広がる活躍の場 実務家教員は社会に何をもたらすか

高度な経験と最先端の学術知を併せ持つ「実務家教員」が新たなキャリアとして注目されている。学校法人先端教育機構 社会情報大学院大学では去る9月13日、実務家教員の認知拡大・普及啓発を目的としたオンラインシンポジウムを開催した。その模様をレポートする。

第1部 実務家教員への期待
文部科学省高等教育局 専門教育課 課長補佐 木谷慎一

誰もが学び続け、チャレンジできる社会の実現に向けて

木谷慎一氏

木谷慎一 氏

文部科学省 高等教育局 専門教育課 課長補佐

Society 5.0や人生100年時代が言われるなか、時代を切り開くためには、経済社会システム全般の改革が必要であり、そのための人材育成が重要な課題であると認識しています。

今年の3月末、国公私立大学と日本経済団体連合会の代表者で構成される「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」において、Society 5.0時代の人材に求められる能力や、そのために必要な大学教育、企業の処遇のあり方等に対して、産学協働で取り組むアクションを「Society 5.0に向けた大学教育と採用に関する考え方」として取りまとめたものを発表しました。

文部科学省では、産学がともに人材育成に主体的に参画し、実体験を通した実践的な産学共同教育を推進していくことを目的として、「持続的な産学共同人材育成システム構築事業」を推進しています。

ここでは4つの取り組みを採択していますが、その1つである社会情報大学院大学におかれましては、実務家教員の必須能力である実務能力、教育指導力、研究能力を備え、大学等で活躍できる人材の育成に取り組んでいただいているところです。

今後、大学と幅広い企業などが連携し、多様な業種や職種の社会人を実務家教員として育成し、その方たちが大学などで実践的な「知」を提供することで、誰もが学び続け、チャレンジできる社会を実現する必要があります。「持続的な産学共同人材育成システム構築事業」の取り組みが、そうした社会の構築に大きく貢献することを期待しているところです。

高等教育段階におけるリカレント教育の推進

高等教育機関における25歳以上の入学者割合の国際比較を見ると、諸外国と比べて日本はかなり低い割合にとどまっています。急速に進展する技術革新や経済活動の一層のグローバル化などの時代において、イノベーションを起こせる人材やグローバルビジネスの現場で活躍できる人材の育成が不可欠です。

そうした背景を踏まえ、知の拠点として高等教育の役割が極めて大きく、日本経済団体連合会としても、今後の高等教育のあり方を提言するにあたり、会員およびその他の企業に対してアンケートを実施し、400社強の回答を得たデータを取りまとめ、その中からいくつか紹介します。

産業界における大学等への従業員送り出しの現状について、会員企業では半数以上が従業員を大学等に送り出していると回答しています。過去5年間に送り出した従業員が学修した専攻分野として、最も多いのは経済学・経営学ですが、今後従業員を送り出したい専攻分野としては、経済学・経営学に加えて、今注目されている情報・数理・データサイエンス、IT 関連を挙げる企業も多くありました。

産業界が大学等に求めるカリキュラムとして、特定職種の実務に必要な専門知識や技能の習得のみならず、実習等実践的な講義を重視する声があります。このことから、そうした講義を担当できる教員として、大学等で実務家教員のニーズが高まっていることが分かります。

今後、充実させてほしい制度や環境については、社会人に配慮した時間帯での授業の開講や、インターネットなど IT を活用した授業を望む声が多くあります。

(出典:木谷登壇資料)

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実務家教員養成の課題

リカレント教育を受けた人はどのような評価を得るのでしょうか。アンケートでは、約7割の企業が中途採用時に評価していると回答していますが、評価の理由として、チャレンジ精神を挙げる声があった点は私としては印象的でした。

次に、正社員の学び直しの障害について、仕事を続けながら学ぶことは容易ではありません。仕事が忙しくて時間が取れないという、もっともな理由が挙げられています。また、学費を懸念する声もありました。

一方、社会人を対象とするプログラムを提供する大学側においては、実践的な教育を行う人材確保が課題になっています。

最後に関係者の皆様に改めてお願いです。様々な大学等の実務家教員像の情報をぜひたくさん集めていただければと思います。それを類型化し、ぜひ「出口」の整理に役立てていただきたいと思います。その情報が実務家教員を養成される方々や学生の皆様の有益な情報になると考えています。今後も、多くの実務家教員が活躍する社会構築に、少しでも協力できるように努めて参ります。

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