違いを力に変える対話の文化と、共創を支えるデンマークの教育哲学
デンマークの対話や「問いを育てる」教育は、社会に何をもたらしたのか。今回は、そこで培われた共創の文化が、企業や公共セクターにどう根づいているのかを追う。日本とデンマークで活動するLaereの大本綾氏と坂本舞氏に、実践例とそこから学べることを聞いた。
「新欧州バウハウス」のイベントの様子。
画像提供:株式会社Laere
教育が育んだ対話の文化が
企業のフラットな土壌を生む
大本 綾
株式会社Laere 共同代表
一般社団法人Japan Innovation Network 理事
外資系広告会社を経て、2012年にデンマークのビジネスデザインスクール「KAOSPILOT」に日本人初の留学生として入学、2015年卒業。同年、坂本由紀恵と共に株式会社Laereを設立。KAOSPILOTの日本パートナーとして、官公庁や大手企業に対し、クリエイティブ人材の育成および組織開発の支援を行う。近年は、富山県滑川市において、自治体・教育委員会・地元企業と連携した「なめりかわ未来学校」の立ち上げに携わるなど、地域と教育を横断した取り組みにも関与している。2024年、Asia Business Outlookが選ぶ「最も有望な女性創業の日本企業トップ10」に選出。
坂本 舞
360°リーダーシップ・ディレクター
日本で約16年間を過ごした後、主にデンマークを拠点に活動。2024年末に日本へ拠点を移し、株式会社Laereに参画。若い頃に抱いた日本の社会・教育への問いを起点に、誰もが自らの潜在的創造力を発揮できる社会への転換を目指し、個人や組織に内在する変革の可能性に着目した実践を行っている。デンマーク王立芸術アカデミーにてデザイン修士号を取得、デザインを学びの体験を設計する手段と捉えて活動している。近年は、コペンハーゲンを拠点とする民主的組織「Tomorrow Collective」の立ち上げに参画し、元デンマーク文化大臣でありKAOSPILOT創設者のUffe Elbækのもとで、リーダーシップ開発と共創プロセスの設計・ファシリテーションを実践してきた。
フォルケホイスコーレに象徴されるデンマークの教育に通底する哲学は、「自分自身の意見を形成して発言し、それによって多様な他者と対話し、そこから学び・共創すること」だ。これは義務教育から高等教育まで浸透しており、そこで育った個人が企業や行政へと巣立つ。その文化は、働く場でどう受け継がれているのか。
「デンマークの行政でも民間企業でも、多様な個人が自分の視点を共有しやすい、という共通点があります。基本的にフラットな社会なので、役職や立場はあっても、自分の役割や専門をわきまえた上で、思っていることは正直に発言します」と坂本舞氏は語る。かつて坂本氏が所属したコペンハーゲンの組織のメンバーは20代から70代までいたが、年齢や立場が上だから発言がより尊重されるという考え方はなく、20代の人が70代の人に「それはおかしいと思う」と率直に伝えることも日常的光景だったという。これは民間企業も同じだ。
「ある製薬会社に勤める知人は、上司に対しても『このやり方は違うと思う』と率直に言うよう心掛けていました。それによるネガティブな影響はあまりなく、むしろ上司との関係性が深まり、社内での昇進につながったそうです」(坂本氏)
このフラットな組織文化は、日本でも定着しつつある「心理的安全性」と重なる。ただし、その根づき方は異なり、それが生産性にまで及ぶ。
「概念は同じですが、違うのは特別な制度ではなく、日々のコミュニケーションの中で本音の対話が繰り返されている点です。だからこそ会議の時間も回数も減り、短時間でも本質的な話ができる。こうした対話の文化が、高い生産性や効率的な働き方を支える土台の1つになっているのだと思います」と大本綾氏は語る。
(※全文:3180文字 画像:あり)
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