RESASで地域探究とデータリテラシー教育を

地域経済分析システム(RESAS:リーサス)は、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部が提供するビジュアライズされた地域データベースで、これまで自治体や地域企業等に活用されてきた。RESAS for Teachers は、教育向けに2020年3月にリリースされた。同事務局より寄稿いただいた。

背景

新学習指導要領で「社会に開かれた教育課程」が謳われ、実社会で課題を解決する能力の涵養が重視されるようになった。その実践の場として地域社会が注目され、「地域探究」を各教科に導入する流れが進みつつある。いきなり企業などにアポをとって学校から地域社会に飛び出すのも良いが、その前に地域をデータで分析すると、より地域に対する理解が深まるだろう。

また、Society5.0では、理系人材にデータを扱う能力が求められるのはもちろん、文系人材にもデータ分析の方向性を決める問題設定、分析結果の解釈、企業戦略や政策への応用など、データリテラシーはますます重要になるだろう。こうした能力を実践的に身に付けるには、身近で課題山積な地域社会という場は魅力的である。

地域データの分析の手法は様々なものがあるが、導入としてお勧めしたいのが RESAS(地域経済分析システム)だ。RESAS には地域の人口や産業構造、観光、財政などに関する幅広いデータが入っており、クリックだけでデータを選び、地図やグラフの形で見ることができる。

元々は中小企業政策や地方創生のために作られたシステムだが、直観的に操作できるため、データ分析の入門ツールとして教育現場でも活用していただけるものとなっている。

RESAS for Teachers

今年の3月、これまで RESAS に触れたことのない先生でも RESAS を円滑に授業に導入できるよう、授業モデルを作成し、RESAS for Teachers という Web サイトで公開した。この授業モデルを作成したのは、RESAS を積極的に授業で活用し、内閣府地方創生推進室が主催する地方創生☆政策アイデアコンテストに生徒とともに挑戦しておられた8名の中学校・高等学校の先生方である。

この授業モデルは、「総合的な探究の時間」(4コース)に加え、「地理歴史(地理総合)」、「国語(現代の国語)」、「情報(情報Ⅰ)」、「商業(観光ビジネス)」(1コースずつ)の計8コースあり、投影用資料や生徒用のワークシートを PowerPoint でダウンロードできるため、使いたいものを選び、自由にカスタマイズして使うことが可能だ。

また、全て文部科学省の視学官/教育課程調査官に確認してもらい、いただいたコメントを反映しているので、品質についても安心していただけると思う。

図1 探求プログラムでの活用例

出典:厚生労働省「医療施設静態調査」、「意思・歯科医師・薬剤師調査」、「衛生行政報告例」、「患者調査」、総務省「人工推計」、「住民基本台帳に基づく人口」

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授業モデルを作成するための検討会で座長を務めた、岡山県立倉敷商業高等学校の川崎好美教諭は、次のように語っている。

「今は新学習指導要領の移行期間で、時代の流れに合った新たな教育が各教育現場で模索されている。RESAS の良いところは、一次情報が載っていて中立的な情報を提供してくれる、視覚的で生徒にとって親しみが湧く、地域間比較や時系列比較など資料集ではなかなかできない分析を簡単にできる、インターネット環境さえあれば気軽に誰でも無料で使える、などがある。RESAS をどう教育に活かすか、他の7名の先生方と長い時間をかけて議論を重ねた」

総探のコースの1つである「地方のチェンジ・メイカー育成プログラム」は、ピラミッドチャートなどの思考ツールを使って解決すべき問題点を洗い出し、アイデアを組み立てて企画書を作る教材で、生徒のみでも調べものや論点整理をしながら、地域探究をできる。

4月からの全国的な休校のとき、生徒の学びが停滞しないよう、当該教材を作成した学校法人川島学園れいめい中学校・高等学校の上門大介教諭らが、自宅でこの教材を使って学んだ成果を発表する「自宅 de 地域探究」を企画するなど、発展的な取組にもつながっている。

図2 ピラミッドチャート

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RESAS de 地域探究

今年度は、この授業モデルをより多くの先生方にお使いいただくため、「RESAS de 地域探究」という一連の取組を行っている。

7~8月に3回にわたってオンラインイベント「RESAS de 地域探究フォーラム」を開催し、8名の先生方に、それぞれ中心になって作成した授業モデルの活用のポイントなどについて説明していただいた。この様子は、動画を掲載しているので、Web サイトからご覧いただきたい。

11月頃には、「探Q!RESAS」というオンラインイベントを、地域ごとに10回程度に分けて開催する。

ここでは、上記フォーラムを受けて RESAS を活用した授業を実践してくださった先生・生徒に、その成果を発表していただく。新型コロナの影響でリアルな場で開催できないのが残念ではあるが、このイベントには地域の商工団体や企業の方などにもご参加いただき、教員間のみならず、地域のプレイヤーとのコミュニティ形成にもつなげていきたいと考えている。

さらに、来年の2月には、一連のイベントを締めくくりつつ、来年度以降の活動につなげる「RESAS de 地域探究シンポジウム」を開催する予定だ。

なお、授業での実践の成果発表の場として、地方創生☆政策アイデアコンテストを開催している。「高校生・中学生以下の部」があり、例年10月頃に応募を締め切り、12月が最終審査会(決勝プレゼン)となっている。RESAS や地域探究で学び、考えた成果を試す場としてお使いいただければ幸いである。

関連 Web サイト