イベントレポート 子どもの学校選びの際に注目すべきポイントとは

12月5日、社会構想大学院大学でセミナー「新しい教育と学び――専門家から見る学校。いま、保護者に必要な学校選びの軸とは」が開催された。実務教育研究科教授の荒木貴之氏が、教育ジャーナリストの加藤紀子氏と村田学氏、教育改革者の平井聡一郎氏と学校選びのポイントについて語り合った。

左から、荒木貴之氏、加藤紀子氏

左から、荒木貴之氏、加藤紀子氏

左から、村田学氏、平井聡一郎氏

左から、村田学氏、平井聡一郎氏

近年、国際バカロレア(IB)認定校の設置、インターナショナルスクールの増加など、子どもの教育の選択肢が急速に多様化している。

これは子どもにとっては喜ぶべきことであるが、一方で保護者にとっては悩みの種でもある。無数にある学校の中からどれを選ぶべきか、何をもとに判断したらよいのだろうか。

教育系シンクタンクの所長や、私立中高の校長としても活動してきた荒木貴之氏は冒頭で、このところ同僚や保護者から、わが子の進学先について助言を求められることが増えており、そのことがきっかけで本セミナーを企画したと明かした。そうした悩める保護者や、新しい初等中等教育のあり方を模索する人に指針を与えるべく、本セミナーを企画したと語った。

子どもと一緒に過ごし、本人の
(無言の)希望に気付いてやる

続いて、『インターナショナルスクールタイムズ』編集長で、私立学校の国際コース立ち上げにも携わる村田学氏が、子どもの教育の選択肢の多様化の実情について、インターナショナルスクールを例に報告した。

村田氏によると、新興国の富裕層の間で需要が増していることもあり、この数年、世界的にインターナショナルスクールの新設が流行しており、日本にもその波が及んでいるという。

それに加えて、1条校出身の生徒のみ受け入れるという従来の方針を撤廃し、インターナショナルスクール出身の生徒にも門戸を開く中学校も現れてきている。この結果、インターナショナルスクールが選択肢として一般化してきていることが紹介された。

学校選びのポイントについて村田氏は、子どもはひとりひとり違っているので、一概に言うことはできないと語った。「私は、どの学校もよいと思っているのです。子どもの行きたい学校が理想の学校なのです」

村田氏自身、自分の娘をインターナショナルスクールに通わせるのを、本人から「友達と別れたくない」と反対され、断念した経験があるという。

「私の娘はどういう環境で学びたいか伝えてくれましたが、そうでない子もいると思います。ですから、やはり子どもとコミュニケーションを取ることが大事です。遊ぶだけでいいのです。そこから『何に興味があるのか』、『何を感じているのか』を見抜いてあげましょう。それが、欧米であっても日本であってもアジアであっても変わらない原点だと思います」

これを受けて荒木氏は、「子どもの成長にもっとも効果があるのは、その子を信頼してやることである」という研究結果を紹介し、「何かができないからといって駄目だというのではなく、褒めてあげてほしい」とコメントした。

教師主導の「縦の学び」から
探究型の「横の学び」へ

続いて、合同会社未来教育デザイン代表社員で、数々の学校や自治体でICTアドバイザーを務める平井聡一郎氏が、探究型の授業へのシフトの必要性と、その中でICTが果たす役割について語った。

平井氏は開口一番、「ゼロベースに戻さないと、今、日本の教育はまずいのではないか」と危機感をあらわにした。

平井氏によると、問題は教育の格差であるという。その格差は、よく言われるような地方と都会、公立と私立の間のそれではない。地方と都会、公立と私立の間には、実は格差はそれほど存在しないという。たとえば探究のグッドプラクティスは、むしろ地方の公立学校に多いという。

そうではなく、本当の格差は、ひとつの学校の中に存在しているという。それは、学級間の格差、教員間の格差である。

「先生の教え方がひとりひとり、まったく違っています。これが今の一番の課題です。自分たちの受けてきた教育が癖のように頭に染みついていて、『一生懸命教えてくれる先生が良い先生』と考えている先生がいるのです。これは保護者も同じです。そこを変えていくことが、今の一番の課題だと思っています」

平井氏は、OECDが発表した「生徒エージェンシー」や、教育学者ロバート・K・ブランソンが提唱した学校教育モデル教師を引き合いに出しながら、自分の知識と経験を生徒に一方的に講義する従来の「縦の学び」から、教師と生徒、また生徒同士の「やり取り」を通じた探究的な「横の学び」へのシフトの必要性を力説。その上で、「AIによって知識と経験の優位性がなくなろうとしている今はそのチャンス」と指摘した。

「やり取り」にはICTが不可欠であるが、子どもたちが悪用するからといって導入に消極的な学校も存在する。平井氏はそのような考え方を一蹴する。学校はその中でなら事故を起こしてもよい「教習所」のようなもので、むしろ学校の安全な環境の中で事故を起こしておくことで、「炎上」を始めとする実社会での事故を防げるのである。この意味でも、学校はICTを積極的に導入すべきと語った。

その上で、学校選びの基準について「授業を見てください、の一言に尽きます。自分で考える場面、自分で決定する場面がどれくらいありますか? 端的に言えば、先生がしゃべり過ぎている授業はだめです」と語った。

これを受けて荒木氏は、数年前ある学校の校長に着任したとき、生徒向けのあいさつをオンラインで行ったところ、その日のうちに一部の生徒からメッセージが届き、コミュニケーションの変化を痛感したというエピソードを披露。「生徒たちが大人になる頃には、生成AIはもちろん、あらゆるものがインターネットにつながっているのが当たり前になります。ですから、学校が社会とつながるためにも、最先端のものを学校に導入するのが必要です」と語り、GIGAスクール構想をさらに一歩進めた取り組みが重要であると指摘した。

会場の様子

複数のコミュニティに所属し
視野を広く持つ

最後に、教育情報サイト『リセマム』編集長を務め、『子育てベスト100』(ダイヤモンド社、2020年)などの著書もある加藤紀子氏が、自身の経験も踏まえつつ、学校選びのポイントについて語った。

まず加藤氏は、自身のジャーナリストとしての活動の根底にあるのは「サイロ化」(タコツボ化)に対する危惧であると語った。

「教育の選択肢は多様になっているのですが、それぞれの選択肢が非常に孤立していて、横の連携がありません。それぞれの取組みは素晴らしいのに、お互いに無関心なまま進んでいってしまっています。それぞれの選択肢に集まっている人についても同じです。保護者は教育熱心になるほどに、サイロの中に閉じこもり、偏った情報に煽られたり、焦ったりし、子どもに無理をさせたりということが生じています」

加藤氏自身、かつては大企業に勤めていたが、第1子を出産後に退職。それをきっかけに世界が開けたという。「大企業というサイロの中で守られてきた分、一歩踏み出すには勇気が要りました。でも思い切って出てみたら、世界は案外広いのだということに気づきました。皆さんも、ひとつのサイロに閉じないでほしい。特に今、居心地の悪さを感じたり、辛い思いをしていたりする人には、『なんで私、あんなところで窮屈な思いをしていたんだろう』と気づかせてくれる、別の居場所が見つかるはずです」

このことは、保護者だけでなく子どもにも言えるという。たとえば不登校は、コミュニティをひとつしか持たない子どもが、その唯一のコミュニティで行き詰まると起きてしまう。コミュニティを複数持っていれば、そのひとつで失敗したからといって、絶望するようなことにはならない。子どもに複数のコミュニティが用意されているかどうかが、学校選びのポイントになるとの見方を示した。

これに対して荒木氏は、「複数のコミュニティに所属すべし」というのは、自分も大学院の教え子に対して常々言っていることであると明かし、その上で、単にコミュニティに所属するだけではなく、そこに「学び」という要素を入れること、そしてその「学び」を通じてコミュニティに貢献することが、再定義された新しい学び(トランスフォーミング・ラーニング)のひとつの形態であることを指摘し、保護者も子どもも、さまざまなコミュニティに所属し、学びに取り組んでほしいと語った。

会場の様子

共有すれば
学びの未来は実現する

セミナーの途中、平井氏から次のような発言があった。「どういう学びを目指すのか、どんな未来にしていきたいかを、皆が共有し、一緒になって考えることが大事です。未来の共有です。これがないと、『私たちの時代はこうだった』というのが、いつまでもはびこります。『未来は変わるんだ』という意識を皆が共有すれば、それは現実になります」

平日の昼間にもかかわらず、対面・オンライン合わせて200名近い参加者に恵まれた本セミナーは、まさにそのような「未来の共有」の場となり、単に学校選びのポイントを示しただけではなく、教育が変わっていくひとつのきっかけをつくったといえるだろう。