「構造災」について考える その特質と対処に向けた構想

先の読めない社会状況のもとで最悪の事態を回避しながら、正解のわかっていない問題にどのように対応すれば良いだろうか。過去の災害や社会的混乱時を省みて、何を学ぶべきか検討することは重要であろう。本稿は、福島第一原子力発電事故を事例に、「構造災」というメカニズムを紹介しながら、不測事態への対応を検討する。

リスクと構造災

松本三和夫

松本三和夫

事業構想大学院大学 教授、東京大学 名誉教授。1953年生まれ。東京大学大学院社会学研究科博士課程修了。社会学博士。オックスフォード大学セントアントニーズカレッジ上席客員研究員などを経て、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2019年より現職。専門は、科学社会学、リスク社会学。著書に、『構造災』(岩波新書、2012)、『知の失敗と社会』(岩波書店、2012)、『テクノサイエンス・リスクと社会学』(東京大学出版会、2009)など。

投資のリスク、疫学的リスク、自然災害のリスク、先端技術のリスク等々、リスクにかかわる事柄は、現代社会で生きるわたしたちのくらしの隅々に浸透している。リスクと結びついた現代社会のようすはリスク社会という概念で表現されることがある。たとえば、ドイツの社会学者であるウルリッヒ・ベックは、チェルノブイリ原発事故の起こった1986年にリスク社会の概念を提示した。ベックのリスク社会の概念は、リスクのグローバルなインパクトが社会のあり方に由来することを示唆した。

他方、現在の文脈に即してみると、たとえば福島第一原子力発電所事故(以下、福島事故)の経験を…

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