特集紹介 社会と学校をつなぐ働き方 教職員の多様性からレジリエンス向上へ

「社会に開かれた教育課程」の実現や、多様な学びが学校現場に求められる中、多様な社会人を学校現場へ取り込む重要性が高まっている。一方、教員自らが学校外へ「越境」することも新たな学びとなる。「社会と学校をつなぐ働き方」の観点から、最新の取組みや実践などを探った。(編集部)

多様な知識・経験を有する
外部人材の教育現場での活用

新学習指導要領は「社会に開かれた教育課程」を掲げ、教育課程の実施に当たって、地域の人的資源等を活用し、学校教育を学校内に閉じずに社会と連携しながら実現することが求められている。

また、中央教育審議会は、「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について、2022年12月に答申※1を取りまとめた。同答申では、個々の教師の資質能力の向上に加えて、学校組織のレジリエンスの向上の観点から、教職員集団における多様性確保の必要性が示されている。

確かに、小学校で必修化となった英語教育をはじめ、プログラミング教育、アントレプレナーシップ教育、キャリア教育、金融教育、性教育、探究学習など、教育現場には、多様な学びのニーズが求められているなか、起業家、アスリートやアーティスト、IT人材など、多様な専門性や知識・経験・背景を有する人材を学校現場に取り込んでいくことが一層、重要になっている。

こうした状況を背景に、文部科学省では、9月1日、「令和5年度学校教育における外部人材活用事業」で①学校現場と多様な経験や背景を持つ人材をつなぐ在り方研究事業、②学校現場におけるアスリート人材活用推進事業の2テーマで調査研究等についての公募を行っている。

また、文科省は「学校・子供応援サポーター人材バンク」を開設。同人材バンクに登録することで、学校や教育委員会は、いま必要とする人材を同人材バンクの登録者の中から、探すことができる。この他、従業員の雇用維持のために雇用シェアを希望する「企業」と企業人材受け入れを希望する「教育委員会や学校」をつなげるため、「学校雇用シェアリンク」を開設している(➡ こちらの記事)。

多様な授業テーマや部活動など
外部人材と学校をつなぐ取組み

多様な専門性や知識・経験・背景を有する人材を学校現場とマッチングする取組みは、民間企業でも活性化している。

株式会社LX DESIGNが提供する「複業先生®」は、外部人材と学校をつなぐマッチングサービス。「複業先生」は、これまでの仕事や経験を学校現場で分かち合いたい人が、スポットで〈先生〉の仕事ができる、教育特化型の複業案件プラットフォームだ(➡ こちらの記事)。「複業先生」に登録すると、登録内容に応じ、事務局または学校から授業の依頼が届く。学校側との交渉が成立すれば、実施授業に向けオンラインで打ち合わせ。事務局と授業準備をした後、オンラインまたは対面で授業を実施する。

授業テーマは、キャリア教育、IT、起業、グローバル、地方創生・観光、金融・経済、スポーツ、医療・健康、宇宙・農業、音楽・美術、障害・福祉など様々だ。

また、オプションとして教育業界出身のコーディネーターによる、授業準備や当日の授業のサポートもある。登録者ごとに授業当たりの報酬が設定されており、学校側は依頼した複業先生に対し報酬を支払う。

「複業先生」の登録者数は1,426名(2023年8月現在)。教員免許保有者も23%いる。また、地域別にみると47都道府県を網羅しており、年代は20代~40代がボリュームゾーンとなっている。

多様な社会人と学校現場をつなぐ取組みは、学校内の教育活動だけではない。2024(令和6)年度の文科省の概算要求で「部活動の地域連携や地域スポーツ・文化クラブ活動移行に向けた環境の一体的な整備」に49億円(前年度28億円)が要求されているとおり、文科省は、「部活動の地域移行」を推進している。

これまで学校の部活動では、顧問の教員が必ずしもその部活の専門家ではないため、現場では「専門的な指導が受けられない」などの課題も挙げられてきた。

株式会社WIDEは、2023年3月、部活動と指導者を繋ぐマッチングプラットフォーム「sukusupo」の運営を開始した(➡ こちらの記事)。「sukusupo」の登録は、指導者もチームも無料でできる。ただし、指導者登録には「登録する競技の経験が3年以上」、「登録する競技の指導経験が1年以上」、「最終競技歴は高校以上」、「各競技団体が発行しているライセンスを保持している」、「教員免許を取得している」の5つのうち、いずれかを満たさなければならない。

指導者とチーム双方が、チャットで問い合わせたり、オファーを送ったりすることもできる。

ただし、最終的なマッチング時には、指導者とWIDEでオンライン面接をし、その後にチーム、指導者、WIDEの3者間で契約書を交わす。マッチングができたら、指導者には時給1600円程度がチーム側から支払われる。すでに、中学校のバスケットボール部とバレー部でマッチングが成立。さらに、現在は運動系だけでなく、吹奏楽など文化系の指導者も登録している。今後、新たなマッチングが生まれることが期待される。

画像はイメージ。

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複業・兼業で学校を「越境」し
教員が社会とつながる働き方

多様な社会人を学校現場に取り込んでいく活動が進む一方で、教員自らが複業・兼業等によって、学校外へ「越境」することで、その学びが、教員としてのスキル・知識の獲得・向上や人脈や視野が広がるといったシナジーも期待できる。

教職大学院を卒業後、公立小学校教員1年目で、一般社団法人まなびぱれっとを立ち上げた、代表理事の小泉志信氏は、「教員をしながら起業して社会との接点を作り出すロールモデルが必要だと思い、全世代の教育者に発信するため、あえて1年目で起業したのです」と話す(➡ こちらの記事)。

まなびぱれっとでは、教員と教員ではない人が混ざり合うオンラインサロン「キャンバス」の運営や、教員1年目の先生に半年間伴走する「「はじめてのせんせいプロジェクト」といった活動を展開。一方、勤務中の板橋第十小学校では、4年生の総合的な学習で「1,000人の大人と出会って人生設計を考える」探究学習を担当。また、SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)で「IKO(板橋第十小学校の研究を面白くする会)」というプロジェクトを進めている。

また、越境の一歩を踏み出そうとしても、躊躇する教員も少なくないだろう。任意団体「越境先生」を立ち上げ、越境先生を創るオンラインコミュニティ「シン・教員」を運営する前田央昭氏は、「複業や兼業は、先生が社会と教育の多様化に対応するための、有効な研修手段の1つとなり得ます」と話す(➡ こちらの記事)。

「シン・教員」の会員登録は無料で、現在約70名の公立学校、私立学校の教員、非常勤講師などが参加している。主な活動は、各自の経験も含めた兼業許可に向けた情報交換で、越境に関する失敗、学校に許可を受け実践した兼業の事例や申請の仕方など、様々な情報を交換している。

本特集では、「社会と学校をつなぐ働き方」の観点から、企業や有識者、学校現場の教員等からその実際を追った。各取組みから、「社会に開かれた教育課程」の実現、教員の越境への一助となれば幸いだ。

※ 1 「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について~「新たな教師の学びの姿」の実現と、多様な専門性を有する質 の高い教職員集団の形成~(答申)