色彩検定UC級 ⾼齢&デジタル社会の新常識・⾊のユニバーサルデザインとは

30年あまりの歴史をもつ⾊彩検定に2018年から加わったUC級。「⾊のユニバーサルデザイン」を対象とした級で、このたび公式テキストの内容が改訂された。その内容や「⾊覚の多様性」が重視されるようになった背景、UC級受検を通して学べることを聞いた。

色覚の多様性を知る
新しい資格「UC級」

名取 和幸

名取 和幸
⼀般財団法⼈⽇本⾊彩研究所常務理事

データをもとに課題解決ができる人材の育成が喫緊の課題となっている。「DX白書2021」(情報処理推進機構)によれば国内企業の9割が質・量ともにIT人材不足を感じており、データ人材の確保が難しいと感じている企業も4割を超えている。

1990年の第1回開催より累計150万人以上の方が受検している『色彩検定』。色の基礎から配色技法、専門分野での活用に至るまで、幅広く学べる文部科学省後援の公的資格である。従来は、初めて色を学ぶ人向けの3級、実務に応用したい人向けの2級、プロフェッショナル向けの1級の3段階に分けられていたが、2018年から「色覚の多様性に配慮した、誰もが見やすい色使い」を学ぶための『UC級』が新設された。

「UCとは色のユニバーサルデザインのことです。遺伝などによって『特定の色の組み合わせが判別しにくい』という人は、日本では男性の20人に1人、女性の500人に1人の割合で存在するといわれています。また、高齢化が進むにつれて、白内障など視機能の衰えによって色の見え方が変わる人も増えてきます。こうした特性を理解し、色覚の多様性に配慮した色使いができる人を増やすことで、誰もが暮らしやすい社会に貢献することがUC級を設けたねらいです」と、色彩検定協会の益田雅惠氏は語る。

2022年1月に改訂されたUC級の公式テキス

2022年1月に改訂されたUC級の公式テキスト

UC級の試験は年2回(6月・11月)に実施されており、2021年は約5,000名が受検した。アパレルや建築分野のデザイナー、理容・美容業に従事する社会人や、そうした分野を志す学生らが多数を占める点は1~3級と同様だが、医療や福祉、教育関係者などの受検も目立つ。

「医療や福祉関係の方は、UC級の公式テキストの中で、高齢者の見え方について触れている点に注目されているようです。また、色の判別が難しいお子さんを教える立場にある教員や保護者も学んでくださっています。ユニバーサルデザインへの配慮は、SDGsの『誰一人取り残さない』や『質の高い教育をみんなに』といった姿勢につながりますから」(益田氏)

学校は教えない知識を
公式テキストに凝縮

色彩検定 UC級のカリキュラムや公式テキストの作成は、同協会と一般財団法人日本色彩研究所が共同で行っており、公式テキストは2022年1⽉に改訂されたばかり。2018年の初版に比べて⽂字のサイズを大きくし、字体もUDフォントに変更した。さらに、図表やクレジットのサイズやレイアウトも細かく見直し、テキスト自体もUCに配慮したデザインにブラッシュアップされた。

さらに、情報の密度はアップしており、まず、⾊覚のメカニズムについて詳しい解説を加筆。医学的な内容も少し含んでいるが、より深く理解してもらいたいとの願いを込めた。

日本色彩研究所の名取氏は「見え方が違うことにより、⽇常生活の中でどのような不便を感じているかを知ってもらうための具体例も増やしました。たとえば、カラフルに色分けされた路線図も人によってはわかりやすくならず、黒地に赤のLEDで記された進入禁止の表示なども、読めない人がいるという事例です。知識がないために、ご家族の色の見え方の違いに気がつかず、『ふざけているの?』とケンカになったり、教員が適切に指導できなかったりといったケースでも、『知る』ことによって対応ができます。考え方や受け止め方が変われば、コミュニケーションが円滑になるかもしれません」と話す。

現在の学校教育では、色の三属性や混色の知識、光のことを習う程度で、「⾊覚の多様性」に触れる機会はほとんどない。しかし、「特定の色の組み合わせが判別しにくい」人は国内だけで300万人を超えており、白人男性では8%程度と推計されている。高齢化・グローバル化が進みダイバーシティが重視されるいま、⾊覚の多様性に関する知識の重要性も高まっていきそうだ。

相手と自分を理解するために
色の「機能的役割」を学ぶ

図 色覚の違いによる充電ランプの見え方の差

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色彩検定1~3級が総合的な色彩の知識の習得を目指しているのに対し、UC級では“機能的な役割”にフォーカスしている。つまり、製品やブランドに「カワイイ」「かっこいい」といったイメージを与えるような色の情緒的な役割よりも、情報を的確に伝えるために色を使うシーンを想定し、配慮すべきポイントを網羅した内容となっている。

「⾊彩というと、デザインやファッションなどの専門職だけに必要な知識だと思われがちですが、いまは誰もが色を使う時代です。皆さんも、スマホを手にカラーの写真や動画を撮影し、それを編集して多くの人の目に触れるものに加工したり、色を使ったプレゼンテーション資料やポスターを作成したりといったご経験があるのではないでしょうか。色覚の多様性のメカニズムや機能性について、効率よく学ぶ機会として利用していただきたいと思います」(名取氏)

最近ではデジタルデバイスなども増えてきたが、電源ON/OFFを示すランプなどが判別しにくくなると、不便なだけでなく身に危険が及ぶケースもある。ウェブクリエイター、出版・印刷業、住民向け広報を行う公務員、さらには当事者やその家族にも受検のメリットは大きいだろう。

【お問い合わせ】

公益社団法人 色彩検定協会
Mail:ads@aft.or.jp
URL:https://www.aft.or.jp/uc/

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