多文化共生社会の実現を見据え 「チーム学校」での教育支援を

増加する外国人児童生徒等に対し、より質の高い教育を提供するための施策に力を入れる文部科学省。教育現場を取り巻く状況や、足元の支援策、今後の方針など、多文化共生社会の実現へ向けた教育の在り方について、文部科学省総合教育政策局国際教育課長の釜井宏行氏に話を聞いた。

進む言語の多様化と集住化・散在化
地域特性に合った対策が必要に

釡井 宏行

釡井 宏行

文部科学省 総合教育政策局 国際教育課長
2000年科学技術庁採用。これまで研究振興局、初等中等教育局、科学技術・学術政策局、会計課、内閣府特命担当大臣秘書官やOECD政府代表部に従事。2023年よりライフサイエンス課長として、医学系研究支援プログラムの創設やライフサイエンスの中長期的な方向性を取りまとめ。2025年4月より現職。

公立学校に在籍する外国人児童生徒数は2015年~24年までの約10年間で6.2万人増加、約13.9万人。また、日本語指導が必要な児童生徒数は約10年間で1.9倍増の約6.9万人となっている(図表)。外国人児童生徒の母語はポルトガル語、中国語、フィリピン語、ベトナム語が多かったが近年は言語も多様化している。

文部科学省総合教育政策局国際教育課長の釜井宏行氏は「日本語指導が必要な児童生徒が急速に増えるなか、言語の多様化や居住地域の集住化・散在化が進み、様々な施策を総合的に組み合わせながら対応していく必要が出てきています」と話す。留意すべきは、外国籍の子どもたちの数と日本語指導が必要な子どもたちの数は必ずしも1対1で比例していないということだ。

「外国籍の児童生徒が多くても、日本語指導が必要な児童生徒が少ない地域もあれば、外国籍の児童生徒は少ないけれど、日本語指導が必要な児童生徒が多い地域もあります。また、散在地域のICTを活用した教育支援なども含め、地域の特性を見た上で、自治体と連携しながら効果的な対策を講じる必要があります」

図表 公立学校における日本語指導が必要な児童生徒数の推移

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文部科学省では「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議」を立ち上げ、包括的な教育環境の構築や教職員のスキルアップなど、施策の検討を進めている。

「少子高齢化の進む日本においては、今後、外国にルーツを持つ人々との共生は当たり前となっていきます。そうした中で、学校教育が果たす役割は非常に重要です」

既存2事業を量的に拡充
ICT活用など自治体の取組みを支援

文部科学省の2026(令和8)年度の概算要求では従来の事業「外国人の子供の就学促進事業」(以下「事業1」)と「帰国・外国人児童生徒等に対するきめ細かな支援事業」(以下事業2)の拡充を盛り込んでいる。

事業1は、就学前の支援として2015(平成27)年度から開始しており、就学状況等の把握のほか、就学ガイダンス、日本語指導、学習指導などを支援。約8600人の子どもたちの不就学の可能性が指摘される中、外国にルーツを持つ子どもたちが、言葉の壁などから学校に行けない不就学になることを防止し、全ての外国人の子どもたちの教育機会の確保を目指す。

事業2は、義務教育段階・高等学校段階の支援として、2013(平成25)年度から開始。拠点校方式による指導体制構築、日本語指導補助者や母語支援員の派遣、オンライン指導や多言語翻訳システム等のICT活用、高校生に対する包括的な教育・支援等に必要な費用を自治体に支援する。

事業の成果に対して釜井氏は「就学状況の把握では就学状況を確認できない子どもの割合は減少しています。また、日本語指導のための『特別の教育課程』の『取り出し指導』の定着も進んでおり、ICT活用も含め、地域の実情に沿った指導体制の構築が進んできたと感じます」と話す。

一方で、冒頭の通り日本語指導が必要な児童生徒は約10年間で2倍、必要な支援が「量的に足りているのか」が課題となってきている。

「(事業2の)支援自治体は、2024年度の197から25年度は221(33都道府県、19指定都市、31中核市、138市区町村)に増えました。今後も増えることを念頭に、補助事業として十分に行きわたらせることが最優先と考え、相当程度の増額を目指します。この支援は、登録日本語教員をはじめとする日本語指導補助員や母語支援員、ICTの活用なども含め、比較的柔軟に活用できる制度になっていますので、ぜひ活用いただきたいと思っています」

「チーム学校」で取組むための
事例と選択肢を示す意義

概算要求では新規事業「外国人児童生徒に対する指導および支援体制の充実に関する調査研究事業」(4,000万円)を盛り込んでいる。

事業内容は2つ。1つ目は外国人児童生徒等への日本語指導、総合的・体系的なカリキュラムを検討し、デジタル技術や教材等の効果的な活用も含む指導のガイドラインを作成すること。2つ目は支援体制に関する手引きの作成だ。日本語指導補助者及び母語支援員に関し、業務内容(在籍学級及び取り出し授業での関り、教員等の連携方法等)や研修等の実態を把握し、効果的な支援体制の構築や資質・能力の向上等に向けた方策を検討し手引きを作成する。

「日本語指導補助者や母語支援員を充実させながら、教員との効果的な連携を考えていく。日本語指導補助者だけに閉じるのではなくワンチームとして『チーム学校』で取組むことが重要です。そうした配置、連携の仕方をグッドプラクティスとしてまとめ、手引きにしていく。地域によって多様化が進んでいるので、事例と選択肢を示すことが極めて重要です」

有識者会議でのこれまでの主な論点は大きく3つ。1つは、日本語指導も含め、最終的に教科指導へどう結び付けていくかという、教科内容。2つ目は、量的に増えていくなかで、先端的な技術の力を活用し、より効率的・効果的な教育に結びつけていく、ICTやAI活用の観点。そして3つ目は、それらに付随する体制整備の問題だ。

「外国にルーツを持つ子どもたちの教育課題には様々なプレイヤーが協力し、全体として組み合わせて対応することが肝心です。教師、日本語指導補助者、母語支援員、管理職を含め『チーム学校』として、どう充実を図っていくのか。今後、様々なルーツを持つ子どもたちと共生しながら日本が生きていく。そのために必要な対策を講じる必要があることを、1人ひとりが認識しながら協力していく体制が大事だと思っています」

 なお、有識者会議では、2026 年春頃にかけ論点に対するとりまとめを行うべく、議論を進めている。