SHONAI 「ツクルで世界は変わる」地方から新しい教育モデルを発信

SHONAIは多角的な事業を展開し、その収益を教育へと還元。鶴岡市で運営する全天候型児童教育施設「KIDS DOME SORAI」では、子どもの主体性を重視した独自の教育を実践している。持続可能なモデルを構築し、教育から地方創生を実現しようとしている。

事業収益を教育に還元、
子どもの主体性を育む

渡邉 敦

渡邉 敦

株式会社SHONAI 執行役員
KIDS DOME SORAI 館長
山形市出身。大学卒業後、中国で16年間、大学講師やアフタースクール運営など教育事業に携わり、STEAM教育やMaker教育を実践。異文化の中で多様性と創造性を育む教育を追求する。2021年にKIDS DOME SORAI館長に就任し、フリースクール事業「SORAI SCHOOL」を設立。庄内子どもの居場所ネットワークを主宰し、教育と地域が支え合う仕組みづくりを進めながら、子どもの主体性を軸に地方から新しい教育モデルを発信している。

山形県庄内地域に拠点を置くSHONAIグループは、観光・農業・地域企業支援・教育の4事業を展開し、新たな経済圏の創出に挑んでいる。ビジョンとして「地方の希望であれ」を掲げ、2030年までにグループ全体で売上100億円超の達成を目指し、2040年までに売上100億円規模の企業を1000社生み出す「SHONAI経済圏」構想を推進している。

SHONAIの執行役員で、KIDS DOME SORAI(以下、ソライ)館長の渡邉敦氏は、次のように語る。

「私たちは様々な事業を展開していますが、その中心には『教育』があります。SHONAI経済圏により事業収益を伸ばし、その成果を次世代への『教育投資』として還元する。地域の資源を世界のニーズに接続することによる『地域外からの収益獲得』と『教育投資』の両輪で、地方から日本の未来を切り拓くことを目指しています」

SHONAIが鶴岡市で運営するソライは、建築家・坂茂氏が設計した木造ドーム状の全天候型児童教育施設だ。ソライの名称は、江戸時代の儒学者・荻生徂徠に由来する。ソライでは、庄内藩校致道館で古くから教えられた学問、徂徠学が掲げる「天性重視 個性伸長」(生まれながらの個性に応じてその才能を伸ばすこと)をコンセプトとしている。

木造ドーム状の全天候型児童教育施設「KIDS DOME SORAI」。鶴岡駅から施設までは車で約10分、徒歩では約30分の場所に位置する

木造ドーム状の全天候型児童教育施設「KIDS DOME SORAI」。鶴岡駅から施設までは車で約10分、徒歩では約30分の場所に位置する

また、教育理念として「ツクルで世界は変わる」を掲げる。

「ツクルは『造る』『作る』『創る』の総称で、子どもたちが主体的に取り組むすべてのツクルを含みます。ないものは自分でつくり、夢中になる時間を楽しむ。子どもたちには自ら行動し、生み出すことで世界は変わることを学んでほしいと思います」

7年で延べ30万人が利用、
創造的な学びの環境を整える

「アソビバ」はアスレチック要素の高いダイナミックな空間。思いのままに遊びにチャレンジできる。

「アソビバ」はアスレチック要素の高いダイナミックな空間。思いのままに遊びにチャレンジできる。


「ツクルバ」には約1000種類の素材と200種類の道具が揃う。子どもが自分の好きなものを自由につくることができる。

「ツクルバ」には約1000種類の素材と200種類の道具が揃う。子どもが自分の好きなものを自由につくることができる。

ソライは、1000種類以上の素材と200種類の道具を自由に使える「ツクルバ」、高さ6メートルのオリジナル遊具を備えた「アソビバ」、約800冊の本が並ぶ「ライブラリ」の3つのエリアで構成される。

2018年の開館から7年で延べ30万人が利用するなど、着実に地域に根付いてきた。特筆すべきは、子どもたちの変化だ。「うまくできないからやらない」と言っていた子どもが、失敗を恐れずチャレンジしたり、大人の判断を求めていた子どもが、自分で考え行動したりするようになる。

ソライでは、遊具の年齢制限を設けていない。「6歳ならいい、3歳ならダメ」という線引きではなく、子ども自身が自分の能力を判断し挑戦できる環境を整えた。しかし、高い場所から「飛んでいい?」と大人に許可を求める子どももいる。実際、保育園等で自由遊びに慣れた子どもはソライの施設を存分に活用するが、管理的な環境で育った子どもは戸惑いを見せる傾向があるという。

渡邉氏は「大人の関わり方が問われます」と指摘する。子どもが自分の身体感覚で判断すべきことを、大人が代わりに決めてしまう。そうした過度の干渉は、子どもの主体性を奪いかねない。

「ソライではプロセスを重視し、成果物よりも試行錯誤の過程での学びを大切にしています。しかし保護者の中には、成果物をつくることがゴールだと思っている方もいます。大人の側に教育観の転換が求められますから、今後、子どもとの関わり方の提案にも力を入れたいと考えています」

学童やフリースクールを展開、
子どもたち自身で居場所づくり

学童「SORAI放課後児童クラブ」では、子どもたちが主体的に運営に携わる。

学童「SORAI放課後児童クラブ」では、子どもたちが主体的に運営に携わる。


フリースクール「SORAI SCHOOL」では、2時間半をかけて「ごはん」の時間がある。子どもたちは、食材選びから調理まですべて話し合いで決める。

フリースクール「SORAI SCHOOL」では、2時間半をかけて「ごはん」の時間がある。子どもたちは、食材選びから調理まですべて話し合いで決める。

ソライは児童館の機能に加え、学童「SORAI放課後児童クラブ」とフリースクール「SORAI SCHOOL」を運営している。

SORAI放課後児童クラブでは、子どもたちが「なければ自分でツクル」のマインドで主体的に運営に関わり、自分たちの手で放課後時間をデザインしている。大人は管理するのではなく、子どもたちの自治活動をサポートする。子どもたち自身が運営ミーティングやルールづくりなどを行うほか、月3000円の予算が与えられ、それを使って何をしたいかはプレゼン大会で決める。また、子どもたちが自分たちで企画・運営するお店や遊びのコーナーを設けたイベントも実施している。

フリースクール「SORAI SCHOOL」は、学校以外の新たな「学びの選択肢」だ。学校に行けない子・行かない選択をした子、特定の曜日だけ通う子など、多様な子どもたちが通い、市教育委員会との連携により出席が認められる。

SORAI SCHOOLのメインプログラムは、午前・昼食・午後の3部で構成される。午前は「ジブンの学び」で、学校の勉強をする子もいれば、自分の関心事の追求に没頭する子もいる。昼は2時間半をかけて「ごはん」の時間がある。子どもたちは、食材選びから調理まですべて話し合いで決める。「ジブンもみんなも大切」という合言葉のもと、仲間と協力して食事をつくる。その合意形成のプロセス自体が貴重な学びの機会だ。

そして午後は「表現」の時間になる。「アソビバ」や屋外で遊びを自分でつくり出したり、「ツクルバ」で感じたことを作品やパフォーマンスで表したりして、創造性と表現力を育む。学校に行けなかった子どもが、SORAI SCHOOLでの経験を通じて元気を取り戻すケースも少なくないという。

また、ソライが近年力を入れている取組みの一つが、障がいの有無に関わらず、みんなが共生する社会を目指す「みんなのソライ」プロジェクトだ。東京大学バリアフリー教育開発研究センターと連携し、インクルーシブな学びの場づくりを進めている。学びの困難を個人の問題ではなく環境の問題と捉え、すべての子どもが学べる場を目指している。

ソライの利用料を無料化、
持続可能なモデルを目指す

ソライは今年10月、鶴岡市在住の子ども(大人1名につき3名まで)を対象に利用料無料化に踏み切った。ソライは2018年の開業時、SHONAIが10億円・鶴岡市が2億円の負担で施設を整備し、行政補助に依存しない民間主体で運営しているが、当初から無料化を求める市民の声がSHONAIと市に届いていた。

こうした中で、今年2月に子育て支援団体6者・鶴岡市・SHONAIの三者協定を締結し、屋内遊び場環境の推進で一致。今年3月にソライ利用料補助を求める予算案が鶴岡市議会に提出されたが、結果は1票差で否決された。こうした状況を受け、SHONAIは独自に無料化を決定し、企業市民として地域の教育に責任を持つという明確な意思を示した。

「2024年のモニター調査でも、費用面のハードルが利用機会を左右している現実が可視化されました。市民の声に応え、地域に求められる子育て環境を整備するためには、当社主導で取組みを前進させる必要があると考えました」

SHONAIは2030年にグループ売上100億円を目指す事業成長力を基盤に、企業や個人からの協賛や寄付を組み合わせることで、無料化しても持続可能なモデルの実現を目指す。さらに今後、鶴岡市の子どもだけでなく、他の地域にも無料化を拡大することを視野に入れている。

また、SHONAIはソライ以外の教育事業も展開し、「庄下村塾」の企画運営に携わっている。「庄下村塾」は全国の中学生~大学生(11歳~20歳)が参加する7泊8日のプログラムだ。庄内の自然、山岳信仰、農業など地域資源に深く触れながら、自分の「やりたいこと」や「生き方の軸」を掘り下げていく。

注目すべきは、このプログラムが地域の大人たちも巻き込んだことだ。多様な大人が子どもたちの学びをサポートし、地域全体が学びの場となることを実証した。渡邉氏は今後も、この地域でしかできない教育を実践したいと展望を描く。

「地方の希望であれ」。このビジョンのもと、次世代に投資する循環を生み出すSHONAIの挑戦は、人口減少時代における地方の新たな可能性を示している。