哲学者は、時代と格闘する
現代社会は情報過多で、人は往々にして本質的な問いや生きる指針を見失う。こうした時代だからこそ、哲学への立ち返りが混迷を読み解く鍵となる。本稿は、難解とされる哲学者の思索を深掘りし、その根底にある時代精神と現代への射程を明らかにする。今回は特に戦前の日本哲学に焦点を当て、京都学派の和辻哲郎の思想的系譜を辿る。彼の多岐にわたる思索、特に主著『倫理学』を精査し、その深奥に迫る。
時代が騒然とするときも
古典で頭を整理整頓

先﨑 彰容(せんざき あきなか)
社会構想大学院大学 社会構想研究科 研究科長・教授
思想史家。博士(文学)。1975年東京都生まれ。東京大学文学部倫理学科卒業、東北大学大学院日本思想史博士課程修了。日本大学危機管理学部教授を経て2025年4月より現職。『個人主義から〈自分らしさ〉へ』(東北大学出版会、2010年)、『ナショナリズムの復権』(ちくま新書、2013年)、『維新と敗戦』(晶文社、2018年)、『国家の尊厳』(新潮新書、2021年)、『本居宣長』(新潮選書、2024年)、『批評回帰宣言』(ミネルヴァ書房、2024年)など著書多数。

3 回目の今回から、哲学者の難解な言葉を深堀して、時代を浮き彫りにする作業をしてみようと思う。「哲学」はもちろん、原則的に真・善・美といった、普遍的なテーマをあつかうものであり、時代状況から最も遠いところで、観念的な言葉をもてあそぶ営みだと思われがちである。でも、プラトン『国家』ひとつとってもそうだが、時代が騒然とし、夥しい賛否両論の意見が溢れ混乱しそうだ、という場合、古典をしずかに読むことで、頭を整理整頓しようとしないだろうか。
(※全文:2917文字 画像:あり)
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