調査報告:小中学校のブラウザAI要約の利用実態 「深い学び」設計への提言
GIGAスクールの現場では、一部でブラウザAI要約が使われ、提示された内容を丸写しする姿が見られる。検索の上に“答え”を求めようとする時代、子どもの学びはどう変わるのか。本稿では、学校における生成AI利用実態調査をもとに、「深い学び」設計へ向けた具体策を提示する。
GIGAスクール環境と
生成AIの普及
中川 哲
社会構想大学院大学 教授
修士(経済学)、博士(情報科学)。日本マイクロソフト株式会社のWindows製品担当の業務執行役員を経て、2017年に文部科学省に入省し、プログラミング教育を推進。現在は、株式会社EdLogを設立し、企業経営とともに文部科学省 初等中等教育局 視学委員(GIGAスクール戦略担当)として、GIGAスクール構想の立ち上げに関わる。
GIGAスクール構想が最初に議論されはじめた2019年頃は、すでに画像などを識別するいわゆる識別AIの議論が盛んに行われていた。一方、生成AIについては、OpenAI社によって開発された大規模言語モデルGPT-2が出たばかりで、研究者の間で話題になっていたものの、一般や学校教育機関での利用には至っていなかった。
生成AIが一般の人々に普及したのは、OpenAI社がチャット形式で大規模言語モデルとやり取りできるChatGPTを一般公開した2022年11月30日以降だと言われている。現在では、各社が大規模言語モデルを構築し、生成AIサービスを提供しているが、その多くが年齢制限を設けており、利用対象を13歳以上に設定したり、18歳未満が使用する場合には保護者の同意や大人の見守りなどが必要とされている。
生成AIの教育利用でのガイド
榊原 範久
上越教育大学大学院 学校教育研究科 教授
博士(学校教育学)。元小学校・中学校・日本人学校教師。初等教科教育・社会科教育・ICT 教育に関する研究や教育を担当。臨床的な研究を通して、学習者の批判的思考のメカニズムの解明、思考ツールの開発、理想的な学習環境のあり方を中心的に研究し、実践の場で生きる教育研究・学術研究に取り組んでいる。
これを受けて、文部科学省は、まず、学校向け生成AIガイドライン暫定版(Ver1.0)を2023年7月4日に公表し、その後、知見の更新を踏まえて改訂版Ver2.0を2024年12月26日に公表した。内容は「一律に禁止・義務付ける」のではなく、教職員・教育委員会等が適切な利活用を判断するための参考資料という位置付けであった。
基本は人間中心で、出力は参考に留め最終判断は人が行うこと、発達段階への配慮を前提に、まずは有効場面を検証しつつ限定的利用(パイロット等)から始めること、あわせて情報活用能力の育成強化を求めている。さらに個人情報・セキュリティ、著作権、偏見・差別(公平性)、説明責任(透明性)などのリスクに留意し、場面別の留意点やチェック項目・事例も示している。
世界的にも、ユネスコが教育・研究での生成AI活用に関する包括的指針 (Guidance for generative AI in education and research) を2023年9月7日に公表している。内容は、やはりこちらも人間中心の立場から、生成AIの教育利用に関して、拙速な導入で起きうるリスクを抑えつつ、制度・現場・提供者の3層で備えることを求めている。
学校現場の生成AI活用事例
文部科学省がGIGAスクールを推進するために行っている令和5、6年度に行ったリーディングDXスクール事業では、生成AIパイロット校を指定し、授業と校務の両面で“安全に・効果的に”使う実践モデルの創出と普及を進めた。この事業は、令和7年度には、生成AIパイロット校事業に発展した。生成AIパイロット校は、教育委員会の取りまとめで公立の小・中・高や特別支援学校等が対象となり、年度ごとに取組を実証して事例を蓄積し、報告書を公開している。
公開されている取組内容としては、学習面では、探究の問いづくり、論点整理、反論の生成、作文や発表原稿の推敲、プログラミングの考え方整理などでAIを「壁打ち相手」として活用し、生成AIからの提示をうのみにせず、批判的に吟味する姿勢を育てようとしている様子なども見られる。
校務面では、指導案や教材案、ルーブリック、保護者向け文書、会議資料の下書きなどを支援し、働き方改革の観点からも効果を検証している。さらに、児童生徒への指導体制づくり(導入オリエンテーション、プロンプト例、振り返りの仕組み)や、誤情報・著作権・個人情報などのリスクへの対応も同時に整理している。
成果は公式サイトに最終報告として掲載されるとともに、文科省が成果報告会(パネルディスカッションやポスター展示等)を通じて知見を共有しており、生成AIパイロット校のみならず、全国の学校で、情報活用能力やAIリテラシーの指導に生かすことが期待される。これらの情報は、文部科学省のサイト「学校現場における生成AIの利用について」(https://www.mext.go.jp/zyoukatsu/ai/)で見ることができる。
学校で利用される生成AIの種類
学校現場で利用されうる生成AIには、大きく分けて3つの種類がある。まず代表的なのが、ChatGPTやGemini、Claudeなどに代表される一般の「対話型生成AI」である(図1)。チャット形式で幅広い質問に答え、文章の下書きや要約、アイデア出しなど多用途に使える一方、入力内容の扱い等に配慮が必要である。
次に、KhanmigoやtomoLinks「チャッともシンク」、スクールAIなどのように対話型生成AIに教育用のラッピングを行い、学習支援や授業設計を目的として、学校利用を前提に設計された「学校向け生成AI」がある。学年や教科に合わせた機能、教員・児童生徒の利用を想定した安全設計や管理機能が特徴である。文部科学省の生成AIパイロット校の取組では、これら「対話型生成AI」と「学校向け生成AI」を用いた取組が見られる。
これらに加えて、2024年8月頃から、ブラウザ検索の結果上部にAIが要点をまとめて提示する「AI要約」(以下、ブラウザAI要約)も普及している(図2)。検索体験の一部として生成AIによる検索結果の要約が自然に提示されるため、情報の出典確認や真偽の吟味を含めた情報活用の指導がこれまで以上に重要となる。
一般の学校でも、情報端末でブラウザ検索を利用すれば自動表示されるものであるが、この利用に関して文部科学省のガイドラインなど公式な方向性は示されておらず、文部科学省の生成AIパイロット校でも取り扱われていない。
調査の概要
そこで、われわれは、ブラウザAI要約を中心に、学校で利用されている生成AIの実態を探るべく、調査を行った。調査時期は、2025年10月下旬~11月下旬で、調査対象は関東のA区およびB市、近畿のC市、北陸のD市およびE市ならびにF市とし、著者らが教育委員会に調査依頼を行い、各市区内の全教員を対象に調査を実施した。いずれも文部科学省の生成AIパイロット校の対象校ではない。
本調査は、質問紙として、Googleフォームを用いた。質問紙調査の項目は、学習者の生成AIの教育利用の実態と、成果と課題について教員がどのように捉えているのかを明らかにすべく、大きく4つのカテゴリについてたずねた。1つ目は所属や情報端末の利用状況などの一般的な質問について、2つ目は「対話型生成AIの利用」について、3つ目は「ブラウザAI要約の利用」について、4つ目は「校務での生成AI利用」についてである。各質問項目に対する回答は4件法(「当てはまる」「少し当てはまる」「あまり当てはまらない」「当てはまらない」)で回答を求め、利用実態が分からない場合は「分からない」を選択させた。また、カテゴリ2から4について、成果と課題を自由記述で求めた。
今回は、紙幅の関係からカテゴリ4の紹介については、またの機会とする。なお、今回の数値は教員の自己報告に基づくものであり、実際のアクセスログではないため、「教員が把握できている範囲」を反映した推定になりうる点は、あらかじめ限界として押さえておきたい。
ブラウザ検索は調べ学習の基盤
調査の回答数は、小学校教員780人、中学校教員296人、義務教育学校教員14人の合計1090人となった。授業において、児童生徒に調べ学習でブラウザ検索を利用させると答えた教員は、全体の71.5%(779名)であった(質問項目に対して、「当てはまる」と「少し当てはまる」と回答した割合と人数)。
調べ学習でブラウザ検索を利用した教科は、「総合的な学習(探究)の時間」「社会」「国語」「特別活動」「理科」の順であった。この結果から、情報端末を用いたブラウザ検索は、小中学校の現場で日常化しており、調べ学習の基盤となっていると言える。
また、利用が多かった教科は、情報の比較や言語化が必要で、検索が利用されやすいものと考えられる。以降は、この児童生徒に調べ学習でブラウザ検索を利用させると答えた教員779名を全体として説明する。
ブラウザAI要約の利用実態
ブラウザ検索を用いた調べ学習において、児童生徒にブラウザAI要約の利用を勧めた教員は、10.1%(85名)であった(質問項目に対して、「当てはまる」と「少し当てはまる」と回答した割合と人数)。児童生徒にブラウザ生成AI要約の利用を勧めなかった教員は、84.3%(657名)であった(同質問に対して、「当てはまらない」と「あまり当てはまらない」と回答した割合と人数)。
そして、ブラウザ検索を用いた調べ学習において、児童生徒が教師の指示なくブラウザAI要約を使用すると答えた教員は、38.5%(300名)であった。学校種毎の結果を見てみると、小学校が33.0%(178名)、中学校が51.3%(117名)、義務教育学校が36.4%(5名)であった。ブラウザAI要約については、教員が授業設計時に利用を意図したものではない実態が伺える。
また、児童生徒が、調べ学習でブラウザAI要約の情報をそのまま用いることがあると答えた教員は、38.6%(301名)であった。学校種毎の結果を見てみると、小学校が35.6%(192名)、中学校が46.5%(106名)、義務教育学校が27.3%(3名)であった(いずれも各質問に対して、「当てはまる」と「少し当てはまる」と回答した割合と人数)。
対話型生成AIの利用実態
一方、ブラウザ検索を用いた調べ学習において、児童生徒に対話型生成AIの利用を勧めた教員は、8.7%(69名)であった(質問項目に対して、「当てはまる」と「少し当てはまる」と回答した割合と人数)。児童生徒に対話型生成AI要約の利用を勧めなかった教員は、88.6%(690名)であった(同質問に対して、「当てはまらない」と「あまり当てはまらない」と回答した割合と人数)。
そして、ブラウザ検索を用いた調べ学習において、児童生徒が教師の指示なく対話型生成AIを使用すると答えた教員は、18.2%(142名)であった。学校種毎の結果を見てみると、小学校が11.3%(61名)、中学校が34.7%(79名)、義務教育学校が28.6%(4名)であった。
次に、児童生徒が、調べ学習で対話型生成AIの情報をそのまま用いることがあると答えた教員は、21.6%(168名)であった。学校種毎の結果を見てみると、小学校が14.1%(76名)、中学校が39.4%(89名)、義務教育学校が27.3%(3名)であった(いずれも各質問に対して、「当てはまる」と「少し当てはまる」と回答した割合と人数)。
ブラウザAI要約の弊害
これらの調査結果から、ブラウザAI要約と対話型生成AIで特徴的だったことは、教員の指導方針(利用を推奨しない)に対して、一定割合で教員の指示なく生成AIを利用する児童生徒がいる実態(以下、自主利用)の乖離である。要点を表1にまとめた。ここから読み取れることは、学校現場では教員の推奨がされないまま、児童生徒の生成AI利用が進む=シャドー利用が生じているという点である。
特に、ブラウザAI要約の自主利用率(38.5%)は、対話型生成AI(18.2%)のおよそ2倍である点に注目したい。これは、対話型生成AIが、アクセス方法の理解、プロンプト入力、やり取りといった能動的手順が必要になるのに対して、ブラウザAI要約は、検索結果に統合されているため、学習者側に「わざわざ対話型生成AIを使いに行く」行為が不要で、検索結果が目に入った時点で“答えっぽいもの”が得られることが大きな影響を及ぼしていると考えられる。
また、「児童生徒が情報をそのまま用いる」については、自主利用とほぼ同数となっている点にも注目したい。特に、自主利用率の高いブラウザAI要約では、検索の延長で受動的に要約された答えっぽいものが受け取れるゆえに、学習者は「検索→複数サイト→比較→整理」途中工程を短絡し、「要約の一文」を結論として扱いやすいと考えられる。この乖離が意味するところは、教員からの指導がないまま、学習者が生成AIを利用することで、出てきた答えらしい情報を無批判にそのまま用いてしまう、いわゆる「浅い学び」が発生しているということではないだろうか。
学校種別のデータでは、ブラウザAI要約でも対話型生成AIでも、自主利用と情報をそのまま用いる児童生徒の割合は、一貫して中学校が高い傾向を示した。その理由は、単一要因ではなく、中学校では、作業の自由度が増え、教員の目が届きにくかったり、レポート課題で整った文書の提出に対するプレッシャーが強まったりと、複数要因が組み合わさっていると考えられる。
今後の提案
教師が児童生徒に生成AIの利用を推奨しない背景には、年齢制限や誤情報の取り扱い、批判的思考の育成に関連する発達段階など、合理的な懸念があり、その慎重さは妥当であると言える。一方で、とりわけブラウザ検索で、意図せずとも表示されるブラウザAI要約を地域や学校単位で表示させない手段が現段階で標準機能として存在しないことを考えると、今後も児童生徒がブラウザAI要約に触れる機会は、増えると予想される。
思い返せば、ブラウザAI要約がなかったころに、インターネット検索結果を丸写ししていた児童生徒はいたし、紙の本を丸写ししていた児童生徒もいた。そう考えると、これは、学びの本質的な点に立ち返る必要があると考えられる。
そこで、われわれは、生成AIを使ったとしても深い学びが成立する手順を検討すべきだと考え、以下の工程の見える化を課題に埋め込むことを提案する。
1)生成AI要約に記された一次情報にさかのぼり、その工程を記録する
2)参照した情報、引用箇所、比較した観点を提出物に含める
3)生成AIからの情報を結論ではなく、候補の一つとして扱う
とりわけ生成AIをめぐる技術進歩のスピードは、制度構築や研修実施より速い。指針の空白が発生することを念頭に置きつつ、現場の教員が実感している懸念に寄り添いながら、今後の教育のあり方を議論していく必要がある。


