総合知×研究DX×共創の場で日本の成長を牽引する大学を支援

予測不能な社会の中、日本の成長を牽引すべく、知の拠点たる大学への期待は高い。政府は大学の強みや特色を伸ばすべく「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ」を策定。文部科学省 産業連携・地域振興課 拠点形成・地域振興室の梅原弘史室長が同パッケージを解説する。

地域大学を取り巻く課題と
研究大学支援の全体像

梅原 弘史

梅原 弘史

文部科学省産業連携・地域振興課 拠点形成・地域振興室 室長

地域の大学を取り巻く現状には、様々な課題がある。例えば地域別大学の進学率でみると、三大都市圏(東京・大阪・愛知)とその他の地域では13%以上の開きがある。大学進学の流入出率で見ても、三大都市圏以外では若者が県外へ流出する傾向があり、さらに18歳人口の減少割合も、三大都市圏より地域の方が顕著だ。加えて、大学発ベンチャー数も、圧倒的に三大都市圏に集中している。

「新産業の創出は地域にとって非常に重要なファクターであるにも関わらず、地域の大学が産業構造の転換に貢献している事例は多くないというのが現状です」と産業連携・地域振興課 拠点形成・地域振興室 室長の梅原弘史氏は指摘する。

また、グローバルな視点から研究力の指標となる論文数に着目すると、特定分野に強みを持つ地域の大学は多数存在するものの、上位に続く層の大学から輩出される論文が、海外に比べ少ない傾向にあるのが課題となっている。

「上位に続く層の大学の研究力に厚みが形成されるよう、大学の強みや特色を伸ばす施策の展開が必要と考えています」

こうした状況を背景に、政府は研究大学に対する支援を進めており、「世界と伍する研究大学」については、数校程度選考し、必要な経営体制等を求めた上で、「10兆円規模の大学ファンド」の運用益より早ければ2024年度から支援を行う。

そして、「特定分野で世界トップレベルの研究拠点を形成する大学」、「大型の産学連携を推進する大学」、「産学官連携を推進し、地域の産業振興や課題解決に貢献する大学」については、「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ」(以下「総合振興パッケージ」)で支援する。また、どの研究大学かを問わず、個人に着目した優秀な博士課程学生への支援も併せて展開していく(図)。

図 研究大学に対する支援全体像

画像をクリックすると拡大します

政府全体で研究大学を支援
総合振興パッケージの3本柱

総合振興パッケージでは、関連施策で2022年度は462億円の予算を計上。今後も改訂を行い、施策の追加や予算の拡充を柔軟に行っていく予定だ。「地域の中核大学や特定分野に強みを持つ大学が、その強みや特色を十分に発揮し、社会変革をけん引していただけるよう、取組を強力に支援することが狙いです」。

実力と意欲を持つ大学の個々の力を強化するのみならず、先進的な地域間の連携の促進や、社会実装の加速を政府が総力をあげてサポートする仕組みとなっている。

総合振興パッケージの柱は3つ。

1つ目は「大学自身の取組の強化」。基盤的経費・競争的研究費の拡充、事業間の連携や大学改革と連動した研究環境の改善、人材育成、産学官連携などを総合的に行う。

2つ目は「繋ぐ仕組みの強化」。地域の産学官ネットワークの連携強化や、スマートシティ、スタートアップ・エコシステム拠点都市、地域バイオコミュニティなどの座組の活用を推し進めていく。

3つ目は「地域社会における大学の活躍の促進」。各府省が連携する大学への一体的な支援施策をイノベーションの重要政策課題や地域課題ごとに事業マップを整理して、社会変革までの道のりを可視化すると同時に、自治体との連携強化に向けた様々な仕掛け等を展開していく。

「共創の場の形成等を通じ、大学が自らの強みや特色を伸ばす、戦略的な経営を展開し、マネジメント改革を促進していただく。それらを通じて、大学のあらゆる知を最大限活用し、地域社会の課題解決を実現していただきたい。大学の強みを地域の課題解決に活かすため、先進的な取組にドライブをかけるような支援施策を総動員して、地域の研究大学を支援していくことを考えています」

知の変革、産業の変革を地域から
大学を成長のエンジンに

現在、岸田内閣では「デジタル田園都市国家構想」の実現へ向けた取組が進展している。デジタル実装を通じて地方が抱える課題を解決し、誰一人取り残さず、全ての人がデジタル化のメリットを享受できる心豊かな暮らしを実現するのが狙い。総合振興パッケージも、その実現へ向けた重要な柱の1つを担う政策だ。

「大学シーズの社会実装を加速する事業連携、制度改革を行い、政府で別途取組んでいるスタートアップ・エコシステム、スマートシティ、地域バイオコミュニティなどとも連動しながら、ビッグデータの活用、研究DXなどを推進することで、知の変革や産業の変革を地域から起こしていきたいと考えています」

総合振興パッケージの社会実装関連において中核的施策である「共創の場形成支援プログラム」はバックキャスト型の研究開発手法を取っていることが特長だ。大学の研究型事業は有望な研究シーズの実用化、製品化を目指すフォアキャスト型が多い。対して同プログラムでは10年20年後のあるべき社会像を描き、その実現へ向け産学官で共創していく。

「現状の研究開発の延長線上に予見できる未来ではなく、産学官が一緒になってありたい未来を描き、共有する。社会や業界に大きなインパクトをもたらしうる変化を構想し、自ら実現したいユニークな未来を着想。それを起点としてバックキャストで事業の組立てを考えていきます」

現在、多くの地域で大学を中心とした産学官共創での地域課題解決へ向けた動きが起こっている。

青森県では「日本一の短命県」を返上し、健康長寿社会を築くことを高いビジョンとして掲げ、弘前大学を中心に、行政、企業、住民が一体となり、約2,000項目に及ぶ住民の健康ビッグデータを蓄積。データ分析を行うことで、20疾患の発症予測・予防法を社会実装し、新産業創出や医療費抑制等に貢献している。

「人文・社会科学も含めた総合知と研究DXをもって、地域、日本、世界の課題に対峙し、日本全国の大学に成長のエンジンへと発展していただく。それぞれの拠点で『人が変わる、大学が変わる、社会が変わる』といったムーブメントを起こしていただきたいと思います」