大学設置基準を解釈・運用しDX時代の大学運営に活かす

コロナ禍での遠隔授業などを皮切りに、教育システムや教員の働き方のDXにも注目が集まっている。6月1日に内閣府から出された大学設置基準に関する規制改革答申の内容を踏まえ、今後の高等教育の在り方や大学運営について、社会情報大学院大学 実務教育研究科長の川山竜二氏が解説する。

政策を踏まえ、打ち手を考える
大学設置基準等の見直しに注目

川山 竜二

川山 竜二

社会情報大学院大学 実務教育研究科長

2021年6月1日、内閣府より、デジタル社会における規制改革推進に関する答申が出されました。その中では、大学設置基準についても触れられています。私自身は、大学設置基準等をはじめ、大学の設置の在り方、実務家教員の定義などについて研究していますが、こうした法令の改正や様々な告示などを踏まえた上で教学マネジメント、大学運営を考えていくことは、非常に大事です。

法令は解釈するだけでなく運用することが大切で、日本全体がいま、どの様な政策で動いているのか、その中でどの様な打ち手が考えられるのかを見極めていく必要があります。

規制改革推進に関する答申の背景には、コロナ禍により、行政や事業活動、教育、医療など、様々な場面でのデジタル化の遅れが明らかになったことや、少子高齢化や人手不足への対応、地方創生という日本社会の構造的な課題を踏まえた規制改革について、迅速な対応が求められていることなどが挙げられます。

特に教育については、リカレント教育を含む能力開発の促進や、ICTを活用した学びの環境整備、デジタル時代に即した大学・高校設置基準等の見直しなどが求められています。

こうした中、今回出された「規制改革推進に関する答申~デジタル社会に向けた規制改革の『実現』~」のうち、デジタル時代を踏まえた大学設置基準等の見直しを中心に据えながら、これからの教学マネジメント、大学運営の在り方を考えていきたいと思います。

デジタル技術を活用し
教育の質を高める

答申では、デジタル技術の活用により、対面を前提とした通学制、通信制双方において、新しい形での教育を提供し、教育の質を高めることができることを基本的な考え方としています。

この考え方について通学制で注目すべきは大学設置基準第25条2。「大学は(中略)多様なメディアを高度に利用して、当該授業を行う教室等以外の場所で履修させることができる。」とあります。「メディア授業」とは、メディア授業告示※で「通信衛星、光ファイバ等を用いることにより、多様なメディアを高度に利用して、文字、音声、静止画、動画等の多様な情報を一体的に扱うもの」と定義されており、さらにそれが「面接授業に相当する教育効果を有する」ことが重要なポイントとなります。

メディアによる授業は、Teams、Skype、Zoom等のICTを用いて、同時かつ双方向に行われるリアルタイム配信の〈テレビ会議型〉と、収録したものを見せる〈オンデマンド型〉の2つが想定されていますが、〈オンデマンド型〉においては、授業終了後、すみやかにインターネットやその他の適切な方法を利用し、学生等の意見交換の場を確保することが条件となっています(図)。

図 メディア授業告示(オンデマンド型)

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現在、大学設置基準に定められている通学制で、卒業に必要な124単位のうち、遠隔授業、オンライン型、オンデマンド型授業で認められる単位数は60単位となっています。

しかし、答申では「遠隔授業が半数以下の場合は対面授業とみなされる範囲は、124単位全てに適用される」としています。また、コロナ禍において特例的に認められている措置(対面授業の実施が困難である場合、遠隔授業等を行う弾力的な運用が認められる措置)がいつまで適用されるかは「早急に周知する」とあり、この点を今後チェックする必要性が出てくるかと思います。

これらを簡単に整理すれば、収録した授業を単純に流すだけでは〈遠隔授業〉とは認められません。収録したものを流した後、必ず授業に関する質問等を受け付けられるようにする必要があります。

あわせて、大学基準そのものの見直しも出てきています。DX(デジタルトランスフォーメーション)により授業を受ける場所、する場所が多様になってきていることと、リカレント教育の普及促進なども踏まえ、例えば、校地・校舎面積の緩和、紙の本や教員の個室の必要性なども含め、大学設置基準の見直しでは整理することになっています。

魅力ある地方大学の創出
サテライトキャンパスがカギ

2021年6月18日に閣議決定された『まち・ひと・しごと創生基本方針2021』では、魅力ある地方大学の創出も議論されており、サテライトキャンパスがその1つの軸になっています。

サテライトキャンパスは、大学設置基準の中では定義があまり明確にされていません。関係規定の「大学が授業の一部を校舎及び付属施設以外の場所で行う場合について定める件」が、いわゆるキャンパスではない場所で授業をすることができる要件を定めています。別置キャンパス・校舎となると、大学設置基準上に定められている設備のほぼ全てを備え付ける必要がありますが、サテライトキャンパスにはそうした規定がなく、柔軟に設置することができると言えます。

あわせて同規定は「実務の経験を有する者等を対象とした授業を行うもの」と書かれていますから、リカレント教育を推進していく意味では、このサテライトキャンパスをいかに活用していくかが肝になっていくかと思います。

既存キャンパスの周辺だけでなく、全国の学生を確保する、あるいは教育の対象者を学生から社会人全体へ広げるという意味で、サテライトキャンパスを柔軟に活用していくことを視野に入れていく必要があります。

大学のDXは大学の運営そのものや、教学マネジメントを見直す良い機会となるかと思います。

DX推進に伴い、リカレント教育を様々な形で提供できる機会も増えています。現在、リカレント教育に取組んでいる大学は全体の25%。先手を打ってリカレント教育を推進していくことは、今後の大学運営、学校法人運営にとって極めて重要な戦略となっていくでしょう。そして、DXとリカレント教育を結ぶものとして、サテライトキャンパスがあるのです。

法令や告示をきちんと読み解くことで、極めて効果的な教学マネジメントを行うことができることを、改めて認識していただければと思います。

※メディア授業告示「大学設置基準第二十五条第二項の規定に基づき、大学が履修させることができる授業等について定める件(平成十三年文部科学省告示第五十一号)