学習ログの収集・分析からデジタル教科書の可能性を拓く[AD]

教科書最大手の東京書籍は、つくば市や東北大学大学院堀田龍也研究室などと共同で、デジタル教科書の学習ログを教科書改善などに活用する実証実験を開始した。その経過報告から見えてきた学習ログ活用の可能性や課題を、東京書籍の長谷部直人氏が整理する。

1人1台端末の整備が進み
学習ログの収集・分析が可能に

長谷部 直人

長谷部 直人

東京書籍株式会社 取締役教育文化局次長

GIGAスクール構想による1人1台端末の整備、学習者用デジタル教科書の普及等によって、児童生徒の学習履歴や操作ログといった学習ログの収集・分析が可能になってきた。

文部科学省の「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」で、学習ログの活用が資料として示されたことも後押しとなり、教師の負担軽減や個別最適化された学びの実現に向け、教育データの利活用への期待も高まりを見せている。

そうした昨今の動きに先立って、教科書最大手の東京書籍は公立小学校で、東北大学大学院堀田龍也研究室と学習ログの収集・分析に関する共同研究を2017年から約2年にわたって実施してきた。学習者用デジタル教科書(プロトタイプ)のアプリ版を端末にインストールし、取得した操作ログから利用の多かったページやポップアップで拡大した図などを特定し、利用された機能とコンテンツの分析を行った。

「分析・可視化には大変な労力を必要としましたが、実証研究で得られた知見を活かすことで、Lentrance社の学習履歴データ分析ツール『Lentrance Analytics(レントランス アナリティクス)』の先行開発につなげることができました」と、東京書籍取締役教育文化局次長の長谷部直人氏は成果を振り返る。

デジタル教科書の活用が
学習への意欲に与える影響を検証

この研究をさらに発展させるため、東京書籍は、つくば市教育委員会、東北大学大学院堀田龍也研究室、Lentrance社と連携して、つくば市の公立小中学校13校(小学校7校、中学校6校)を対象に、デジタル教科書・教材の学習履歴データ活用に向けた共同実証研究を実施している(実施期間は2021年10月から翌年3月末まで)。特に小学校1校(社会)と中学校1校(英語)は重点校とし、詳細な調査を実施。残りの11校は期間内の操作ログを集計し、活用の傾向を分析する。

長谷部氏によると、本実証研究の目的には3つの狙いがあるという。

「1つ目は、デジタル教科書の活用が学習内容の理解や学習への意欲に与える影響を調べること。学習への意欲に与える影響を調べることが特徴的です。2つ目は、操作ログや授業記録(映像等)の活用により、デジタル教科書の活用のされ方を分析し、指導改善や教材改善への活用法を検討すること。3つ目は、将来的な学習履歴データの収集や蓄積に向けた、システム面、運用面、制度面から見た課題や検討事項の整理です」

重点校の中学校英語では、生徒のデジタル教科書の利用回数・利用時間や、デジタル教科書使用前後の学力調査の結果の関係を分析。またデジタル教材(音声教材)の積極的な活用が、生徒の英語学習に対する意識や意欲、教科書観や学習観に与える影響を調べる。なお、意識や意欲、教科書観や学習観はアンケート調査を行っている。

小学校社会では、1時間の授業を映像等による授業記録、操作ログ、教師による評価等の観点から分析し、児童の活動の詳細を可視化する。また、操作ログの数値的な処理だけではなく、実際の教材のねらいや授業の流れ(指導計画や指導案)にてらして分析することで、指導改善や教材改善に生かす方法を検討する。

2021年10月から12月までの経過を見ると、教育委員会による研修を実施後、利用者数・利用校数ともに増加した他、体育祭前は準備等もあり活用が進まなかったこともわかり、長谷部氏は「学校行事の影響も加味した検討が必要」と言及した。

また社会重点校では、活用されたページとそうでないページに開きがあることから「4年生の社会科は地域学習が中心。副読本を使用する単元も多いため、必要な部分だけを選んで活用している様子が分かります」との分析結果が示された。さらに、ヒートマップ表示からは、6年歴史編では本文にログが集中するのに対し、5年では本文よりも周辺の資料やコラムにログが集まる傾向があることがわかる(図参照)。

図 ヒートマップ表示から見た利用傾向(社会重点校)

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英語重点校は、様々な機能を備えた本文の音声再生コンテンツより、拡大表示のみの本文の方が利用されているという意外な結果が出た。長谷部氏は「調査により、先生の指示による影響があることが分かってきました。操作ログだけで判断することの難しさがわかります」と述べた。

児童生徒の特性・学習傾向を把握し
個別最適な学びの提供を目指す

児童生徒に与える影響を定量的に分析した結果、今後の学習ログ活用の可能性として見えてきたことは大きく2つある。1つは、教科書・教材の内容改善だ。

「教科書に掲載されている図版や資料等の利用傾向から、より活用度の高い教材を優先的に掲載するなど、学校現場の実態やニーズに即した教材改善、つまり教科書そのものの制作への反映も可能だと考えられます。また、4年生の社会科で見られたように、地域別によく使われる単元や資料の利用傾向を調べることで、地域の特性に応じた教材の提供を行うことも期待できると思います」

ただ注意が必要なのは、クリック数に比べて利用時間が少ない拡大画面等は、UI/UXの問題で誤ってクリックしている可能性がある点だ。さらに、クリックだけで簡単に拡大できるという機能自体が不必要な操作を誘発し、児童生徒の集中力をそいでいる可能性も考えられる。このため、より詳細な利用傾向の分析が、デジタル教科書の仕様やUI/UXの改善を行うことに繋がる。

もう1つは、児童生徒の特性・学習傾向、現在の状態の把握だ。

「たとえば、グラフや写真等の視覚情報を好むのか、あるいは本文等の文章情報を好むのかといった特性の他、コンスタントに継続的に学習する、あるいはテスト前に集中的に学習する等の学習傾向を把握し、指導に活かすことも考えられます。また、持ち帰りの際の使用状況から家庭での学習習慣も把握した上で、教師がより効果的に働きかけることも可能だと思います」。最後に、長谷部氏は「操作ログの分析にあたっては、データアナリティクスの視点だけでなく、教科教育や心理学、医学等の多角的な視点から見ていく必要がありそうです」と述べた上で「個別最適な学びの提供がいかに難しいかを痛感しつつ、今後も実証研究を進めたいと思います」と結んだ。

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