宇沢弘文が遺した成熟経済への処方箋 社会的共通資本の思想

社会経済の中でサステナビリティが重視され始めた今、宇沢弘文氏が提唱した「社会的共通資本」に注目が集まっている。社会的共通資本の思想による社会像とはどのようなものか、宇沢氏に直接教えを受けた経済学者の一人である帝京大学・小島寛之氏が解説する。

今、改めて知るべき経済理論
「社会的共通資本」

小島 寛之

小島 寛之

帝京大学経済学部経済学科 教授
東京大学理学部数学科卒業。同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。数学エッセイスト。著書に、『宇沢弘文の数学』(青土社)、『使える!経済学の考え方』(筑摩新書)、『経済学の思考法』(講談社現代新書)など多数。

現在、日本の社会では、二つの問題が注目を集めている。第一は、新型コロナウイルス感染拡大による医療崩壊であり、第二はSDGsである。実は、全く別問題に見えるこの二つの問題を、同じ視座から扱うことのできる経済理論が存在する。それが宇沢弘文の打ち立てた「社会的共通資本の理論」である。

医療崩壊とは、感染者数増加の猛スピードに保健所・救急・病院の対応が追いつかないことから死者が多発することである。原因は、政府がこれらの機関を削減したことにある。日本は、1990年のバブル崩壊以来、30年にも及ぶ不況に見舞われている。その期間に政府は、景気回復のための経済政策を実施した。その際、財源のための増税が必要で、その痛みを納得してもらうため、政府もまた公共事業を削減した。公務員数削減、その一環としての保健所員の削減、医療機関のコストカットなど。あとで説明するが、宇沢の理論においては、保健所・救急・病院などは「制度資本」という社会的共通資本に分類され、社会にとって重要な装置とされる。今回の医療崩壊は、政治家が社会的共通資本の役割を軽視したことの帰結と言えるのである。

(※全文:4215文字 画像:あり)

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