カーボンニュートラル社会実現へ組織同士の産学連携の在り方を議論

大学支援フォーラムPEAKSは10月29日に「『カーボンニュートラル』社会を目指した産学連携~研究者個人から組織対組織の共創を目指して~」をテーマにオンラインセミナーを開催した。企業・大学の研究開発の具体的課題や、双方が互いに期待する役割とは何かについて議論が行われた。

内閣府の大学支援フォーラムPEAKSは、大学と企業による新たな価値の創造を志向した産学連携活動のきっかけを提供するため、セミナーおよびマッチングイベントを開催。その第一弾として、10月29日に「カーボンニュートラル」をテーマにオンラインセミナーを開催した。

カーボンニュートラル実現に
向けて重要なのは「調整力」

松橋隆治

松橋 隆治
東京大学 エネルギー総合学連携研究機構長・教授

基調講演には、東京大学エネルギー総合学連携研究機構長・教授の松橋隆治氏が登壇した。日本では、「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」が、2021年5月26日に成立。2050年までのカーボンニュートラル(CO2排出をネット・ゼロにすること。以下「CN」)の実現に向けた取組み・投資やイノベーションを加速させるとともに、地域の再生可能エネルギーを活用した脱炭素化の取組みや企業の脱炭素経営の促進を図ることとしている。

そして10月22日には、「第6次エネルギー基本計画」が閣議決定された。同基本計画では、2050年に向けた具体的なシナリオ、全体像が描かれていないが、松橋氏はどのエネルギーキャリアが競争を勝ち抜くかが非常に不確実である以上、現時点では、その点はそれほど重要ではないとした上で、再生可能エネルギーのシェアが大幅に増えた際、エネルギーフローの各部におけるエネルギーキャリアのコスト増加への注目が重要だと指摘。

特に重要なエネルギーキャリア(電気・水素・NH3・CNメタン等)に関して、「どこまでならばコストの上昇が許されるのか、どこまでコストダウンを目指すべきかという、部門ごとにR&D目標値を示して、そこに向けて大学産業界が力を合わせて頑張っていくことが非常に重要となってきます」と指摘した。また、再生可能エネルギーが大幅に増えた際、「調整力」が重要になるといい、例えば「天候によって左右される出力、この供給と需要を合わせるために、様々な時間帯での調整力が必要になってきます」と述べた。

CN実現に向けた概念は、欧州のEUタクソノミーがあるが、松橋氏は、二元性一元論に基づいた概念を紹介。変動性再生可能電源とガス体、流体利用電源の双方を利用しながら、出力調整の可能で柔軟な電力システムが合わさることで、CN実現においてもすぐれた電力システムができるのではないかと指摘した。

そしてCNをどう実現していくかについて、カーボンフリーのエネルギーシステムを作るための長期短期の技術例についていくつか紹介

「例えば、自動車のカーシェアリングでは、1週間1台当たり、1600円の電力コストがかかる一方で、モデル予測制御をかけると1週間1台当たり、むしろ電力コストがマイナスになって収益が上がるということが検証できています」(松橋氏)

松橋氏は最後に「こうしたイノベーションを産業界、行政の皆様と一緒に、大胆に社会実装して社会に貢献することが非常に重要であると考えています」と締めくくった

グリーンイノベーション分野での
産学連携の在り方などを議論

大久保達也

大久保 達也
東京大学 理事・副学長

木崎幹士

木崎 幹士
トヨタ自動車株式会社 商用ZEV 製品開発部Chief Professional Engineer

波多江徹

波多江 徹
東京ガス株式会社 デジタルイノベーション戦略部 技術戦略・オープンイノベーションチームリーダー

パネルディスカッションでは、東京大学理事・副学長の大久保達也氏、トヨタ自動車商用ZEV製品開発部CPEの木崎幹士氏、東京ガス デジタルイノベーション戦略部技術戦略・オープンイノベーションチームリーダーの波多江徹氏が登壇し、九州大学副学長・主幹教授、水素エネルギー国際研究センター長の佐々木一成氏がファシリテーターを務めた。冒頭、3者から組織での取組み等が紹介された。

はじめに東京大学の大久保氏は「東京大学とGX(グリーントランスフォーメーション)」をテーマに、東京大学が9月に公表した新指針「UTokyo Compass」におけるGXの具体的な行動計画、GXを先導する高度人材育成に関する取組みを紹介。また、GX実現に向けた東京大学の最初の取組みとして日本の国立大学法人として初めて国連気候変動枠組条約事務局が展開する国際キャンペーン「Race to Zero」へ参加したことや、エネルギー総合学連携研究機構の立ち上げ、国際オープンイノベーション機構の取組み等を紹介した。

続いて、トヨタ自動車の木崎氏は、「『カーボンニュートラル』社会を目指した産学連携」をテーマに、燃料電池を取り巻く環境と世界の動向や、日本の燃料電池開発、グリーン分野の研究開発や社会実装を加速する産学連携などについて講演した。

グリーン分野の大学への期待や産学連携については、産業界では難しいハイリスクなサイエンスの世界におけるシーズの探索や、技術戦略の立案では、産学による目標設定と目標達成シナリオ策定、欧米のように製品に近いシステムレベルの研究、といった点が重要だと指摘した。

東京ガスの波多江氏は、「東京ガスのオープンイノベーションの取り組み」をテーマに、グループ経営ビジョン「 Compass2030 」に掲げた「CO2ネット・ゼロをリード」への挑戦に関連した取組みを産学連携の実績とともに講演した。

脱炭素社会を実現する上で、波多江氏は電力に加えて、熱の視点が重要と指摘し、移行期の天然ガス高度利用による低炭素化の先にある「ガス体エネルギーの脱炭素化」に対しては産学の更なる連携やオープンイノベーションを通じて取組む必要があると述べた。エネルギー分野での大学への期待として、基礎学問に基づく革新的なプロセス考案や材料開発、高寿命化を挙げた。

パネルディスカッションでは、「カーボンニュートラル社会を目指した産学の組織的連携に必要なこと」をテーマに、グリーンイノベーション分野で大学に期待されること、大学や企業を往還するといった高度人材の流動化のためにどうすべきか、などの観点から、議論が行われた。