コニカミノルタ・大幸利充社長 事業再編と人材の活用で未来を拓く
中期経営計画で「高収益企業への回帰」を掲げるコニカミノルタ。同社は人的資本を「成長の芽」を育む原動力と位置付け、グローバルでの構造改革とタレントマネジメントを加速している。代表執行役社長 兼 CEO の大幸利充氏が、組織変革とその先に見据える新たな成長戦略を語る。
事業再編と人材面の改革

大幸 利充
コニカミノルタ株式会社 代表執行役社長 兼 CEO
1986年ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)入社。法務、情報機器の営業・事業企画に従事し米国の情報機器販社社長を経て2015年執行役に就任。情報機器企画本部長、プロフェッショナルプリント事業本部長などを経て2018年常務執行役に就任。海外赴任14年間の経験をもとにデジタル技術活用を推進し2020年に専務執行役として経営企画、IRなども担当。2022年から現職。
── 中期経営計画(中計)では、事業の選択と集中を掲げています。
過去の大型買収による重いのれんは、成長軌道への転換を阻む大きな障壁でした。2年でそれらを整理し、3年目からは成長に専念したい。また収益基盤強化のため、同時に人員最適化も必要でした。
── 一連の取り組みでは、どういった点がポイントとなりましたか?
DXがキーワードになりました。デジタル活用を推進することで、例えばこれまで10日かかった情報取得を即時化でき、中間業務を削減して人材を付加価値の高い業務へ振り向けられます。必要なタレントを確保しつつ、一方でパフォーマンス不足の人材や不要なジョブを整理する痛みは避けられません。しかし、ここで踏み込むことで、後に「固定費が多い」などと再度悩むことなく、成長フェーズへ一気に移行できるのです。
── 約2400人規模での人員削減も報じられました。
これは単純なリストラではなく、DX化によるプロセスの見直しや業務効率化、適材適所の人材配置による戦略的な最適化です。意欲とスキルを兼ね備えた人材が十分に活躍し、成長の主役になれる環境を整えます。こうした組織再編を通じて、人材は単なるコストではなく「成長の芽」を育む投資対象へと変わるのです。
── 中計はフェーズ1でのれんの減損処理を含む「過去からの決別」、フェーズ2で事業の選択と集中、フェーズ3で成長基盤の確立という段階を踏むと聞きました。どのように社内外へメッセージを発信していますか。
毎四半期決算後にライブ配信で会社の状況を説明しています。その場で社員の質問を受け、答えきれなかった点は後日イントラで共有しています。こうしたオープンな対話を通じ、社員が将来の方向性を肌で感じ、変化への挑戦意欲を高めるのです。この中計で事業の選択と集中を進めるなか、社内からはもっと将来の話をしてほしいという声が上がっていましたが、昨年の後半からやっと「成長の芽」の話をすることができました。あえて中計に特定の名称を付けず、「段階」を意識しているのも、ステージごとに組織のマインドを切り替え、全員で未来を創る雰囲気を醸成する狙いがあります。
全社員のスキル把握で組織力を強化
── DX人材育成や教育投資の方針についてお聞かせください。
DX導入で人手を介した中間業務を削減すれば、リアルタイムなデータ分析を通じて開発や営業の現場が即応できるようになり、市場機会を正しく捕えることができます。さらに業務効率化だけではなく、データ分析やAI活用で新たなビジネスモデルを創出できれば、それが「成長の芽」となります。
DXを真に活かすには人材育成が不可欠です。5年かけて1,000人規模のIT/AI活用人材育成を達成しましたが、次は全社的底上げが課題。決めたのは、経営状況に関わらず一定水準の教育投資を確保して実施することです。来期以降の教育プログラムをどうするかは、現在計画を立てています。
── タレントマップの整備も進めていると思いますが、どのように行っていますか。
グローバルでのタレント選抜によるグローバルリーダー育成や視点の多様化など、変化に迅速対応できる人材像を追求しています。今後、タレントマップで数千~1万人規模のスキル・経験を可視化できれば、「この案件にはこの人」と的確な人材配置が可能です。
また、女性活躍やダイバーシティ推進は、多様性の観点で新たな価値創造を促し、組織の変化対応力を高め、グローバル競合で有利に立つための鍵になると考えています。
── 成長領域の探索や検証はどのように行っていますか?
かつては「技術や開発のイメージができたら計画に組み込む」傾向がありましたが、それではもし実行段階でうまくいかなかった際に、立てた予算からの乖離が大きくなる原因となりかねない。そこでプロセスを複数のステージに区切るステージゲート方式で進めています。技術検証と顧客価値検証を6カ月ごとに行い、お客様が対価として支払えるであろう価格を想定できた時点で投資することで、不確実性を段階的に減らしていくという進め方です。社員は納得感をもって前進でき、私たちが目指す「人材の能力最大化による価値創造」に現実味が増すと考えています。
風土改革と人的資本経営の先にある
企業価値の向上
── 5,000人超の社員との対話も実施されているそうですね。こうしたコミュニケーションはどのような影響をもたらしていますか?
お互いに本音で語り合える風土は、心理的安全性の確立にもつながり、組織の潜在能力を引き出します。「上司から会社の状況に関する説明がない」という声を受け、タウンホールで直接対話を重ねると、社員は経営の方向性や自身の役割を理解しやすくなります。1回目で出なかった本音が3回目には表出するなど会話が深くなるので、結果として部内のみならず部門横断の連携も強まる。新規アイデアや改善提案を引き出し、DX活用やタレントマネジメントを最大化する成熟した組織文化へつながると考えます。
── 社員一人ひとりの意識や、ひいては風土・文化の改革に取り組むことは簡単なことではないと思います。
風土改革に終わりはないですね。しかし言いたいことを言える環境づくりを続ければ、社員同士で共通課題を共有し、知見を掛け合わせられます。定年退職者のナレッジ継承や他部署とのコラボも容易になり、共通課題の解決が加速します。さらに、取引先やパートナー企業を人的アセットとしてデータベース化し、必要な時に最適な相手と手を組めれば、新規事業や新市場開拓にも優位にはたらくでしょう。今後はバイオ由来のものづくりや再生プラスチックなど、社会課題解決型ビジネスにも応用可能で、成長の芽の収穫確度が高まります。
── 人的資本経営を推進する先にある未来像について、改めてお聞かせください。
人的資本経営は、社員一人ひとりがスキルを磨き、変化を楽しみ、DXで新たな価値を創出することで企業が自ら進化する戦略です。適材適所と教育投資で人材を育み、心理的安全性のなかで本音の議論を行えば、顧客価値・社会価値は自然に拡大し、ひいては企業価値向上につながります。組織改革にしっかり取り組み、これからの成長にドライブをかけていきます。