教育の改善・高度化につながる 教育データ活用の仕組みづくり

『神戸大学DX推進本部』および『Plus-DXプロジェクトチーム』を設置し、組織的な体制のもとで教育DXを推進する神戸大学。教育の改善・高度化につながる教育データの活用について、同大学の現状と課題、今後の展望を、DX・情報統括本部情報基盤センターの殷成久氏が話す。

神戸大学の教育DX
これまでの取組みと課題

殷 成久

殷 成久

神戸大学 DX・情報統括本部情報基盤センター 准教授(~2023年3月)
九州大学 情報基盤研究開発センター 教授(2023年4月~)

世界に開かれた港湾都市に位置する神戸大学。〈人文・人間科学系〉〈社会科学系〉〈自然科学系〉〈生命・医学系〉の4大学術系列の下に10の学部、15の大学院、1研究所と多数のセンターを有する総合大学だ。

積極的に教育DXを推進する同大学は、文部科学省が2021年度にスタートした『デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(Plus-DX)』に採択。2022年4月には、DX推進本部を改組・発展させた『DX・情報統括本部』を設置し、学内のDX推進体制をさらに強化している。

同大学では、全学授業用のLMS BEEFと、授業以外の学内教育・研究・業務用のLMS BEEF Ventu reの2種類のLMS(学習管理システム)を2014年から導入。その後、2020年のコロナ禍においてLMSの増強を行い、Zoom、Webex等を導入し、遠隔授業を全学的に実施する体制を整えた。全学オンライン授業の実施に伴い、LMS BEEFへのアクセス増が見込まれることから、サーバを従来の1,500名程度から3,000名程度まで同時アクセスできるよう拡張している。

「2020年9月に全学に遠隔授業に対するアンケートを行い、約80%の学生が支障なく遠隔授業を受講できているといった結果が出ています」と、神戸大学DX・情報統括本部情報基盤センター准教授の殷成久氏は話す。しかし、まださまざまな課題も残っている。

「特にオンライン授業時に教員側が学生のリアクションを把握できないことは課題です」

また、生命医学系、自然系で本来対面で実施されてきた実験・実習やPBLなどをどうデジタル化するといった課題もある。

2021年度以降は感染対策に注意しながら対面授業を導入してきたが、対面・遠隔を同時に行うハイブリッド型授業導入のための教室整備や、学内の教育に関するさまざまなシステム間のデータ連携の必要性も高まってきている。

同大学では、こうした課題の解決へ向け、文部科学省の『Plus-DX』へプロジェクトを申請し採択された。

「プロジェクトでは、最先端のデジタル技術によって質の高い授業や実習・実験を安全に実現するための教育環境、教育システムを構築して学修者本位の質の高い教育を実現するとともに、課題設定・課題解決型人材の育成を目指していきました」

DX推進プロジェクト
4つの課題

神戸大学のDX推進プロジェクトでは、主に4つの課題の解決を目指している。①LMSの高度化とハイブリッド授業による教育の質の向上と保証、②学修データ統合システムによる教育の個別化と高度化、③臨場感のあるオンライン実習・実験の開発、④With/Afterコロナにおけるブレンド型教育の体系化だ。

1つ目の課題であるLMSの高度化とハイブリッド授業による教育においては、LMSを利用した授業の質を高めるために必要なオンライン授業時の学生の集中度、理解度、満足度の把握方法がないこと、またハイブリッド授業を導入する教室設備が未整備なことが課題だ。

対策としては、LMSの拡張機能として教材配信システムなどを導入するほか、オンライン授業時の受講状況、集中度、理解度、満足度を把握するためにAIによる表情認識を利用したシステムの導入、ハイブリッド授業を可能とする教室のスマート化の基盤整備なども進めている。

2つ目の学修データ統合システムによる教育の高度化については、同学では履修情報・成績情報がある教務情報システム(うりぼーネット)と学修情報があるLMS BEEFに加え、学生の留学等を管理するグローバル教育管理システム(GEMs)、キャリア情報がある就職支援システム(KUCS)が導入されているが、これらのシステム間の連携がとれておらず、学生・教員の利便性を高められていないことが課題だった。そこで、学修データ統合システム(Kobe Data Ware House:KDWH)を構築し、多様なデータの一元管理を目指していく(図)。

図 KDWHイメージ図

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「4つのシステムの情報に加え、他の学生の基本情報も一元化し、分析・可視化することで、学生や教員に結果をフィードバックし、エビデンスに基いた教育改善を目指していきます。学生自身が分析されたデータをもとに自己分析できる。さらに、個別最適化された履修指導、留学指導、キャリア指導、健康指導ができるような学修指導基盤の構築を目指していきます」

データを集めるだけでなく、応用して新しい価値を出すべく、AIにより学生の達成率を算出するといったアプリケーションも開発しているという。

質の高いハイブリッド授業を
授業全体の10%に

3つ目の課題である、臨場感のあるオンライン実習・実験の開発については、自然科学系・生命医学系において重要な実習・実験や課題解決型授業を、オンラインでも臨場感を持って実施する手法は未だ確立されていないのが実情だ。

神戸大学では、医学部において手術や実習の3Dデータを活用した質の高いVRコンテンツを提供できる画像撮影や統合技術開発に力を入れる。VR・3Dを活用した疑似体験授業開発を行っていく。また、臨場感のあるオンライン実習・PBLを用いた教育の質向上を行うため、VR・3Dを活用した実習・PBLの開発も行う。

最後の4つ目の課題に対して、殷氏は、「最先端デジタル技術を活用し、座学とPBL、実習・実験などのアクティブラーニングを高度に組み合わせたブレンド型教育による課題設定・解決型人材育成の取り組みが未整備であるが、今後体系化していきたい」と話す。

同大学では今後、教育効果の高いハイブリッド授業の実現を目指し、第4期中期期間に、質の高いハイブリッド授業を授業全体の10%まで高めていく予定だ。

「今後は、教育IR推進室や数理・データサイエンスセンターとも連携し、AIを活用した分析を進め、エビデンスに基いた教育・学修の改善を進めていきたいと思います」