情報教育の抜本的転換に向けて 表現と創造を通した学びの再構築

次期学習指導要領に向けた「論点整理」では情報教育を小中高を通じて一貫した学びとして再構築する動きが本格化している。本稿では、各学校段階で目指すべき内容の方向性等を考えてみたい。

情報教育の再定義

宮島 衣瑛

宮島 衣瑛

広島大学大学院 特命助教
1997年生まれ。「テクノロジーを基盤とした、未来のための教育をデザインする」をモットーに、全国で教育の実践・研究に取り組む。2015年に教育系R&D企業Innovation Powerを創業し代表を務めるほか、子どものためのプログラミング道場CoderDojo Japan 理事、NPO法人みんなのコード 理事、逗子オルタナティブスクールFRASCO理事/カリキュラムディレクターなどを務めながら、コンピュータと学びの関係を探究している。

次期学習指導要領に向けた議論が加速している。中教審教育課程企画特別部会は2025年9月に次期学習指導要領改訂にむけた「論点整理」を公表した。現行指導要領の路線を引き継ぎつつも、教師の多忙化問題解消に向けた余白の創出や評価観点の変更など、教育の現代的課題に対応すべく様々な論点が挙げられている。

前回改訂以降、子どもたちを取り巻く学習環境は大きく変容した。第一に、GIGAスクール構想により一人一台端末環境が全国的に整備されたことである。従来のコンピュータ教室は学校から姿を消し、子どもたちが日常的に普通教室で端末を用いることが当たり前となった。中教審はこの環境を「デジタル学習基盤」と位置づけ、単なる表面的活用にとどまらず、学びのプロセスそのものを変革しうる活用の在り方を検討している点が特徴的である。

第二に、生成AIの爆発的普及が、「知のあり方」や「学び」の根幹を揺さぶっている。2022年11月のOpenAI社によるChatGPT公開以降、世界的に生成AIの開発が加速し、その変化の速度は従来の技術革新をはるかに凌駕する。こうした状況において教育学が直面するべき課題は、特定のAIサービスを授業でどのように扱うかといった表層的議論ではなく、人間の学びの本質とは何か、学校という制度が果たすべき役割は何かといった根源的な問いの再検討に他ならない(宮島 2025)。

これらの状況を踏まえるとき、論点整理において小・中・高等学校における情報活用能力が「各教科等における探究的な学びを支える基盤」として再定義され、その「抜本的な向上」が掲げられている点は特に重要である。体系的な情報教育の構築に向けて、小学校では総合的な学習の時間に「情報の領域(仮称)」を付加する案が示され、中学校では技術・家庭科を「情報・技術科(仮称)」と家庭科に分離し、情報分野を大幅に強化する案が検討されている。情報教育を小中高を通じて一貫した学びとして再構築しようとする動きが、今まさに本格化している。

表現と創造から始める情報の学び

一般に、学習指導要領は「何を学ぶか」という学習内容の体系を示す文書である。しかし、情報教育においてまず検討すべきは、「どのように学ぶか」という学び方の問題ではないだろうか。

そもそも学びとは、生活世界での経験と科学的な見方・考え方(=教科的知)とを結びつけ、活動を通してそれらを自己の世界に再文脈化していく営みである。「情報」で扱う内容は生活世界のあらゆる場面に浸透しているため、学習者の素朴な経験と教科内容を接続した授業を構想することは比較的容易である。しかし、そこで得られた学びを生活世界へと結び戻すためには、「表現と創造」を通した活動が不可欠となる(宮島ら 2025)。

「表現と創造を通した学び」とは、獲得した知識や概念を自らの言葉や方法で語り直し、外化する営みを指す。学習者は表現を行う際、必然的に自らが対象に抱く認識を問い直し、再構成することを迫られる。これこそが学びの契機となる。表現方法は多様であってよいが、「情報」で扱う内容はコンピュータを使った表現と相性が良い。デジタル学習基盤として整備された1人1台のコンピュータは、デジタルドリルを解いたりデジタル教科書を見るために使うだけでなく、プログラミングや生成AIとのものづくり活動・表現活動によって効果を発揮する。

小中高を貫く
情報教育カリキュラムの再構築

以上のような学習方法を前提として、各学校段階において目指されるべき内容の方向性について考えてみよう。

中教審は情報の学びを「①情報技術の活用」「②情報技術の適切な取扱」「③情報技術の特性の理解」に分けて整理している。

小学校においては「①活用」の比重が大きくなっている。情報技術を自己の学びの表現手段として活用し、そのためにどのような適切な取扱をすべきか、その裏側でどのような特性があるのかを学んでいくことで、情報技術を使えば「なにかできそう」だと思えるようになることが目標となるべきだろう。

中学校では、①から③までの内容をバランスよく扱うことが求められる。小学校で育まれた「できそうだ」という感覚を踏まえ、それを実際に「できる」と言える具体的な技能と理解へと発展させる時期である。情報技術を用いた表現・制作のみならず、適切な運用、社会的・技術的背景の理解までを統合的に扱うことで、学びの視野を着実に広げていくことができる。

高等学校では、中教審案では「③特性の理解」の比重がさらに高まるとされている。しかし、高校段階こそ、「表現・創造」を通した学びをより本格的に位置づける必要があるように思われる。③が情報学との接続という観点から重要であることは確かであるが、中学校までに育まれてきた「できる」という感覚を、実際に自らの関心に基づいて「やる」へと転化させる場面を十分に確保することが不可欠である。中教審案が強調する探究的な学びとの接続を踏まえれば、これまで学んできた知識や技能を、自分自身の問いに即して存分に発揮しうる環境を高校段階でこそ整えるべきであろう。

学ぶことの歓びを生み出す
創造的活動の位置づけ

論点整理では、「自らの人生を舵取りする力と民主的な社会の創り手育成」を目指す観点から、一人一人の「好き」(興味・関心)を育み、「得意」を伸ばし、それらを学習全体の動機づけへと結びつけていく取り組みの重要性が指摘されている。しかし、その具体的方策については、現時点ではなお検討途上にあると言える。筆者には、この課題こそ「表現と創造を通した学び」が有する本質的価値と深く関わっているように思われる。

子どもが何かをつくることに没頭する姿は、容易には解けない問題に協同的に向き合い、思考を重ねていく姿と重なる。「つくること」と「学ぶこと」には、本質的に共通する構造がある。それは、単なる消費では得られない、創造的な活動によってのみ生じる固有の「歓び」である。この歓びは、外部から与えられる報酬ではなく、自らの行為が意味を生み出す経験から立ち上がる内発的な感覚である。

したがって、子どもたちが学ぶことそのものに歓びを見いだせるような学習方法への転換は、情報活用能力を形成するプロセスの中に必然的に組みこまれていなければならない。情報教育を、技能の習得に閉じた学びとしてではなく、表現し、創造し、自らの世界をつくりかえる営みとして位置づけ直すことが、次期改訂期における重要な課題であると考える。

そして、このような学び方は文字通り他教科を学ぶ際の「学習の基盤」になり得るものである。

主要参考文献
宮島衣瑛(2025)「生成AI時代の教育と創造性に関する考察」学習院大学『教育学・教育実践論叢』12号 pp.119-130
宮島衣瑛・永野直・竹谷正明 ・千石一朗・田嶋美由紀・釜野由里佳(2025)「小・中・高等学校における情報教育の体系的な学習を目指したカリキュラムモデルの提案」日本教育工学会 2025年春季全国大会 https://speakerdeck.com/kiriem/jset2025spring 2025/11/14 最終アクセス