広がる活躍の場 実務家教員は社会に何をもたらすか

第3部 実務家教員の活躍の場と魅力「すべては学生と社会の食いつきに尽きる」

鳥取環境大学 環境学科教授 中橋文夫

中橋文夫教授

中橋文夫

公立鳥取環境大学 環境学科 教授

ランドスケープ(景観設計)のコンサルタントとして公園設計などを手がけていた私は、スキルアップのため、48歳で関西学院大学の社会人大学院に進学しました。指導教官の勧めでパークマネジメント研究に着手し、博士論文に仕上げると、京都の学芸出版社という出版社が本にしてくれました。後に教員に転じる良いきっかけになったと思います。

卒業後、実務に戻って間もない2008年、鳥取環境大学がランドスケープ実務を教える教員を募集していることを知りました。条件が私にちょうど合うと思い、応募して現職に就きました。

実務家教員として活躍するために大切なことは、産官学から慕われることです。学生に喜ばれる授業を行うのはもちろん、地域のニーズにはすべて応えるという姿勢が必要です。

私は料亭の庭園をリフレッシュする手伝いをしたり、鳥取砂丘の依頼で鳥取県人の砂像作家育成講座を大学に設けたり、さまざまなことをしています。県や市町村からあらゆる委員を頼まれますが、これもすべて引き受けています。研究と教育は当然のこととして、地域貢献もいまや当たり前の時代です。

また、産官学の接着剤となって、学生と社会の接点をつくるのも重要な役割です。講演会やシンポジウムを開き、その運営を学生に手伝ってもらうことで、多くのことを吸収してもらっています。

研究者としては、過去の蓄積だけでは続けていけませんから、毎年のように本を出し、せっせと論文を書きます。学術誌だけでなく、一般の新聞にも積極的に投稿することで、大学名を世に出すことも意識しています。

実務家教員の魅力は創造・発見・解放です。民間企業時代と比べれば、組織や得意先などの精神的な縛りから解放され、しがらみがない分、新鮮な気持ちで研究に打ち込めるのは非常にありがたいことだと感じています。

名古屋市立大学大学院経済学研究科教授 鵜飼宏成

名古屋市立大学では、複数の大学・企業とともに進化型実務家教員養成プログラム(TEEP:Training for Emerging Educators and Practitioners)を実施しており、私はその実施委員長を務めています。

私は大学院を出て10年間、企業人として働きました。業務上の実践性を高めようと30代半ばで起業し、ほぼ同時に専門性を深めようと前任の大学でベンチャービジネス論を教え始めました。

講義を続けるなかで、単に私の研究成果を伝えるだけでは起業家育成につながらないと気付き、経験学習として PBL 演習型のバーチャルカンパニー・プログラムを導入しました。

特徴の1つは、(特活)アントレプレナーシップ開発センターの「ユース エンタプライズ トレード フェア」に出展し、リアルな商品を持ち込むことです。学生のアイデアを出発点に企業と一緒に商品開発をします。その間に学生は、さまざまな失敗体験と成功体験を重ね、起業家マインドと経営者としてのマネジメント能力を身につけます。そのプログラムからは実際に新規事業も生まれていきました。

また、2013年には地域連携センターを立ち上げました。大学の知を地域の社会課題解決に生かすには、確かなマネジメントシステムが欠かせません。正解のない世界で、私自身も模索しながらですが、学生とともに地域連携に取り組んでいると、こうした機会が実践教育やキャリアデザインを考える際に非常に有効であると実感しました。

以上の経験から、教育の場は、学生、内外の支援者による関係性のウェブなのだと理解できるようになりました。点と点を行き交う情報が、その場にいる人の思いと一体化すると、教えなくても自律的に人は育ちます。逆に一体化できない問題を抱えていると情報がうまく流れません。そうならないよう問題を取り除くヒントを与え、見守り、応援し続けることが、実務家教員の大きな役割の1つだと感じています。

事業構想大学院大学 特任教授 青山忠靖

青山忠靖特任教授

青山忠靖

事業構想大学院大学 特任教授

私の最初の勤務先は広告代理店でした。そこで地方博のプロジェクトを手がけたことから、地域を対象としたビジネスに惹かれるようになり、社会人大学院でコミュニティビジネスを学びました。

入学したころから教員になりたいと思っており、卒業後、2年間で通算40校に応募しましたが採用されませんでした。理由は研究実績がなかったことです。そこで学会に入って論文を書きまくりました。産業界からすぐに教員になる方もあるでしょうが、私のように紆余曲折を経る場合もあります。実務家教員へのキャリアパスは千差万別だと言えるでしょう。

実務家教員というのは「プラットフォームビジネス」だと考えています。教員を本業として、周りに複数の活動が回っているイメージです。その1つは研究学会での活動です。専門領域に関する学会がないという方もあるかもしれませんが、その場合はつくってしまえばいい。私も「地域デザイン学会」という学会をつくり、そこを活躍の場の1つとしています。

実務家教員、つまり大学教授の職にあると、いくつもメリットがあります。家族に気兼ねなく大手を振って好きな研究領域に打ち込めるのはもちろん、自治体の首長やベンチャービジネスの経営者などへの取材もしやすいです。メディアとのネットワークもつくりやすく、新たな事業を生む機会も増えました。

実務家教員に求められるのは衝動と能力です。核として、実務経験に近い研究領域が必要なのはもちろんです。その他、暗黙知を形式知化するにあたっては文章力も欠かせません。また、自分を世に売り出したいという自己顕示欲もあったほうがいい。

この3つがそろった上で、パフォーマンス力、つまり表現力と編集力があるといいでしょう。実務経験を知に翻訳し、自分ならでは研究領域をつくり出すことが、実務家教員に課せられた役割だと考えています。

(出典:青山登壇資料)

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