モリサワ 神戸の未来に向けた大学ブランディングを支援

神戸市では産官学が共創し、大学経営を強化する取組みが進んでいる。モリサワの協力のもと、大学職員と学生が自大学の「らしさ」を見つめ直すワークショップを開催。デザイナーとの協働や、ブランディングにおけるフォントの役割について、実践的な知見を深める場を創出した。

大学の「魅力」を整理・可視化

藤岡 健

藤岡 健

大学都市神戸産官学プラットフォーム 事務局長神戸市 企画調整局担当局長
1995年に神戸市役所入庁後、土木局、環境局等を経て、2013年度に企画調整局に異動し、神戸市の5か年のマスタープランである神戸2020ビジョンづくりに従事。2018年度に産学連携課長、2024年に神戸市企画調整局局長として一般社団法人大学都市神戸産官学プラットフォーム事務局長に着任。

神戸市は2023年11月、産官学共創による「大学都市神戸産官学プラットフォーム(以下、プラットフォーム)」を設立した。神戸市は約7万人の学生を抱える大学都市でありながら、大学を卒業した若者の転出超過が課題となっている。こうした中でプラットフォームでは、「チャレンジし続けるグローカル人材の育成・定着を通じて産業・大学・地域がともに進化していく神戸」を目指している。

現在、プラットフォームには大学12校、高専1校、100余りの企業・団体が参画し、11のプロジェクトを展開。その中核事業として、2024年5月にモリサワの企業版ふるさと納税を財源に「神戸の未来創生に向けた大学経営人材育成プロジェクト研究」を開始した。少子化による厳しい経営環境下で、大学職員のスキル向上とブランディング強化は喫緊の課題だ。モリサワは組織の「らしさ」を伝えるためのフォントを有効活用したブランディング支援を展開し、その知見を活かし大学の魅力発信に貢献している。

今年8月~9月には神戸松蔭大学、神戸国際大学、甲南大学、神戸学院大学、神戸常盤大学の5大学の職員と学生が参加し、「神戸の未来に向けた大学ブランディングワークショップ」を開催した。

プラットフォーム事務局長の藤岡健氏によると、昨年実施した大学職員向け研修において、ブランディングの関心が最も高かったという。「大学職員の方々はブランディングの重要性を認識しながらも、体系的に学べる機会はそれほど多くありませんでした。今回のワークショップでは体系的なことはもちろん、各大学の職員と学生がチームとなり、自大学のブランドを考える実践的なプログラムを提供しました」。

ワークショップは全3回で構成され、第1回「調べる」では、参加者が「大学もブランドである」ことを理解し、自大学の「らしさ」を言語化。第2回「考える」では、第1回で整理した内容をもとに、自大学の強みを視覚化し、効果的に伝える方法を学んだ。最終回となる第3回「伝える」では、ブランドコンセプトを完成させ、自大学の「らしさ」を具体化するシンボルマーク(校章)の検討を行った。

助川 誠

助川 誠

SKG株式会社 代表
ブランディングデザイナー
京都工芸繊維大学大学院修了後、GRAPH入社。北川一成氏に師事し、2013年にSKG株式会社を設立。「ブランドを人にたとえる」視点で多様な中小企業やプロジェクトのブランディングを手がけ、京都芸術大学非常勤講師も務める。

また、モリサワからは各大学の「らしさ」に合った制定フォントを選定する演習を実施。プログラム全体のワークショップを務めた助川誠氏(SKG株式会社代表、ブランディングデザイナー)は受講者が理解しやすいよう、ブランディングを人の名前・顔・信念・行動などに置き換えて解説し、「フォントは声であり、らしさを表現するうえで重要な要素だ」と語る。

一連のプログラムを通して、参加者は自大学の「魅力」を整理・可視化し、発信するスキルを高めていった。助川氏は「回を重ねるごとに、提出されるアウトプットが明らかにアップデートされていきました」と振り返る。藤岡氏も参加者の変化に手応えを感じたという。「参加者の方々が熱量を持って、本気で取り組んでくれました。今後もプラットフォームとして、大学のブランディングを支援していきたいと考えています」。

株式会社モリサワは「文字を通じて社会に貢献する」という経営理念のもと、フォント提供を通じたブランディング支援を展開している。ワークショップでもフォントの重要性を実践的に学ぶ機会を提供し、参加者から高い評価を得た。神戸市の取組みは、職員のスキル向上を通じて大学ブランドを向上させるモデルとして、他地域にも示唆を与えるものとなりそうだ。

 

神戸松蔭大学
新たな気づきや視点を得て、自大学の価値を再発見

神戸松蔭大学は今年度から共学化し、自大学のブランドを見つめ直すタイミングでの参加となった。職員と学生が一緒になってワークに取り組み、自大学の魅力について「温かい」「アットホーム」といったキーワードを多数抽出。そうしたキーワードを基に、最終的に「Blooming Garden」というコンセプトを打ち出した。参加した職員は「庭園(ガーデン)で花が咲くように、学生が自らの可能性を広げ、成長していく場所という意味を込めました」と説明する。また、入試・広報課職員は「普段は教職員だけでブランディングを考えていましたが、学生や神戸市内の他大学の意見や考えを聞けた経験が大きかった。学生の視点は新鮮で、他大学の課題感を知ることで自大学の弱み強みも明確になっていきました」と振り返る。

特に印象的だったのは、参加学生の変化だ。3年次の学生は「皆で神戸松蔭のキーワードを出し合い、暖かさや自然、レンガ造りの建物といった特徴を言語化することで、改めて自分の大学が好きになりました。後期から学校に通うのが楽しみです」と話す。さらに他の学生も「神戸松蔭の個性や良さを再発見できました。他大学との意見交換も新鮮で、すごくいい時間を過ごせました」と満足げだ。

フォント選定では「アットホームで温かい雰囲気」を重視し、ブランドコンセプトに合った書体を選んだ。「フォントによってこんなに雰囲気が変わるのかと驚きました。今後は使う場面によって使い分けることも考えたい」と、今後の展開に意欲を見せている。

(左から)岩田怜子(地域連携研究センター)、仲島彩(入試・広報課)、梅田紗羽(学生)、岡本瑚々奈(学生)、奥原啓太(総務課)

 

神戸国際大学
根本的な問いに向き合い、対話のプロセスで認識を深める

神戸国際大学は、生涯教育センター・地域交流担当を中心に八代学院として法人広報を立ち上げブランディング化を図るタイミングとあったこともあり、大学ブランドの維持・向上を目指して参加した。「各部署で広報物を作成する際にも、ブランドの統一性に乏しいところがありました」と説明する。同大学は建学の理念の一つとして「国際人として役立つ有為な人材の育成」を掲げている。ワークショップでは「国際人とは何か」という問いに向き合った。広報担当職員は「一つ一つの言葉の定義を掘り下げ、参加者間で意識を合わせるプロセスが、自大学のブランドを考える上で非常に役立ちました」と話す。

参加者で話し合う中で、半年前まで高校生だった1年次の学生から、神戸国際大学について「本学には留学生だけでなく、地方出身者も多い。それも本学の多様性の一つでは」という意見があった。職員は「私は国際=留学生と考えていましたが、地方も含めた多様性という新たな気づきを得ました」と語る。最終的に神戸国際大学は「港町」をキーワードに、多様な人々を受け入れる包容力をコンセプトとした。

フォント選定では、学生の特徴である「優しくて素直」などを大切にし、それを体現できる書体を選んだ。大学ブランディングの可能性を実感し、「今までは漠然とフォントを選んでいましたが、ワークショップを通じて、フォントの特徴を言語化できるようになりました。デザイナーとのコミュニケーションも取りやすくなりそうです」と実務への活用を期待している。

(左から)樋口尚子(地域交流・生涯教育センター 兼 入試センター担当)、井澤智子(法人本部広報担当 兼 附属高等学校事務室)