実務能力・教育指導力・研究能力を更新する実務家教員FDプログラムとは?

社会構想大学院大学の次世代高等教育研究センターは2021年9月から、実務能力・教育指導力・研究能力を継続的に更新するための「実務家教員FDプログラム」を提供している。今年2月に修了した第1期生の天野博晃氏に、FDプログラムを受講した動機や学びの意義を聞いた。

3つの能力を継続的に更新

天野 博晃

天野 博晃

実務家教員FDプログラム第1期修了生
国立大学経済学部卒業後、1991年、国内大手損害保険会社入社。その後、金融自由化に伴う新規事業(創業メンバー)のため生命保険新会社に出向。開業から営業支援、事務企画、リスク管理、人事制度設計を担当し、営業企画、営業部門では部長職を歴任。社会構想大学院大学「実務家教員養成課程」第7期修了生。

実務家教員養成課程を展開してきた社会構想大学院大学は、実務家教員の質向上を目的に、実務家教員COEプロジェクト(文部科学省「持続可能な産学協同人材育成システム構築事業」)を立ち上げ、実務能力・教育指導力・研究能力の3つの能力を身につけた実務家教員輩出を目指し、2022年3月までに約400名の修了生を送り出してきた。

同大学院大学の次世代高等教育研究センターは、実務家教員、および実務家教員養成に関連する教育プログラムを修了した人材を対象に、上記3つの能力を継続的に更新するための「実務家教員FDプログラム」(以下「FDプログラム」)を2021年9月より提供している。FDプログラムは「メタ理論」「教育に関する理論」「教育技術実践」「学生対応」「研究・論文執筆・実務能力の更新」の5領域のもと、23科目を設計。合計30時間学ぶカリキュラムだ。

2022年2月に第1期のFDプログラムを修了し、大手金融機関で30年近い実務経験を培ってきた天野博晃氏に、FDプログラムに参加した動機や学びの意義などを聞いた。

──FDプログラム受講の理由をお聞かせください。

受講を決めたのは、「実務能力、教育指導力、研究能力を継続的に維持・更新するプログラム」というメッセージに共感したからです。以前受講した実務家教員養成課程では「初学者」として、習得内容の維持・更新の必要性を感じていました。やはり修得して、すぐ実務家教員として現場に立たなければ、知識の低下が起こります。FDプログラム(応用)を習得済の基礎と関連付けながら学習することで、基礎から応用までの体系的学習ならびに記憶の長期保存が期待できると考えました。

──受講して良かった点は?

講義形式が、オンデマンド型(オンライン)と同時双方型(オンライン・対面)だったので、時間のない社会人には最適でした。また、講義自体が「生きた教材(講義運営の見本)」そのものでした。例えば、オンデマンドなら、講師による授業運営(スライド活用法、時間配分、話法)を見本として学習できました。

オンデマンドは、関心事および聞き逃し部分等の再生により安心して学習の定着化が図れる点も良かったです。同時双方型は、目的意識の高い仲間との論議を通じ、自分と異なる多元的思考を体感できた点が良かったですね。実務家教員養成課程は概論的な学習が中心で、「覚えて・わかる」ところから、一歩前進して「覚えた事を実践で使える・できる」内容でした。FDプログラムは、それらのブラッシュアップに加え、「考える」事が特長で、特に課題提出ではその点が顕著でしたね。

講義スライドのレベルアップや
研究活動に役立つ経験に

──特に印象に残った講義・教員についてお聞かせください。

すべての講義が印象的かつ有益でしたが、敢えて挙げれば、「先行研究調査と調査方法」「学会発表の方法」「論文のまとめ方」を担当された橋本純次先生です。各講義では、社会人の視点に立って、研究活動主旨・技法の要諦をコンパクトに整理いただけたので、自分が未経験の部分を可視化・イメージ化できる講義でした。また、学会向けのスライド作成要領が解りやすく、自分の既作成の講義スライドのレベルアップができ、作成上の型・枠組みを習得できました。なお「先行研究調査と調査方法」の課題(先行研究において、何が解っていて、解っていないかの整理)に真摯に取り組んだ事で、人生初の国立国会図書館の利用は、今後の研究活動において大いに役立つ経験となりました。

──受講後、ご自身にどんな変化がありましたか?

それは、実務経験を再棚卸・再評価することで、自身の専門領域のレパートリーを拡大できる好機となったことです。私の場合、これまでマーケティング(ブランド戦略論)を軸に授業計画をしてきましたが、自身の実務経験を棚卸すると、営業企画やマーケティングの他に、人事関係の仕事も長く携わっていたことに気づきました。FDプログラムを通じて、新たな教育技法を学び、学生や実務家教員が置かれた文脈の理解を深めた事で、自身の実務経験をさらに活かせる専門領域について再考でき、永年の実務経験から複数の専門領域(マーケティングに加えて、人事業務経験を活かした人的資源管理・開発・配置政策など)を創り出せることに気づきを得たのです。

実務家教員を目指す多くの方は、これまでの実務経験において多彩な業務領域を経験しており、その発見と言語化は実務家の強みだと思います。それは実務家教員としての活躍に幅広い戦略性をもたらすものと考えています。

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