広がる活躍の場 実務家教員は社会に何をもたらすか

第3部 パネルディスカッション「実務家教員・組織としてのメリット」

企業にとっての実務家教員養成のメリット

川山:ここからは第3部の前半でお話しいただいたお三方に加え、敬心学園 職業教育研究開発センターでセンター長を務める川廷宗之先生と、実務家教員養成課程を修了者された松山博輝さんにも加わっていただき、組織としての実務家教員養成や活用のメリットについて語り合いたいと思います。

まずは、企業にとって従業員が実務家教員を目指すことには、どのようなメリットがあると考えられるでしょうか。

鵜飼:養成課程では、本業務以外の視点で課題を解決する力が養えると思います。多くの社会課題の背景には非常に複合的な要因がありますから、多職種の人たちが連携することが必要です。そうしたアプローチを獲得できるのが、大きなメリットの1つかと思います。

松山:私は養成課程終了後も電機メーカーに勤務していますが、養成課程で学んだことが実務に役立つ場面は多くあります。例えばファシリテーションという講義がありましたが、限られた会議時間で建設的な議論を促す際など、日々役立っています。

川廷:私は主に介護分野の人材育成を手がけていますが、なかなか人が定着しません。その理由はファシリテーションができるスタッフがいないことです。いわゆる優秀な人は、実は人の指導やサポートが苦手なことが多い。ファシリテーション力は非常に重要なポイントです。

中橋:今のようなお話はもっともだと思いますが、かつて私がいた零細企業では、仕事を放り出して大学院に行くのか、という見方もありました。日本の大部分を占める中小企業に勤める人でも、実務家教員を目指せるような政策的な支援が必要だと思います。

オンラインのライブ中継を介した6名によるパネルディスカッション。聴講者はすべてオンラインで参加した。

オンラインのライブ中継を介した6名によるパネルディスカッション。約200名の聴講者はすべてオンラインで参加した。

大学として実務家教員を活用するメリット

川山:次に大学にとっては、実務家教員を活用するメリットはどこにあるでしょうか。特に学術教員との関係性といった観点でいかがでしょうか。

鵜飼:学術教員と連携した授業を推進した前任校での経験から言って、両者は競争関係などではなく補完関係にあります。実務家教員を効果的に活用すれば、いい相乗効果が生まれるはずです。

青山:アカデミズムの先生方は、先に研究課題ありきで学生と接している方が多いように思います。一方の実務家教員は、学生一人ひとりがどういう欲求を持っているかを見つけるのに長けているという印象があります。

中橋:鳥取には本学と鳥取大学の2校しかなく、都市部のように大学同士の連携などできません。それもあって、私のような実務家教員が羅針盤となり、大阪など関西の企業や学会に学生を連れていき、発表させるといった教育を頻繁にしています。地方大学における実務家教員の役割は、そうしたところにもあると思います。

川廷:メリットではなく、あえて課題を申し上げます。実務を離れて5年もすれば、実務経験は古びてしまう。でも、大学にいる限り穏やかに許容されてしまう雰囲気があります。そこを乗り越えるため、実務家教員は常に学び、研究し続ける必要があることを痛切に感じます。

実務家教員に対する期待

川山:確かに解決すべき課題は少なくありませんが、そうしたなか、実務家教員に対して、また実務家教員をめぐる制度について、どのような期待感をお持ちでしょうか。

中橋:先ほども少し申しましたが、実務家教員は地元のオファーに確実に対応することで実務を続け、そこに学生を巻き込むことが大切です。ただ現実問題として、実務家教員になるにはお金がかかります。社会全体として実務家教員を養成すべきとするなら、自己負担に頼らない何らかの策が必要なのではないかと思います。

青山:実務家教員はもっと増えてほしいですね。私は学生寮の運営をしている関係で実感しているのですが、近年、学生の質が大きく変化しています。自分の欲求には忠実ですが協調性に欠け、従来の学生と同じようには扱えません。そうした学生に向き合うには、企業で部下を育成した経験が非常に役に立ちます。その点でも、多くの実務家教員が活躍できるといいですね。

川廷:難しい課題もありますが、最もお伝えしたいのは、実務家教員は楽しい、ということです。現場の仕事を楽しみながら、そこで得た知見を若い人に伝えていくのは非常に面白い仕事です。

松山:実務家教員養成課程で学んだことは、私にとってキャリアの棚卸しのいい機会でした。自分の身の振り方を考える際、少しでも教育に関心のある人であれば、選択肢の1つとして実務家教員は非常にお薦めです。

鵜飼:産学連携や地域連携が盛んに言われますが、いかに自治体や市民団体と交流し、地域課題を特定するかという積極的な姿勢がこれからの大学には求められています。明確な答えが見えないなかでも、協業して解決策を見出していく必要があります。そうした場面で極めて適性が高いのは、やはり実務家教員だと思います。

川山:先生方、ありがとうございました。本日の議論が実務家教員に興味をお持ちの方々のご参考になれば幸いです。

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