と包括連携協定を締結し、再生可能エネルギー(再エネの地産地消・再エネ率100%を目指す)など、「Society 5.0 for SDGs」の実現に向けた取組みを進めている。

そんな中、同社は、執行役員常務・事業部発統轄本部長の尾武宗紀氏を含め、4名が養成課程を受講した。

「近年、当社は、地域活性に向けて自治体が抱える課題や困りごとの解決に寄り添ってきました。一方、我々にできるご提案や強みが見えてきたものの、自治体側の考え方が見えづらいと感じることもありました。何を背景に、どんな判断基準をもっているのか。自治体側をより深く理解するために、基本に立ち返った学びが必要ではないか。そう考えていた時に、地域プロジェクトマネージャー養成課程を知りました。そこで、ブリッジ人材として必要な力を、我々自身、改めて身につけたいと考えたのが受講のきっかけです。また、講師の方の著作を事前に読んで、面白いなと感じたことも後押しになりました」と尾武氏は話す。

多様な人材に養成課程を受けてもらいたかったと話す尾武氏。このため、他の3名の受講者は、年齢、役職、経歴など、様々なバックボーンをもつ人材から選抜した。

地域の持続可能性に向けた
ブリッジ人材の育成へ

養成課程では、現場の生の声がためになったと尾武氏は話す。

「現職の市長や公務員の方、公民共創の実務経験が豊富な方など、現場に携わる様々な方が講師をされていました。現場のリアルな話を聞けたことで、自治体の予算や議会の仕組みなどを本当の意味で、腹落ちできたことは大きな意義がありました。講義中、講師に質問して、自治体側のリアルな意見を聞けたことも良い知見となりましたね」

養成課程の特長の一つに、自治体へ向けた政策・施策提言の作成がある。これは、4つの自治体から1つを選択し、自治体の市長・職員から直接、受講生に対して地域・行政課題を提示してもらい、受講生は受講期間中、課題解決の政策・施策提言を作成する。尾武氏は、石川県加賀市を選択した。

「加賀市は、SDGsの観点で様々な取組みに積極的な自治体です。いま、CO2の削減はホットな話題ですし、エネルギー分野に強みをもつ当社として、色々な提案ができると思い、選択しました。引き続きブラッシュアップして実際に提案していきたいですね」

自治体との連携では、持続可能性がキーワードと尾武氏は強調する。先の舞鶴市は、多々見良三市長がリーダーシップを発揮して、SDGsの理念に沿ったまちづくりを進めており、2019年9月には、内閣府の「SDGs 未来都市」、全国のモデルとなり得る10自治体に与えられる「SDGsモデル事業」に選定されている。また、連携協定締結から3年が経過し、河川の水位を市民が確認できる「舞鶴市総合モニタリング情報配信システム」や、リース方式による再生可能エネルギー設備等の導入によって自治体の実質負担ゼロで、再生可能エネルギーの自給率向上やCO2削減を図る取組み、共生型MaaSなど最新テクノロジーの実装も進んでいる。

「持続可能性を意識して、自治体と寄り添いながら、地域課題を解決していく。そのためにも、様々なステークホルダーとブリッジできる人材を継続的に育成していく必要があります。来年も機会があれば、受講生を送り出したいですね」

尾武氏は、現場の経験と知識を学ぶ掛け算で、今後もブリッジ人材を育てていきたいと締めくくった。

【5月開講】地域プロジェクトマネージャー養成課程 第2期 受講者募集中

社会情報大学院大学 先端教育研究所では、5 月に開講する「地域プロジェクトマネージャー養成課程」(第2期)の説明会を下記のとおり随時、オンラインで開催しております。

①地方自治体の地域プロジェクトマネージャーや副業人材を目指す方、
②地方自治体に関する知識や地方創生・地域活性化の取組などについて学びたい方、
③地域おこし協力隊OB・OG、地域と関係の深い専門家など、
ご関心ありましたら、下記URLからお申込みください。
https://www.mics.ac.jp/lab/lpm/

<説明会日程>
4月 7日(木)19時~20時
4月21日(木)19時~20時
他随時開催。