松山大学 情報学を2分野から自由に学ぶ 新学部が切り拓く地域の未来
愛媛県松山市にある松山大学は、2025年4月、6番目の学部となる情報学部情報学科を開設した。初年度から志願倍率が11倍を超えた新学部は、どのような狙いで設計したのか。情報学部長・教授の檀裕也氏に、設置の経緯やカリキュラムの特長、今後の展望などを聞いた。
高校生・企業の地域ニーズを
踏まえてカリキュラムを設計
檀 裕也
松山大学 情報学部長・教授
博士(理学)。専門分野は数理解析。微分方程式やシミュレーションなどの手法を使って、自然現象および社会現象の数理モデルを解析している。本業は量子複雑系の数理構造の研究。ミュンヘン大学数学研究所客員研究員、学習院大学理学部数学科客員研究員、松山大学経営学部教授などを経て2025年4月から現職。
2023年5月に創立100周年を迎えた松山大学。創立以来「真実」「実用」「忠実」を合わせた校訓「三実」のもと、社会に貢献できる人材育成を目指して幅広い教育を展開している。
情報学部長・教授の檀裕也氏は「以前から、情報系や環境系など、新しい分野に教育の領域を広げたいという構想を持っていました。経営学部には情報コースがありましたが、情報分野をより専門的かつ体系的に学べる環境が必要だと考え、独立した学部を設置しました」と話す。
情報学部の設置に先立ち、同大学では県内高校10校を対象にアンケート調査を実施した。その結果、高校生の関心は、情報システムや、デザイン・アートを含む情報メディアに強く向いていることが分かった。
一方、地域企業への調査からは、システムを構築できる技術者だけでなく、UIやUXを設計できる人材が不足している実態も見えてきた。
「情報工学を専門的に修めたい高校生は工学部の選択肢があります。一方で、高校で学んだ情報技術や課題解決を、もっと幅広く発展させたい生徒もいます。技術や資格の習得だけで終わらず、それを社会にどう還元するかまで学べることが、本学の役割だと考えています」
高校では「情報Ⅰ」が必修科目となり大学入学共通テストにも導入された。情報学部は高校で情報に関心を持った生徒が、その学びを大学で発展できる受け皿にもなる。地域の高校生と企業のニーズを踏まえて、情報学部のカリキュラムは「情報システム分野」と「メディアデザイン分野」を柱に、情報学を2つの側面から自由に学べる分野横断型のカリキュラムに設計した。また共通分野にはプログラミング、AI・機械学習、データサイエンスと近年注目が高まっている分野を配置した。
「情報技術を活用して、社会の課題を発見し、自ら考え、解決できる人材の育成を目指しています」
13のプログラムと社会実践で
実務に生きる専門性を育む
カリキュラムは一部の必修科目を除けば、卒業に必要な124単位の大部分を自由に選択できる。一方、自由度が高すぎて学生が迷わないよう、学生の関心や将来の進路に応じた「13の目標別プログラム」を設けた。
各プログラムでは、学生が目指す職業に直結する知識や技術を学べる上位科目を「マイスター科目」(目標科目)とし、その履修に必要な科目を示している。13の目標別プログラムの中でも、入学当初はCGやアニメーションに関わる「デジタルクリエーション」に人気が集中したものの、1年次の学びを経ていくうちに、学生の関心に変化が表れたという。
「最初は関心が薄かった『デジタル回路設計』や『物理シミュレーション』も、実際にシミュレーターを使うと、面白いと感じる学生が出てきます。ゲーム制作には高度な数学や物理が必要だという現実を知ると、どの分野にも面白さと難しさの両方があることが分かり、関心が多様な分野へ移っていくものです。最初のイメージだけで専門を決めず、幅広く学んでから選ぶことも大切で、本学部の横断型カリキュラムではそれができます」
専任教員16名のうち11名を学外から採用し、実務と研究の双方に通じた体制を整えた。新規に採用した教員には、実務経験と博士号を併せ持つ教員もいる。
また情報学部の特色を象徴する「社会実践科目群」では、1年次から4年次まで体系的に配置され、大学での学びを社会と結びつける「プロジェクト科目」と「キャリア形成支援科目」で構成される。
「プロジェクト科目」では、企業や自治体と連携し、チームで課題解決に取り組む。1年次の「プロジェクトデザイン」で企画の立て方や進め方を学び、2年次の「プロジェクト実践」で企業の課題解決に挑む。3年次の「マネジメント実践」では、プロジェクトの管理者として、工程や進捗状況、メンバーのマネジメントを担う。
一方、「キャリア形成支援科目」では、実習や研修を通じ、自らの技術や知識が社会でどう役立つのかを体感する。1年次の「キャリア探索」では、テレビ局、新聞社、銀行、病院、市役所などでDXに携わる実務家から、仕事の現状や課題を学ぶ。3年次にはインターンシップも予定され、連携先は沖電気工業、サイボウズ、愛媛新聞社など83社に及ぶ。
学部開設後、檀氏が想定以上の手応えを感じているのが、学生の主体性である。「過去問もなく、先輩もいない新設学部を選んだ学生たちは、チャレンジ精神が旺盛です。こちらが手取り足取り教えなくても、自主的に研究を進め、学会発表に向けて準備を進める学生もいます」。
例えば「キャリア探索」でのテレビ局との交流をきっかけに、学生たちが自主的に方言を認識できるAIの開発に着手した事例はその象徴だ。テレビ局が保有する約35年分の番組資料のうち、まず1年分の音声を解析し、伊予弁などを認識するAIモデルの開発を進めている。
ワクワク感のある学びが
学生の主体性を育てる
情報学部の開設にあたり、松山大学は文部科学省の令和5年度「大学・高専機能強化支援事業」に採択された。2026年4月に開設した新校舎にはAIモデルの構築や動画編集に対応する高性能なPCを導入したほか、ガラス張りの教室やコモンスペースに加え、正面、左右、床面に映像を表示する4面LEDビジョンを設置した。ここでは学生が制作した3Dコンテンツや、360度カメラで撮影した映像を没入感ある3D空間で体験できる。
情報学部の新校舎内にある4面LEDビジョンでは学生が制作した3Dコンテンツなどを投影できる。
「制作した3Dモデルを大きな空間に映せれば、もっと学びたいというモチベーションにつながります」
少子化が進み、大学間の競争が激しくなる中、大学に求められているのは「ワクワク感」だと檀氏は語る。
「ドローンを自分のプログラミングで動かしたときの達成感や、もっと知りたいと感じる高揚感。楽しさの中に成長の要素が含まれている学びこそが、これからの大学に必要だと感じています」
最後に檀氏は「出身学科にかかわらず、多様な学生が刺激し合うことで、新しい価値や課題解決の方法が生まれます。高校の先生には情報に関心を持つ生徒がいれば、ぜひ情報学部を進路の選択肢として勧めていただきたいです」と締めくくった。