学び直しや進路、保護者の孤立… 不登校支援の課題を官民で語り合う カタリバ
認定NPO法人カタリバは2026年9月27日、東京都中野区の同法人中野事務所で「みんなの不登校支援ダイアログ2026」を開いた。官民の垣根を越えて不登校支援の実践を語り合い、学び合う場として企画したもので、行政担当者や教員、NPO・居場所のスタッフなどを対象とした。本稿では、オープニングセッションに続き、保護者の孤立を取り上げた分科会②と、中学卒業後の進路を扱った分科会③の議論を報告する。
親子を孤独にしない社会へ
オープニングセッション「不登校支援をともに学び、ともにつくる」には、葉山町教育委員会教育長の稲垣一郎氏、日本財団公益事業部子ども支援チームチームリーダーの山下大輔氏、認定NPO法人カタリバ代表理事の今村久美氏、同ディレクターの瀬川知孝氏が登壇した。行政と民間それぞれの立場から不登校支援に携わる登壇者とともに、なぜいま学び合うことが必要なのかを考え、継続的につながり学び合うコミュニティとしてLearning Commonsを構想する場と位置づけられた。
セッションでは、最も大切なのは不登校になっても親子が孤独にならない社会をつくることであり、そのために現場で手を動かしている人たちが知恵を出し合える場にしたい、という意見が出た。人と人が連携するのは簡単ではなく、頑張っている人同士ほど思いが強いため、小さな違いに引っかかりやすいという声もあった。学校に行かない子どもたちの問題は何十年も置き去りにされてきたとして、勉強させることより、まず孤独にしないことに向き合うべきだとの指摘も上がった。
自由はあっても共同性なし
分科会②「不登校を、家庭だけの課題にしない」には、関西学院大学社会学部教授の貴戸理恵氏、NPO法人キーデザイン代表理事の土橋優平氏、認定NPO法人カタリバ相談チャット事業責任者の藤井理夫氏が登壇し、藤井氏が進行も務めた。
自らも小学校時代を学校に通わずに過ごした貴戸氏は、国が1952年から一貫して集めている長期欠席のデータを示した。貴戸氏によると、1970年代半ばを挟む約10年間は中学生の99%が学校に通っていたが、その後は長期欠席の増加が続き、いまは2度目の増加期にあたる。ほぼ全員が登校する時代はもう戻らず、不登校は多くの子どもが一度は経験しうる出来事として捉えるべきだという。
制度や選択肢は増えたものの、情報を集め、子どもに合う場を探し、費用を払って見守る役割は家庭に委ねられ、動くのは母親ばかりになりがちだ。かつて暮らしの中にあった親の会や市民運動のつながりも薄れた。貴戸氏はこうした状況を「自由があるけれども、共同性がない」と表現し、自分にふさわしい窓口は人と対話を重ねる中でしか見えてこないからこそ、親も子もつながれる場や関係が必要だと訴えた。
母親の離職は父親の約30倍
土橋氏は、キーデザインが実施した「不登校離職実態調査2026」に触れ、母親の離職は父親の30倍近くに上ると説明した。同法人が2026年7月9日に公表した結果によると、調査には全国46都道府県から1234件の回答が寄せられた。子どもの不登校や行き渋りによる仕事への影響として「実際に退職した」と答えた母親は19.93%、父親は0.67%で、約30倍の差があった。
土橋氏によると、離職の背景には、職場で相談しづらい孤独感や、遅刻や早退、欠勤が増えることへの罪悪感がある。離職した保護者に話を聞くと、子どもが不登校になってから4カ月以上仕事を続けていた人が多いという。その期間に企業が早く気づき、相談に乗れるかどうかが重要だとして、同法人は従業員アンケートや従業員研修、離職防止のガイドライン作りなどを企業とともに進めている。
これに対し貴戸氏は、上司を信頼できなくても使えるよう、理由を言わずに取得できる「ケア休暇」があるとよいと提案した。
話を聞いてもらうことが余白生む
藤井氏は、カタリバが2021年に始めた保護者向けのLINE相談窓口「カタリバ相談チャット」の運営から見えてきたことを紹介した。藤井氏によると、相談の8〜9割は不登校に関するもので、利用者の9割以上が母親だ。個別相談を利用している保護者は、情報の配信だけを受け取っている登録者に比べてメンタルヘルスの状態が良好で、子どもの話を受け止める時間をつくれたと答える割合も高かった。自分の話を聞いてもらえることが、子どもの話を聞く余裕につながっているのではないか、という仮説を持っているという。
父親の孤独にも注目するべき
会場のグループ対話では、それまでの議論とは違い、父親の孤独が話題になった。不登校の子を持つ父親の参加者は、母親から見れば父親は妻に任せきりに映るかもしれないが、職場の上司に子どもの不登校を話せないことも多く、外では孤独を抱えているのが実情だろうと語った。無理にでも学校へ行かせようとする父親の根底には、学校に通わなければ対人関係を築く力が身につかず困るという恐れがあるのではないかとも指摘した。藤井氏も、父親からの相談は少なからず寄せられるものの、相談関係を築けるかどうかは別の問題だと明かしている。
最後に土橋氏は、資格の有無にかかわらず、一人にしないという覚悟を持って関わる伴走者が一人いるかどうかが出発点になると締めくくった。
日常会話が進路を考える材料に
分科会③「伴走者とともに考える中学卒業後の進路」は、認定NPO法人カタリバ足立区不登校支援事業責任者の渡邊雄大氏が進行を務め、特例認定NPO法人Woods代表理事の金木悠氏と、一般社団法人基礎教育保障研究所/岡山自主夜間中学校理事長の城之内庸仁氏が話題を提供した。
(左から)特例認定NPO法人Woods代表理事の金木悠氏と、一般社団法人基礎教育保障研究所/岡山自主夜間中学校理事長の城之内庸仁氏
金木氏は、東京都文京区でフリースクール「ふくろうの部屋」を運営するほか、埼玉県新座市でも居場所を運営している。進路の話をする前に、まず本人の生活が落ち着き、安心して過ごせているかを大切にするという。朝は何時なら起きられそうか、人の多い場所は疲れるかといった日々の会話が、進路を考える材料になる。Woodsの側から学校を提案したことはほとんどなく、高校の広報担当者を招いて保護者と一緒に話を聞く機会をつくったり、実際に学校を見に行くよう勧めたりしてきた。課題には高校進学後もつながり続ける難しさを挙げ、困ったときに自分から相談する力をどう育むかを考え続けたいとの考えを示した。
学齢期の生徒にも夜間中学を
城之内氏は、読み書きができないため病院で問診票を書けず、利き手に包帯を巻いて受付で口頭で聞き取ってもらう夜間中学生の例を挙げ、学び直しの場の必要性を訴えた。文部科学省によると、2020年の国勢調査では、未就学者が約9万4千人、最終卒業学校が小学校の人が約80万4千人いることが明らかになった。
公立の夜間中学は、文部科学省によると44都道府県・指定都市に69校が設置されている。ただ城之内氏によると、学齢期の生徒を受け入れているのはそのうち4〜5校にとどまる。香川県の三豊市立高瀬中学校は2022年に文部科学省から不登校特例校(現在の学びの多様化学校)の指定を受け、同校の夜間学級では学齢期の不登校の生徒も学んでいる。
教育機会確保法(義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律)が定めているのは「夜間その他特別な時間において授業を行う学校」であり、早朝や深夜に学ぶ学校があってもよいと城之内氏は語った。
自らも公立の夜間中学で2年間英語を教えた城之内氏によると、夜間中学では10代の生徒が80代の生徒にアルファベットを教える場面があるという。同じ年代だけの集団では生まれなかった学び合いが、多様な生徒が集まることで生まれていると述べた。