「カオスパイロット」元校長が語るクリエイティビティとその育み方
先端教育機構は5月15日、デンマークに拠点を置くビジネススクール「カオスパイロット」の元校長、クリスター・ヴィンダル=リッツシリウス氏を招いて、クリエイティビティとその育み方をテーマにセミナーを開催した。その模様をレポートする。

クリスター・ヴィンダル=リッツシリウス氏。カオスパイロットの校長を17年間に渡り務めた
クリエイティビティを重視した教育で
世界的に知られるビジネススクール
学校法人先端教育機構は5月15日、デンマークに拠点を置く世界的ビジネススクール「カオスパイロット」(Kaospilot)の元校長、クリスター・ヴィンダル=リッツシリウス(Christer Windeløv-Lidzélius)氏を招いて、セミナー「日本の未来を拓くクリエイティビティ――世界から見た日本の価値と機会」を開催した。
カオスパイロットは1991年、デンマーク第二の都市オーフスに設立。クリエイティビティを重視した3年制のプログラムにより起業家を育成しており、現在までに1,200人以上が修了している。『BusinessWeek』、『Fast Company』といった有力ビジネス紙・誌より、デザイン領域やスタートアップ領域において世界10指に入る学校のひとつと評価されている。
そのカオスパイロットの校長を、2007年から昨年まで17年間に渡って務めたのが、1971年スウェーデン生まれで、イノベーション論、戦略論、組織論が専門のヴィンダル=リッツシリウス氏。現在はストックホルム、バルセロナ、サンパウロの各都市の大学で、デザイン、アート、テクノロジー、ファイナンスを講じている。
セミナーでは、事業構想大学院大学の田中里沙学長との対談形式で、クリエイティビティとは何であり、どうしたら育むことができるのか、そしてクリエイティビティという観点から、日本にはどのような強みがあるのか語った。

先端教育機構2号館セミナールームにて行われた講演の様子。壇上左から3人目がヴィンダル=リッツシリウス氏、4人目が事業構想大学院大学の田中里沙学長。左から1人目と2人目は、それぞれ英日同時通訳と日英同時通訳を務めた、株式会社レア共同代表の坂本由紀恵氏と大本綾氏。大本氏はカオスパイロットにて初の日本人留学生として学んだ経験を持つ。右端はモデレーターを務めた、株式会社イノベーター・ジャパン代表で社会構想大学院大学コミュニケーションデザイン研究科准教授の渡邉順也氏

(左)ヴィンダル=リッツシリウス氏(右)田中学長
クリエイティビティを個人だけでなく
組織の次元でも実現するには
氏はまず、カオスパイロットにおける教育の前提には、人は生まれながらにしてクリエイティブな存在であるという、ヨーロッパにおける伝統的な考え方があると述べた。もちろんクリエイティブでない人もいないわけではない。しかしそうした人も、もとからそうであったのではなく、どこかでそうなってしまった。だからカオスパイロットの教育は、人をクリエイティブにするというよりも、人をそうでなくしているものを取り除くことに焦点を置いていると語った。
しかしそのようなわけで、クリエイティブな個人を育てるのはそれほど難しいことではない。問題は、クリエイティブな組織をいかにして作り上げるかである。メンバー一人ひとりは創意豊かであっても、組織全体としては硬直的、ということは珍しくない。個々がいくらアイデアを持ち合わせていても、それが各自の頭の中にとどまっていたのでは無意味である。アイデアをいかにして行動として外在化させ、クリエイティビティを組織の次元においても実現するか―それこそが重要であり、まさにここに教育の力が問われていると述べた。
それに対して、田中学長からひとつの案が示された。日本は華道、茶道など、さまざまな「○○道」を発展させてきたが、これらは「型」という形で個人の内側のアイデアを外在化させ、それを時・場所を超えて再現・継承・洗練可能にしている。ここにひとつのヒントがあるのではないか。
これを受けヴィンダル=リッツシリウス氏は、西洋とはまったく異なる文化を持つ日本は、「人の内側に宿るもの」という従来の個人主義的なクリエイティビティ観に代えて、「人と人の『あいだ』に宿るもの」という集団的、共創的な新しいクリエイティビティ観を提示しうるのではないか、と述べた。そのためにも、日本の教育は伝統文化をもっと教えるべきではないかと提案した。
セミナーを通じて、クリエイティビティの本質は、個人の才能や発想というよりも、それをいかにして社会や組織と結びつけ、形にしていくかにあることが浮かび上がった。日本の伝統文化における「型」をはじめとした、個人のアイデアを外在化し、他者と共有可能にする仕組みは、クリエイティビティを育む重要な鍵となりうる。今後の教育には、こうした文化的資産を再評価し、新しい創造性の形として世界に発信していく視点が求められるだろう。