NPOのコミュニケーション戦略に学ぶ、事業を通じた社会課題の解決法

社会構想大の3つ目となる新研究科、社会構想研究科。現状を学術的に把握した上で、社会のあるべき姿を描き、政策やソーシャルビジネスを通じてそれを実現できる人材を育成する。だがそもそも社会構想とは何なのか?社会構想研究科ではそれをどう教えるのか?所属教員が全12回のリレー形式で解説する。

少しのリソースで大きな変化を
起こすためのNPOの戦略

坂本 文武

坂本 文武

社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科 教授
専門分野:社会変革を志す組織と社会のコミュニケーション
担当科目:ソーシャル・コミュニケーション
米国での非営利経営学修士課程修了後、NPOの経営コンサルティングを経て、2001年より企業のサステナビリティ経営及びコミュニケーションを支援する独立コンサルタントを兼ねる実務家教員。著書に『NPOの経営――資金調達から運営まで』(日本経済新聞出版、2004年)など。

筆者は、社会構想大学院大学にて社会を変える「ソーシャル・コミュニケーション」を考える講義科目を担当している。本稿ではソーシャル・コミュニケーションの要点を、履修する院生たちが調べたNPO(民間非営利組織)の事例を引用しながら考えたい。

NPOは、暮らしの中の生きづらさや息苦しさに対して、市民が自ら関わり、協力しあう活動である。お金や労働、専門能力などの経営資源を見返りなく預かり受け、困難に直面する人たちを支援していく。扱う社会課題が深刻化するスピードを上回る成長を目指して、「借り物」を増やす戦略を実行する。

しかしながら、NPOが自組織の拡大を志向することは実は少ない。米国でのある研究は、「偉大な組織は、自力で実現できるよりもっと大きな影響力を生み出すために、他の組織や人々と一緒に働き、彼らを通じて働きかける」と考察している1。小さな規模でより大きな成果を生みだす「小さな巨人」志向なのだ。

社会での影響力の広げかたも多様だ。「エンドゲーム」(活動の出口戦略)研究が、いくつかのルートを示してくれている2

「オープンソース化」や「レプリケーション」(複製・再現)は、ビジネスモデルとして他の組織にも容易に応用可能だろう。フランチャイズなどの「スケールアウト」(水平展開)もそのひとつだ。例えば産後ケアを提供するNPO「マドレボニータ」は、ママたちのヨガ教室をフランチャイズ化して活動を広げた。

「行政施策への導入」という出口もよくとられる。一例を挙げれば、病児保育から始まったNPO「フローレンス」は、自らつくったパイロット事業を政策にする戦略をとっている。小規模保育所や医療的ケア児への支援制度や、こども宅食制度などは、同団体のビジネスモデルを行政施策にして全国の他団体が取り組めるようにしたものだ。

成功しているNPOに学ぶ
事業を通じた社会課題の解決法

ところで、ソーシャル・コミュニケーション研究という領域はいまだ発展途上にある。そのため筆者自身、毎年講義において履修者とともに事例を通して要点を探る議論を重ねている。その中で出てきたポイントを3つに絞って紹介し、さらなる議論の手がかりとしたい。

第一は「描く技術」だ。いまそこにある社会課題を、具体的な数字で可視化する。課題の根っこにある問題を、当事者の代弁者(アドボケイト)として物語や動画で表現する。さらに、NPOが目指す目標や戦略を大胆かつ精密に描き出す。未来をつくる仕事の一部を支援者が実感しやすくするためだ。

例えば若者の就労支援を手掛けるNPO「育て上げネット」は、社会とのつながりを失った若者が全国に200万人いること、彼らへの支援は未来社会への投資であることをロジカルに説明している。社会課題を等身大の問題として描くことが重要と言えるだろう。

第二は「つながる技術」だ。問題意識を共有できる人や組織とつながり、未来に向けて協業できる組み合わせを生み出し続ける。

例えば児童買春撲滅の取組みから始まったNPO「かものはしプロジェクト」は、「対話をしながら社会をつくる」ことを丁寧に実践している。支援者たちの声を拾い活かすために年20回以上、全国各地に足を運び、つながりを強めている。

また一部のNPO代表者たちは、業界内でつながり合い、経営力を高め合うために「新公益連盟」を設立し、より多くの課題解決事例が創出され続ける社会づくりに取り組んでいる。

短期的な自社利益以外に、中長期的なソーシャルセクターの市場形成までをも視野に入れ、あらゆる可能性に出向きつながり、連携を持ちかける。これが成長するNPOの特徴と考えられる。

最後に「動かす技術」である。感情をゆさぶるコミュニケーションだ。41万人以上の個人から毎年およそ110億円の寄付金を集め、トップクラスの実績を上げている国際医療団体「国境なき医師団」には、どのような人にどこからアプローチするのか、思いのある人が寄付を託すための導線のデザイン、感情に訴えるマーケティングについて豊かな知恵が蓄積されている。

時にそれがセンセーショナルになることもあるため、NPOの中では倫理的に正しいのか、自問自答しながら取り組んでいるという声も聞こえてくる。

「アクティビストの時代」における
ロールモデルとしてのNPO

社会課題の解決やシステム変革に企業の影響力を行使する「ブランド・アクティビズム」が欧米で浸透し、企業が意思や立場を表明する時代に入って久しい3

複雑にからみあって問題化している社会の諸相を理解し、事業でその解決を図るためには、NPOが生み出す新たな生態系に加わり、議論を重ねることも一案だろう。企業も社会課題に取り組む「アクティビストの時代」において、NPOから学べることは多い。

1 レスリー・クラッチフィールド、ヘザー・マクラウド・グラント『世界を変える偉大なNPOの条件――圧倒的な 影響力を発揮している組織が実践する6つの原則』服部優子訳、ダイヤモンド社、2012年。
2 アリス・グゲレフ、アンドリュー・スターン「あなたのエンドゲームは何か?――<本当に目指したい姿>を見出す」遠藤康子訳、SSIR Japan(編)『これからの<社会の変え方>を、探しにいこう。――スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー
ベストセレクション10』英治出版、2021年、pp. 54-71。
3 Christian Sarkar and Philip Kotler, Brand Activism: From Purpose to Action, IDEA BITE PRESS, 2021.