りそなグループ 「越境」で成長機会を提供、多様な人財の活躍を後押し
りそなグループは2003年の経営危機を経て再生を遂げ、現在は「リテールNO.1」の実現に向けた戦略を推進し、多様性に富んだ人財の活躍促進や、「越境」による成長機会の提供に力を注ぐ。人財サービス部長の九鬼至留氏に、りそなグループの人財戦略について話を聞いた。
再生の過程で培われた
「変革のDNA」は今も息づく

九鬼 至留
株式会社りそなホールディングス
人財サービス部長
1995年4月、大和銀行(現りそな銀行)入社。世田谷支店・新大阪駅前支店・堂島支店と営業店での勤務を経て、2002年7月に人事部(現人財サービス部)へ異動し、大和銀行とあさひ銀行の人事制度統合や人事給与システムの開発、個別人事、人事制度企画等の業務を担う(この期間に「りそなショック」も経験)。2017年10月に人事部門から一旦異動し、新川崎支店長等を経て、2021年4月に人財育成室長、2022年4月より現職。
── りそなグループでは、どのような成長戦略を描かれていますか。
弊社グループは長期ビジョンとして「リテールNo.1」の実現を目指しています。2023~2025年度の中期経営計画を「リテールNo.1」実現への加速に向けてコーポレートトランスフォーメーション(CX)に取り組む最初の1000日と位置付け、「価値創造力の強化」と「経営基盤の次世代化」に取り組んでいます。
りそな銀行は2003年、巨額の公的資金の注入を受け、実質国有化される「りそなショック」に直面しました。中期経営計画がスタートした2023年は弊社グループにとって、再生への改革を始めてから20年の節目の年であり、新たな挑戦へと踏み出すために、同年にパーパス「金融+で、未来をプラスに。」を策定しました。
私は「りそなショック」の当時、人事部門に所属しており、賞与ゼロ、給与カットといった困難な状況の対処に追われました。多くの従業員が辞めていきましたが、退職者が増えても業務は残ります。総合職がやっていた仕事を一般職が担う、一般職がやっていた仕事をパートタイマーが担うなど、各自ができることに全力を尽くし、様々な変革を通じて危機を乗り越えてきました。
弊社グループは現在、性別・年齢・職種などにかかわらず、すべての従業員が活躍できる「ダイバーシティ&インクルージョン」の実践で評価されていますが、こうした組織風土は「りそなショック」から再生を遂げる中で築かれてきたものです。そして、弊社グループが培ってきた「変革のDNA」は、今も息づいていると感じます。
多様な経験を有する人財を育成、
自律的なキャリア形成を支援
── 人財戦略として、どのような取組みに力を注がれていますか。
これまでも大切にしてきた組織風土(インテグリティ、ダイバーシティ&インクルージョン、変革への挑戦)をベースに、未来に向けて変えていく6つのドライバー(図参照)を設定し、「リテールNo.1」の実現に向けた取組みを進めています。
人財の育成に関して、6つのドライバーの1つである「越境」では、個々人が主体的に異文化を経験し、組織を超えたキャリア・ネットワークの形成を通して、金融の枠にとどまらない成長を目指しています。
具体的には、他社や官公庁への出向、大学院への派遣プログラムや異業種人財との共創による新規事業創出経験など、従業員の能力や適性に応じた派遣先を選定し、所属する組織の枠を超えた経験を提供しています。
加えて、自己研鑽サポートとして公募による外部ビジネススクールへの派遣を2021年度からスタートしています。こうした公募型での越境プログラムの枠組みを年々拡充し、従業員が自ら手を挙げることで他企業の人々と交流・共創できる機会を積極的に提供しています。
── りそなグループの成長に向けて、求められる人材像やスキル、能力をどのように見ていますか。
顧客課題が多様化・高度化・複雑化する中で、金融機関の業務範囲は拡大し、求められるレベルも高くなっています。しかし、個人が一人でカバーできる範囲には限りがあり、必然的に画一的ではなく、多様なスキルや能力を持つ人財が求められます。
また、従業員や求職者の就労価値観も変化しており、多様なキャリアや働き方の選択肢が必要とされています。弊社グループでは、2021年からジョブ型の要素も取り入れた複線型の人事制度を導入しました。
新たな人事制度では、ゼネラリストとスペシャリスト合わせて全20コースを用意し、そのうち3コースがゼネラリスト、17コースがスペシャリストのキャリアパスになります。部店長を目指すような従来型のキャリアパスだけでなく、データサイエンティストやIT、不動産、M&A、年金など専門分野に特化したキャリアパスを選択できるようになりました。
複線型のコース制にすることで、従業員一人ひとりの自律的なキャリア形成を支援しています。また、多様な専門性を備えた人財のキャリア採用も積極的に行っています。多様性に富んだ人財が混ざり合うことで、新たな発想やイノベーションが生まれやすい組織になっていくと考えています。
── りそなグループは事業構想大学院大学が実施する、企業から派遣された従業員が新事業の構想を描き、実践する「プロジェクト研究」に参加されています。どういった狙いがありますか。
「越境」の経験を通して、従業員が成長することを期待しています。銀行員は業務の特性もあり、一定のルールや制約の中で解決策を導き出すことに長けた人財は多いのですが、0→1で新たな事業を創り出していくのは必ずしも得意ではありません。
事業構想大学院大学のプロジェクト研究はまさに0→1の取組みですから、参加する従業員にとって、とても意義のある貴重な経験を積むことができると考えています。
── 人財戦略に関して、今後の展望をどのように描かれていますか。
人財に関する取組みにゴールはありません。経営環境やビジネスの変化、従業員や求職者等のニーズに応えるために、時代に即した取組みを積み重ねていくことが大切です。
弊社グループの人財戦略が目指すのは、価値創造とウェルビーイングの持続的な好循環を生み出し、企業と個人の双方が成長していくことです。パーパスとして掲げる「金融+で、未来をプラスに。」を一人ひとりが理解・共感して実践していけるように、研修等を通して、各個人がパーパスと向き合う時間や語る場所・機会への投資も重ねています。すべての従業員が持てる力を最大限に発揮し、未来を創り出していくために、これからも人財投資に力を入れていきます。