端末整備後に現場で必要なことは?デジタル教材やデータ利活用の要点

GIGAスクール構想で、多くの初等中等教育機関で1人1台の端末などのハード整備が完了した。しかし授業における効果的な端末活用などは課題も多い。EdLog代表取締役社社長の中川哲氏が、学校現場に必要な通信環境やデジタル教材、その活用についてポイントを解説する。

Society5.0時代に向けた
GIGAスクール構想の正しい理解を

中川 哲

中川 哲

株式会社EdLog 代表取締役社長
文部科学省 初等中等教育局 視学委員(GIGAスクール戦略担当)
国内ITソフトハウスを経て、1997年にマイクロソフト株式会社(現 日本マイクロソフト株式会社)へ入社。業務執行役員としてWindows 等の主力製品の出荷を担当し、2011年より教育機関担当の業務執行役員 本部長等を務める。2017年に日本マイクロソフト株式会社を退社。株式会社 EdLog を設立するとともに、文部科学省へ入省し、初等中等教育局プログラミング教育戦略マネージャーとして活動し、2020年12月より初等中等教育局 視学委員として、GIGA スクール構想をはじめとする教育の情報化を担当。「月刊先端教育」で「ICT教育の真価」を連載中。

「GIGAスクール構想によって1人1台の端末が、ほとんどの小中学校に整備されていると思います。それを、上手く活用するためには、そもそも、なぜ『GIGAスクール構想』が立ち上がったのかを、正しく理解する必要があります」と、EdLog代表取締役社長の中川哲氏は話す。

2020年度に小学校から実施され始めた新学習指導要領の総則には「情報活用能力は学習の基盤」と記されている。社会でより豊かな生活を送るため、子どもたちの「生きる力」を育むのが学校教育の役割。そして、日本政府は、これから子どもたちが生きていく世界を「Society 5.0」と呼んでいる。

狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)が高度に融合した5番目の社会。その「Society5.0」の時代を豊かに生きるための学びとして、新学習指導要領では「主体的で対話的な深い学び」が重要であるとしている。

技術革新や変化のスピードが早い世界では、主体的に常に自ら学ぶ姿勢が非常に重要だ。また、社会が多様化し問題が複雑化するなかでは、様々な知恵を集めて課題を解決していく対話力も必要となる。そして、溢れる情報の中から必要な情報を的確に知るためには、物事を深く考える能力が欠かせない。

「主体的で対話的な深い学びは、『Society5.0』の世界を生きるために重要な要素で、この新しい学習指導要領を確実に実行していくために、インターネット接続を前提とした学習者1人1台の端末を整備する、『GIGAスクール構想』が必要だったのです」

ICTを活用し習熟度別の学びや
コンピテンシーの獲得を目指す

ICTはあくまで道具だと中川氏は強調する。1人1台整備された端末をどう上手く利活用していくかが、大きなポイントとなる。授業におけるインプット&アウトプットの様々な場面で、道具となるICTを、メリハリをつけ、効果的に活用していく必要がある。

中川氏は、端末配備後の実践事例として、ある小学5年生の国語で交通標語を作る授業を紹介。

授業の導入として先生が交通標語について説明した後、標語に使うキーワードを子どもたちが端末データを共有しながらあげていく。同時に先生が、出たキーワードの頻度をグラフなどで示す。その後、交通標語を各自、紙に書き、それを見せ合って意見交換。最後にデジタルで投票し集計する。

「ポイントは、この授業で児童がICTを活用した時間は45分中13分であることです。1人1台端末が整備されたからといって、45分間ずっと端末を見続ける必要はないのです」

重要なのは、授業全体として、友達と共有、議論、評価しあいながら新しいものを習得していく能力を養うこと。授業の中で、ICTを有効に活用し、子どもたちが自身で情報を調べ、共有していく中で、コンテンツだけではない、コンピテンシーを獲得していくことが望ましい。

次にデジタル教科書の活用事例だが、小学校5年生の算数の習熟度別クラスでの活用がある。

同じ問題に対し、習熟度別に、図を動かす、補助線を引く、自分の求めた式を説明するといった、別々のアプローチを行う。同じデジタル教科書の同じ問題を、発達の段階に応じて多様に使い分けることができる。

「さらに、学習ログが全て記録されていることも、デジタル教科書の良さです。データを分析することで、どの児童がどんな教材を使って物事を理解しようとしているのか。他にも様々なことが、データによって分かるようになるかと思います」

1人1台端末の利活用は
インターネット接続が大前提

ICTを活用した授業、デジタル教科書やデータの活用など、GIGAスクールでの学びはクラウド活用、全てインターネットの接続が大前提だ。

「交通標語の事例はクラウドで行っており、ネットワークに繋がらなければできません。デジタル教科書はブラウザベースの配信が前提となっており、クラウドでの提供になるため、接続できなければ使えないのです」

「GIGAスクール構想」における国の補助は、端末と校内ネットワークの整備となる。そこから先は、学校や教育委員会がインターネットの接続を構築していく必要がある。ここが従来のままの細い回線では、せっかく先生がクラウドを活用して授業をしようと思っても、インターネットがうまく繋がらない事態も起こり得る。

「自治体ごとにネットワーク整備を行っていく必要があるため、地域差がでやすい部分です。教育委員会は、学校のネットワーク接続の現状を把握し、積極的に増強していく必要があるでしょう」

1人1台の端末は、インターネットに接続されてはじめて、デジタル教科書やコンテンツを効率的に使ったり、授業でクラウドを用いた情報共有・発信を行うことができるようになる。その先には、記録されたデータを活用し様々な分析を行うことで、子どもたちに個別最適な教材を提供することも可能となっていく(教育データ利活用の全体像は図参照)。

図 教育データ利活用の全体像

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まずは、クラウド前提のシステムを作ること。その上でデジタル教科書などを導入し、そこで取れるデータを日々の活動や理解、教育の進捗管理に活用していく。

「インターネットに接続し、データをしっかりと地域が持っていくことが非常に重要になると思います」

様々なモノがインターネットに接続され、そこから様々なデータを収集し、それをAIが自動的に分析して人々の生活を楽にしてくれる。これが「Sciety5.0」の世界で、その世界を学校にも同じように再現していく。

「新学習指導要領で示されている『生きる力、学び、その先へ』という所の実装をしていただき、より良い学びの環境を実現していただきたい。『GIGAスクール構想』後に子どもたち全員の端末がしっかりとインターネットに接続され、利活用できる環境を整備していただきたいと思います」