学校・地域を越えた新しい時代の高校教育の在り方とは?

ICTを活用した先進的なカリキュラム開発などのプロジェクトを担当してきた文部科学省の安彦広斉氏。学校・地域を超えた教育を可能にする『COREハイスクール・ネットワーク構想』など、高等学校の学習環境や学びの質の向上を支える同省の支援内容や、先進的事例について紹介する。

急速に変化する世界へ向け
重要性の高まる教育改革

安彦 広斉

安彦 広斉

文部科学省 初等中等教育局 修学支援・教材課長
1995年文部省採用。これまで初等中等教育局、総合教育政策局等で主に教育の情報化や教員政策を担当。2019年4月より初等中等教育局参事官(高等学校担当)付、高等学校改革推進室長として、グローバルな社会課題や地域課題の解決に向けた探究的な学びを実現するカリキュラム開発事業等を担当。2021年4月、初等中等教育局参事官(高等学校担当)を経て、同年10月現職。

世界の人口が右肩上がりに増え、2100年には109億人にもなると予測される中、国境を越えて社会問題はいよいよ複雑化する。一方で、人口減少に転じている日本では、地方の経済が縮小し、いずれ都会にも影響を及ぼしていく。

こうした世界事情を背景に、文部科学省では学習指導要領を改訂した。その大きな理由の1つに、急速なテクノロジーの進化による産業構造の変化がある。「2011年に小学生になった子どもの65%は将来、今は存在していない職業に就く」と予測され、「今後10~20年で、半数近くの仕事が自動化される」とも言われている。

こうした変化の激しい時代に対応できる次世代の育成を目指した教育方針が、新しい学習指導要領である。

日本の高校生の現状に目を向けると、PISA2018の調査では、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーともに世界の上位クラスである一方で、自己肯定感については他国に比べ圧倒的に低い。

「日本人は控えめという見方もありますが、それで片づけられる差ではないと思います。自己肯定感を上げていくことは、今後の教育改革において非常に重要な点になっていくかと思います」と文部科学省 初等中等教育局 修学支援・教材課長の安彦広斉氏は話す。

複雑化する社会問題の解決に
ICT活用能力が必須

PISA2018では、ICT活用調査も行われている。学校の授業でコンピュータを使う頻度については、日本はOECD加盟国で最下位となっている。加えて、PISA2009のデジタル読解力調査では、ペーパーでの読解力は身に付けているものの、ICTの活用を含めた読解力が弱く問題解決の結果が出せないという事実が浮かび上がっている。

「様々な問題を解決するためにICTの活用は不可欠な時代ですから、基本的なICTリテラシーが重要な要素となっていきます」

授業におけるコンピュータの使用頻度の低さに加え、自宅における使用頻度でも、使っている生徒と使っていない生徒で明らかにスコアに差があり、日ごろからコンピュータを活用することが、問題解決能力の差となって表れてきている。

一方で、高校生の学習意欲のデータから見ると、高校受験を終えて入学直後、26.3%の生徒が全く勉強していない状況となっているが、そうした生徒の多くは、受験の際に「合格できそうだから」と高校を選ぶなど、他律的な動機で高校を選択した結果、入学後の満足度が低く、学習意欲が低下したのではないかと読み解くことができる。

こうした高校生の現状なども踏まえ、高校改革が進められている。中央教育審議会における「新しい時代の高等学校教育の在り方ワーキンググループ」では、「高校の社会的役割、スクールミッションの再定義」を打ち出し、各高校のスクールポリシーを明確に定めることとしており、学校と生徒のミスマッチを減らし、生徒自らの学習意欲の向上にもつなげられる。

ICTを活用した高校教育改革へ
文部科学省の施策とは?

「高校改革の中で注目したいのは、地域社会に根差した高等学校の学校間連携・協働ネットワークを構築する『COREハイスクール・ネットワーク構想』です」と安彦氏。

中山間地域や離島の小規模の高等学校では、教師も少なく生徒の多様な進路希望に応じた授業を行うことが困難だ。そこで、複数の高等学校の教育課程の共通化やICT機器の最大限の活用で、生徒の多様な進路実現に向けた教育・支援を可能にする。「テレビ会議、遠隔教育といった形でICTを活用し、複数の学校が教育センターや中心的な配信校と双方向で結ばれ、お互いの強みを活かして授業を配信したり、自分の学校にはない科目を開設したりして、生徒たちが就職、進学、様々な将来へ向け、必要な科目を選択できるようにと開始した事業です」。

図 COREハイスクール・ネットワーク構想

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例えば、同氏が高知県立室戸高等学校に視察した際、国立大学の理系学部に進学したい生徒に向け、同校では開設されていない数Ⅲの授業内容をオンラインで配信していた。「難しい数Ⅲの授業内容を、あれだけ意欲的に学ぶ生徒をはじめて見ました。主体的に学びたいという意欲があれば、数Ⅲのように難しい内容であってもオンラインで十分学べると実感した事例です」。

COREハイスクール・ネットワーク構想での北海道の取組みの様子。

COREハイスクール・ネットワーク構想での北海道の取組みの様子。

また、北海道では、2021年4月に北海道高等学校遠隔授業配信センターを開設。複数の高校へ授業を同時配信し、他校の生徒とともに学ぶ合同授業を実現。大学進学を目指す生徒には、進学校の先生や代々木ゼミナールの講師などの授業を配信し、オンラインならではの多様なスタッフでサポートを行っている。

文部科学省では他にも高校改革を推進する様々な支援事業を行っている。SDGsの達成をけん引するイノベーティブなグローバル人材を育成する「WWL(ワールド・ワイド・ラーニン)コンソーシアム構築支援事業」。地域産業の持続的な成長をけん引する最先端の職業人材の育成を目指す「マイスター・ハイスクール」など。

WWL事業では、コロナ禍で海外に行けない代わりに、国内51校、海外14校がオンラインで集い、探究型のキャリア教材を使って様々な探究活動に高校生が取り組むといった学習活動も行われている。

「こうした取り組みにはICT環境の整備が欠かせません。GIGAスクール構想の推進が、こうした学びを支える土台となるかと思います。子どもたちの多様な学びを支えるためのICT環境整備に、各学校とも取り組んでいただければと思います」