小金井市×学芸大×NTTコム 3者連携で目指す新しい学びの創造[AD]

東京都小金井市、東京学芸大学、NTTコミュニケーションズは2021年4月、連携協定を締結した。3者連携で目指す「未来の教育の創造と発信」や今後の展開について、産官学それぞれの視点から語っていただいた。

GIGA スクール構想により、4月から全国の小中学校で1人1台端末を活用した学びが本格的にスタートした。同月に締結された「GIGA スクール構想による個別最適化された深い学び等の実現に関する連携協定」を受けて、小金井市の大熊雅士教育長、東京学芸大学の川手圭一副学長、NTTコミュニケーションズ スマートエデュケーション推進室担当課長の稲田友氏による鼎談を行った。

産学官の三位一体で、真の GIGA スクール構想実現へ

──今回の連携協定締結に至った経緯と、3者の関係性についてお聞かせください。

大熊 雅士

大熊 雅士
小金井市 教育長

大熊:小金井市では、2017年より総務省の「次世代学校 ICT 環境」の整備に向けた実証事業に参画するなど、GIGA スクール構想以前より学校の ICT 環境の整備に取り組んできました。コロナ禍で急遽 GIGA スクール構想が前倒しになった際に、私たちは2つの大きな課題に直面しました。一つは教員の ICT スキルの差、もう一つは、ICT 活用に重点を置くあまり、教科の狙いを十分に達成できない懸念があることです。

この2つの課題を解決するには、ICT 環境の整備に加えて、教員の ICT スキルの向上や授業設計の在り方の研究など、さまざまな対応が必要です。そのためには、授業の研究について長年の蓄積がある東京学芸大学と、「まなびポケット」を通じ多様な教育コンテンツを提供可能な NTTコミュニケーションズが、各々の人的・物的・知的資源を持ち寄ることで、真の GIGA スクール構想が実現できると考えたのです。

稲田 友

稲田 友

NTTコミュニケーションズ スマートエデュケーション推進担当課長

稲田:弊社が提供する「まなびポケット」は、WEB ブラウザでアクセスできるクラウド型の学校向けプラットフォームで、各社のデジタル教材、学習コンテンツ、授業支援システムなどのさまざまなサービスが利用できる他、個々の学習状況を管理するサービスを提供しています。今回の3者連携では、「まなびポケット」を活用した教育実践による効果検証を図るとともに、小中学校における ICT 研修や利活用のサポート、小中学校が取り組む研究テーマへの連携・協力を行っていきます。

弊社も参画した総務省の事業では、1人1台の環境を前提とした学びの可能性についてさまざまな角度から実証してきましたが、3者連携はその延長線上にあるものと捉えています。当時より蓄積されてきたノウハウも取り入れつつ、最終的には他の自治体にも横展開できる「小金井モデル」を確立したいと考えています。

川手 圭一

川手 圭一
東京学芸大学 副学長

川手:本学のキャンパスが小金井市に所在することもあり、私どもは小金井市と教育実習や教員研修、授業研究を協力して進めるなど、さまざまな形で連携を図ってきました。今日、国立大学には「社会に開かれた大学」として研究成果の社会還元が求められています。この連携協定を通じて、本学が目指すものは、ICT×教科研究の融合、研究成果の発信、教員養成の促進にあります。具体的には、ICT を活用した授業が教科の狙いを達成できているか、学術的にアドバイスを行うこと。

そして、ICT を効果的に活用した最先端の授業構築に向けて研究・検証を行い、その成果を発信し、日本の教育発展に寄与すること。さらには、ICT を活用した授業の参観を行い、次世代教育推進の役割を担える教員を養成すること。大きくこの3つを実現したいと考えています。

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──今後、どのような取り組みが進められていくのでしょうか?

稲田:現在は整備された1人1台環境を前提として、各校が策定している研究テーマを精査している段階です。たとえば、「社会とつながり未来を創る子供の育成」「主体的に考え学びの場を教師とともに創る児童の育成」などの研究テーマが計画されています。これらの研究テーマをより深堀りし、1人1台の環境が日常活用される前提で、新しい授業・学習へのアプローチを検討していきます。

ICT が日常化することで、児童・生徒が扱う情報量が加速度的に増加し、インプットよりアウトプット、主体的な学びの機会を増やしていきたいです。さらに個々の認知特性などに合わせた学習を行っていくことで、すべての児童・生徒の可能性を伸ばす研究を行っていく予定です。

また、学校現場ではハード面で急速な ICT化が進む一方、それを受入れる学校での体制、ソフト面の対応が追いついていません。市内全14校で「ICT のリーダー」となる先生を任命し、校内での日常活用を促進していきつつ、学校間の横の連携を図る体制を構築し始めています。

エージェンシーを育成する、未来の教育モデルを構築

──連携協定の基本コンセプト「未来の教育の創造と発信」の意図についてお聞かせください。

大熊:先行き不透明な時代でも自分らしく生きていく力を育てるためには、ICT を活用して知識的な学びを効率化することで、体験活動や問題解決学習などの考える学びを充実させる必要があります。今や効率的に学べる学習コンテンツがたくさんありますから、知識の獲得だけであればデジタル端末に任せればいい。

先生方にしかできないことは、「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授業改善であり、学びの本質に迫った授業を展開していくことにあると考えています。

OECD(経済協力開発機構)が2015年から推進している「Education 2030」では、「Agency(エージェンシー)」が中心的な概念に位置づけられています。エージェンシーは「自ら考え、主体的に行動して、責任をもって社会変革を実現していく姿勢・意欲」と訳されていますが、これからの時代、こうした資質・能力が欠かせません。

エージェンシーの育成には、見通し(anticipation)・行動(action)・振り返り(reflection)という AAR サイクルの実践が必要だと言われていますが、3者連携によりこの AAR サイクルをスピーディーに回すことで、子供の特性に応じたエージェンシーを育成していくことも狙いの一つです。

稲田:紙ベースでも、授業後の振り返りシートや学期の目標設定など、AAR サイクルに近いことは行われています。しかし、目標を立ててもそれを定量的に振り返ることや、短い期間でサイクルを回すことはなかなかできていないのが実態ではないでしょうか。

1人1台端末環境によって個々の学習データが蓄積されていけば、「目標に対してどれくらい達成できたか」を、日々定量的に振り返ることも可能です。学校における教育データの収集を支援し、学習履歴からその子の見えない学力を可視化し、先生や子供たちに返していくことも、私たちの役割だと考えています。

川手:AAR サイクルを回すと言っても、皆がスーパー教師になれるはずもなく、人間が一人でできることには限界があります。また、AAR サイクルを回す過程では、当然、成功だけでなく失敗も出てきますし、失敗から得られる気づきもあるでしょう。

そうした失敗事例も含めたデータの収集・分析に関して、本学が学術的に助言し、成功も失敗も含めた研究結果をどんどん発信していくことで、学年や学校、地域を超えて先生同士の連携が生まれることを期待しているところです。日本の教員養成を担う中核的な大学である本学が、多様な教育機関との連携を図るプラットフォームの役割も果たしていけたらと考えています。

教材の選択肢を広げ、多様な学びを実現

──小金井市は「まなびポケット」上で多種多様な学習コンテンツが利用可能になる定額制・使い放題プラン「まなホーダイ」を全国で初めて導入されますが、ICT の力を使って、どのような学びの形を実現されていくのでしょうか?

大熊:「まなホーダイ」の価値は、先生や児童・生徒が多種多様な学習コンテンツを自ら選択できることであり、それはデータ分析に基づく認知特性に応じて個別最適化された学びを提供できる点にあると思います。近代以降の学校教育には数々の反省点がありますが、その一つが子供の認知特性に応じた授業が行われていなかったということです。

外部から受ける情報の処理方法は一人ひとり異なるにも関わらず、これまでは黒板とチョークを使った画一的な授業が展開されてきたのです。それがデジタル端末を使うことで、たとえば文字を認知しづらい特性を持つ児童・生徒には音声で伝えてみる、といった個別最適化が図れるようになります。

稲田:認知特性に応じたテーラーメイドな学びを実現するには、子供の多様性が尊重されることと同じように、学習コンテンツも多様性が求められるのではないでしょうか。しかし現状は、教育委員会が学習コンテンツを決め、先生方は与えられた条件の中で授業づくりをするしかなく、子供たちも一つの学習コンテンツで学ぶしかありません。

多様な子供たちがいて、様々な授業・学習方法があるのであれば、教材やアプリを自由に選択できる環境を作る必要があります。それが「まなホーダイ」提供のきっかけでした。まなホーダイでは、多種多様な学習コンテンツを安価に使える上に、すべての学習コンテンツのデータを集約して管理することができます。

例えば、ある教材の学習履歴を機械学習で分析したところ、その教材でもの凄く伸びる子と、ほとんど伸びない子のグループに分かれることが見えてきました。ほとんど伸びない子のグループも2つに分かれ、その教材で習得できる内容を既に理解している子と、そもそも教材ではなく人との対話によって理解を深める子に分かれることが分かりました。

このことを先生に報告すると「伸びる子は教材を継続利用し、既に理解できている子のグループと、人との対話で理解できるグループの子でペア学習をしてみよう」とお話され、それが見事にハマりました。教材と子供には当然ながら相性があり、学習データとそれを見取る先生の存在が、子供を伸ばす可能性に大きく関わると感じた経験でした。

大熊:もう一つ大きな可能性を感じているのが、不登校問題の解消です。コロナ禍で不登校の子供が急増する中、不登校の前兆となるサインを学習履歴データから読み解くことなどができるのではないかと考えています。

子供の使う言葉や提出物の文字数、あるいは健康状態や学習習慣などのデータを分析することで、不登校の理由を解明したり、不登校になる直前にアラートで知らせるなど、近い将来、子供の心理的な変化を早期に発見できるようになることを期待しています。

川手:学習に対する意欲が低下したときに、それを支援できる体制を作ることも重要だと思います。本学には、320名を超える教員が在籍し、それぞれの専門分野も多岐にわたりますが、不登校支援も含めた多様な教育課題に取り組んでいくには、教科の中身や学び方を研究するだけでは不十分であり、教育者として何ができるのかを考えていかなければならないと認識を新たにしたところです。

ICT の日常活用と、連携による新しい学びの創造

──今後、どのような取り組みが進められていくのでしょうか?

稲田:研究の有効性を高めるためにも、日常的にデータを蓄積していくことが不可欠なため、教育委員会とタッグを組み、まずは ICT 活用の定着化を支援していきます。次の段階として、東京学芸大学の知見を私たちの商品・サービスに落とし込み、それを先生方に還元していくことで新しい学びの形を作っていきたいと思います。

また、7月から本連携での取り組みを WEB上で発信していき、今年度末には成果報告も行いたいと考えています。ただし、その大前提にあるのは、やはり ICT の日常活用です。

学校現場ではハード面で急速な ICT化が進む一方、それを受け入れる学校での体制、ソフト面の対応が追いついていません。市内全14校で「ICT のリーダー」となる先生を任命し、校内での日常活用を促進していきつつ、学校間の横の連携を図る体制を構築し始めています。

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川手:現在は、各校から上がってきた研究テーマを詰めているところですが、テーマに合わせた実施体制を用意していきたいと考えています。その際に大切にしたいのが、「主体性」というキーワードです。大学側が現場で頑張っておられる先生方に指導するだけでは、単なる押し付けになってしまいます。

そうではなく、先生方と一緒に研究していく体制を作ることで、本学も多くのことを学びたいと考えており、3者連携のポイントもまさしくここにあると考えています。これからの教員には授業に ICT を活用する資質・能力が求められており、3者連携を通じて ICT 活用教育の現場を見られることは、将来の教員を養成するという点でも大きな意義を感じています。

大熊:ICT の利活用が進まない原因の一つは、教え込み教育から脱却できないことも大きく、これは ICT スキルの格差よりも大きな問題です。ぜひとも先生方には「教える」よりも「共に学ぶ」勇気を持ち、子供の主体的な学びを引き出す授業を作っていただきたいと思います。

この3者連携による研究が先生方のマインドを変えるきっかけとなり、共に未来の教育モデルを構築していくことができれば、これほど嬉しいことはありません。

取材後記

ICT 教育に対する産官学それぞれの立場からのお話を伺い、未来の新しい教育を創るためには多様な主体による連携が不可欠だと、改めて感じました。プラットフォームを利用した実証と、それに対する学術的アプローチによって、AAR サイクルをスピーディーに実践することが重要です。

端末の利活用においては目先の課題に追われがちですが、個別最適化や多様な学びの実現、学びの効率化など、GIGA スクール構想を実現する新しい教育のモデルを構築していくことが求められます。小金井市をはじめとして、各地でこうした取り組みが活発に進むことを願っています。

【お問い合わせ】

NTTコミュニケーションズ株式会社

NTTコミュニケーションズ株式会社
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tel:03-6733-7135
担当:仮屋園・村上

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