「将来を選ぶ」から「将来をつくる」学びへ 探究的な学びとキャリア教育
探究的な学びとキャリア教育が結びつくとき、生徒は「何を選ぶか」ではなく「どう生きたいか」を問い始める。総合的な探究の時間を核にした学校実践から、その意味を考える。
なぜ「キャリア教育×探究」なのか
酒井 淳平
立命館宇治中学校・高等学校 教諭
立命館宇治中学校・高等学校でキャリア教育部の立ち上げを行い。その後文科省の指定を受けながら、探究×キャリア教育を大切にした総合的な探究の時間のカリキュラム開発に挑戦。著書に『探究の現在地とこれから(明治図書)』など。中央教育審議会 生活、総合的な学習・探究の時間ワーキンググループ委員。
キャリア教育と聞いて、読者のみなさんはどんなことを思い浮かべられますか?職業選択や職場体験などを思い浮かべる方もおられるかもしれません。しかし今、こうしたキャリア教育のイメージそのものを問い直す時期に来ているのではないでしょうか。
生成AIの急激な進化など、社会の急速な変化を実感することが増えています。そんな社会を生きていく今の生徒たちに必要なのは「将来を選ぶ力」ではなく「将来をつくる力」です。キャリア教育は職業選択の準備ではなく、「自分は何者として社会とかかわるのか」を問い続ける学びです。総合的な探究(学習)の時間は、それを具体的な経験として実現する場だと言えるでしょう。
「探究的な学び」と「総合的な探究(学習)の時間」の関係について整理します。探究的な学びとは、生徒が自ら問いを立て、試行錯誤しながら学びを深めていく学習のあり方そのものを指し、特定の教科や時間に限定されるものではありません。
総合的な探究(学習)の時間は、学校における探究的な学びの核となる場として位置づけることができます。教科横断的な学びや社会との接続、そしてキャリア教育の視点を組み込みやすい特性を持つ総合の時間が核として機能することで、探究的な学びは学校全体へと広がりをもって展開されていくのです。
学校教育全体が向かう方向性
現在議論が進んでいる中央教育審議会の生活・総合ワーキンググループにおいても、探究の概念が整理され、教育課程全体の中で「道徳・総合・特別活動」が果たす役割についてのイメージ図が共有されています。その中でキャリア教育は総合と特別活動の双方の特質を有する取り組みとして位置づけられています。探究的な学びとキャリア教育の接続は、一部の先進的な実践にとどまるものではなく、学校教育全体が向かおうとしている方向性の中に位置づけられていると言えるでしょう。
立命館宇治高校の挑戦
筆者が勤務する立命館宇治中学校・高等学校では2018年度からキャリア教育と探究を核としたカリキュラム作りに挑戦してきました。そのカリキュラムの核となるのが総合的な探究の時間(コア探究)です。
「お客様から生産者へ」。本校のコア探究で大切にしているコンセプトです。生徒をサービスの受け手であるお客様から、自ら価値を創造する生産者に育てる。生徒が未来の創り手となるために必要な資質・能力を育むということを考えたときに、最も大切なことはここにあると思いカリキュラムを開発してきました。
コア探究は図のように3年間で探究のサイクルを6回繰り返すカリキュラムです。最も大切にしているのは生徒がマイテーマを持つことです。生徒たちは自らのテーマを起点に社会とつながりながら学びを深め、よりよい社会を創っていきます。たとえばある生徒は食や環境問題への興味から、代替肉の普及をテーマにプロジェクト型の探究を進めました。文化祭で代替肉のハンバーガーを販売しました。
高校の学びは大学でより広がります。この生徒は大学入学後も活動を続け、仕入れた代替肉を使用した料理をイベントで販売したり、餃子をはじめ複数のメニューを開発し、多くの人に代替肉の魅力を伝えます。そしてついに事業化に至りました。
マイテーマの設定は簡単なことではないですが、高校だからこそ大切なことです。そのため本校では高校2年次はねらいをマイテーマの設定に焦点化したカリキュラムにしています。生徒たちは興味関心あることを論文にしたり、社会課題を解決するプロジェクトを考えたり、自身が探究したい学問を考えたり、いろいろな学習の中で課題設定の練習をします。そして最終的に次年度に自身が取り組むマイテーマを設定します。
コア探究が始まり、生徒が様々な取り組みを進める中で、気がつけばいろんなつながりが生まれていました。地元の市役所や商店街の方、マルシェを主催されている方、農業をされている方、様々な方が生徒たちの活動を応援してくださいます。こうしたつながりの中で生徒は学校を飛び出して成長しています。
このような学びを進める際には教員集団のあり方も問われます。コア探究の実践をスタートするときから、生徒のコアを育てる私たち教員も一緒に成長していくということを大切にしてきました。今は校内で探究を統括するキャリア教育部と学年とで定期的に対話しながら、日々の実践を進めています。
しかし生徒の成長が教師を変えているのというのが正直なところかもしれません。実際、コア探究に関わった教員の中には、教科の授業とコア探究の授業をつなぎ始めた教員が少なくなく、各教科でも様々な取り組みが進んできました。教員のコア探究総括会議では「コア探究は特別な授業でなく日ごろの教科の授業の延長」などの発言がでます。これが意味するのはカリキュラムマネジメント、探究と教科の往還です。上から降りてくる難しい用語となりがちなこれらの言葉を、教員が生徒の姿や自らの実践から語ることが、成長の証と言えるのかもしれません。
これからの学校が問われること
実践の現場は決してきれいなものでなく試行錯誤の連続です。本校の取り組みも課題だらけというのが正直なところです。ただ、その試行錯誤の中で、生徒一人ひとりが自らの関心や問いを起点に、社会と関わりながら学び続けていく力を育てることこそが、今の学校に求められているという確信を強めてきました。探究的な学びとキャリア教育が結びつくとき、生徒は「何を選ぶか」ではなく、「どのように生きていきたいのか」を問い続ける主体へと変わっていきます。それこそが「お客様から生産者へ」変わる瞬間です。
では、各学校は何から始めればよいのでしょうか。大切なことは完成度の高いカリキュラムを求めすぎず、実践しながら育てることです。そのためにも、教員自身が生徒とともに探究マインドを持ち、試行錯誤する姿を見せることが大切です。
「お客様から生産者へ」という言葉は、生徒だけでなく教員自身にも向けられています。探究が根づくかどうかは、教員一人ひとりのWILLにかかっています。そしてそのWILLは、生徒の変化と向き合う中で、すでに確かに育まれています。その力を信じられるかどうかが、これからの学校を形作っていくのです。
