「実務家教員としての生き方」文部科学省後援 実務家教員COEシンポジウム

高等教育機関等で、豊富な実務経験をもち社会や産業の課題を把握できる実務家教員の登用が進んでいる。令和4年度実務家教員COEシンポジウム「実務家教員としての生き方」では、3名の実務家教員が教員実務の実際と今後の展望を語った。

シンポジウムは文部科学省「持続的な産学共同人材育成システム構築事業」の中核拠点校である社会構想大学院大学の実務家教員COEプロジェクトが主催。基調講演に続き、実務家教員の「語り」を通して、あらゆる人が自分の経験を磨き社会に還元する可能性を考えてもらえるよう、現役で活躍する3氏が登壇した。

シンポジウム当日(9月11日)の様子。左から就実大学経営学部経営学科 教授の宮前善充氏、日本女子大学リカレント教育課程担当講師・キャリアカウンセラーの冨山佳代氏、中京大学スポーツ科学部スポーツマネジメント学科 准教授の芦塚倫史氏。右端はモデレーターを務めた社会構想大学院大学 実務教育研究科の伴野崇生准教授

シンポジウム当日(9月11日)の様子。左から就実大学経営学部経営学科 教授の宮前善充氏、日本女子大学リカレント教育課程担当講師・キャリアカウンセラーの冨山佳代氏、中京大学スポーツ科学部スポーツマネジメント学科 准教授の芦塚倫史氏。右端はモデレーターを務めた社会構想大学院大学 実務教育研究科の伴野崇生准教授

スポーツマネジメントの
実務経験を活かして教員に

中京大学スポーツ科学部スポーツマネジメント学科で准教授を務める芦塚倫史氏は、大学卒業後、大手印刷会社や外資系広告会社勤務を経て、英国リヴァプール大学でサッカー産業MBAを取得。帰国後は外資系のスポーツマネジメント会社の日本代表などを務め、ラグビーW杯や東京五輪のスポンサー活動業務も経験した。

昨年4月から大学に勤務し、スポーツマーケティング論やスポーツマネジメント演習、スポーツマーケティングをテーマとするゼミと卒業研究を担当。今秋からは、ダイバシティ社会論の講義も担当している。

「実務経験で得た実践知や人脈、スキル等を総動員し、学生の部活動やサークル活動、アルバイト、就職活動など現在の活動、そして将来のキャリア形成に役立つ学びを提供することが私のミッションと考えています」と芦塚氏は言う。

芦塚氏は実務家教員にはアカデミアとの差別化が期待されていると考え、5つの目標を掲げている。

第一に、自らが実務で経験した事例を題材に演習や授業を実施すること。第二に、実務を通して構築した人脈を活かし、第一線で活躍するゲストスピーカーを多数招くこと。第三に、そうしたゲストスピーカーから出題されるスポーツビジネスに関するテーマについて学生が考え、プレゼンテーションする実習を行うこと。第四に、企業の訪問やスポーツ施設の見学・観戦を積極的に行うことで、学外でも学びを深めさせること。第五に、ゼミでは事前説明会や授業見学などを充実させ、多くの学生が志望するような学部トップのゼミを目指していること。

「授業の質向上に向けた学生のアンケートでは、大学全体の平均を上回る高い評価を得ることができました。私は社会構想大学院大学の『実務家教員養成課程』修了生でもあり、そこでの学びは大いに役に立っていると思います。今後はスポーツSDGsにフォーカスして、研究や社会貢献活動を展開していきたいと考えています」(芦塚氏)

キャリアマネジメント講師や
キャリアカウンセラーで活躍

日本女子大学リカレント教育課程担当講師でキャリアカウンセラーの冨山佳代氏は、男女ともに仕事も子育ても楽しみ挑戦できる社会を目指し、企業内のダイバーシティ推進やキャリア両立支援に従事してきた。

この社会課題への別アプローチが大学での女性支援だ。リカレント教育課程では、育児や進路変更などで離職した社会人女性が1年間のキャリア教育を通じて再就職を目指すコースで、2016年からキャリアカウンセラー、2018年からはキャリアマネジメントの授業も担当している。また、実務家教員COEプロジェクトの模擬講義の評価にも携わっている。

「私は、保険会社で法人営業や人事を担当し、そのなかでも特に、人材育成方針に基づく研修の企画や教材作成の経験が大学でのシラバスや教材作成に役立っています」(冨山氏)

また、冨山氏はコンサルティング会社で採用や評価業務に携わった後に起業しており、こうした経験は受講生の再就職活動や起業に向けたアドバイスに役立っている。さらに自身の資格取得経験から、資格を仕事につなげるためのアドバイスも行っているという。

大学での業務と並行して、本や雑誌の執筆活動を通じて自らの経験を文字にすること、企業研修の講師やキャリアカウンセラーの仕事を続けることにこだわっている。「学外の仕事では私の支援に対する忌憚のない評価や新しい情報が得られ、複数の現場を掛け持ちすることは実務家教員の一番の支えになっています。プライベートな経験も、1つとして無駄なことはなかったと思います」(冨山氏)。

地方企業出身で地方の大学に
勤める実務家教員に就任

一方、就実大学経営学部経営学科教授の宮前善充氏は以前、岡山県に本店を置く中国銀行に勤務し、系列のシンクタンクでも業務に携わってきた。昨年4月からは「地方企業出身で地方の大学に勤める教員」として、実務家教員を務めている。

「実務家教員といっても、大学に入れば研究者教員と同様に、教育や研究実績、その他もろもろを求められます」と宮前氏は自らの経験を語る。担当科目は学部4学年のゼミのほか、総合教養科目と専門科目を前・後期に1コマずつ担当。加えて大学事務の仕事も多く、多忙な日々を送っている。

実務家教員としては、講義やゼミ、就職相談といった場で学生と対峙する際に、実務で得た知識を最大限に伝えられるよう心がけている。特に、教科書にはない地元企業や地元経済に関することを具体的に伝えているという。

また、学生に主体的に考えてもらう場合は、会社で部下や同僚を指導したり、悩みを聞いたりした経験も役に立つ。「言わなくてもわかるだろうと甘えず、まだイロハがわからない子どもに接するような気持ちで、わかりやすく、彼らが理解できる言葉で説明することが必要だと思っています」(宮前氏)。

実務家教員として最も重要と考えているのは、ネットワーキングだ。このため、今後は地域の経済人を招いて話してもらったり、研究面では同僚の教員の話を企業の人に聞いてもらうなど橋渡しの役割も果たしていきたいという。

「私自身が学ばないといけないこともたくさんありますが、他方で自分の経験に、謙虚に自信をもつことも大切だと思います。学生や大学、地域社会にどのように貢献できるか、貢献のバックボーンは何かと考えると、やはり実務を通した経験が重要でしょう。そういった面を棚卸しし、自身をブラッシュアップしていきたいです」(宮前氏)