特集2 教育・校務の生成AI活用術 実践例から見る生成AI活用の意義

文部科学省は「リーディングDXスクール」事業において教育活動や校務に関して生成AIの活用に取り組む52校を生成AIパイロット校に指定。学校現場でも活用が進む中、本特集では、情報活用能力、教師の実践例、AIアプリなどの視点から、その意義や課題などを探った。(編集部)

活用・普及が進む生成AI
カギとなる情報活用能力の育成

2022年末に生成AI「ChatGPT」が公表された翌年7月、文部科学省は「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」(以下「ガイドライン」)を公表した。ガイドラインを踏まえ、文科省では「リーディングDXスクール」事業※において、教育活動や校務に関して生成AIの活用に取り組む52校を生成AIパイロット校に指定。「効果的な教育実践の創出」により、今後の更なる議論に役立てるよう、知見の蓄積をすすめている。24年2月には、生成AIパイロット校による成果報告会も行われた。

教育現場での生成AIの活用・普及が進む中、生成AIの回答は、常に誤りを含む可能性がある。このため、ガイドラインでも「情報活用能力」の育成強化を掲げ、「全ての学校で、情報の真偽を確かめること(いわゆるファクトチェック)の習慣付けも含め、情報活用能力を育む教育活動を一層充実させ、AI時代に必要な資質・能力の向上を図る必要がある」と述べている。

成果報告会で全体講評を担当した信州大学准教授の佐藤和紀氏は「生成AIを利用する上で重要なのは、事実かどうかを確認するファクトチェック」だと話す(➡こちらの記事)。そして、「重要なのは日々の積み上げと習慣化です」と指摘する。ファクトチェックは教科書でもWebでも、身の回りのものを使って低学年から毎日できる。そのためには、まず情報を「比較する」ことが重要だ。学校教育のあらゆる場面で比較して考える。比較して違いがあれば、なぜ違うのかを調べる。これが、ファクトチェックの習慣化につながっていく。例えば、鎌倉幕府の成立が昔は1192年、現在は1185年、恐竜の姿も昔は羽毛がない、現在は羽毛があったなど、教師が意識をすれば、各教科の中で、常に指導することは可能だ。

このほか、ファクトチェックではガイドラインが述べるように「複数の方法(情報の発信者、発信された時期、内容、他の情報と比較する等)を組み合わせて、情報の信憑性を確認すること」も必要だろう。

現役教師が実践する
生成AIの活用方法とは?

いち早く生成AIに関心を抱き、教育現場で実践している教師もいる。県立高校の教師である南部久貴氏はChatGPTを積極的に導入し、校務の効率化や英語、探究学習などで活用している(➡こちらの記事)。例えば、英語では英作文の添削に活用。この際、生徒の使用には、2つルールを設けた。1つは考える力を伸ばすために、まずは自分で英作文をすること。もうひとつは、添削結果を辞書や文法書で調べて、より良い英作文をつくることだ。

南部氏は「授業での英作文の指導回数を増やせていますし、冬休み中の英作の課題の添削にもChat GPTを利用しました。これまでは長期休暇中は添削が受けられませんでしたが、すぐにフィードバックが受け学べるようになったことで、個別最適な学びができるようになったと感じています」と話す。

また、24年3月に出版された『教師のためのChatGPT ホントに使えるプロンプト』(時事通信出版局)では、生成AIを活用する教師の実践例を紹介。同著の監修を担当し、23年度文部科学省「学校DX戦略アドバイザー」を務めたスクールエージェント代表取締役の田中善将氏は、どの教科でも使えるメタ認知(自分自身の考えや記憶を客観的に認識する力)のプロンプトの活用を勧める(➡こちらの記事)。ChatGPTを活用すれば、子どもたちは自身の思考プロセスや学習方法の振り返りや改善、問題解決などがしやすくなるという。

田中氏は「授業を受け身で聞いているだけの子どもは、生成AIに『今日の授業で学んだことは何ですか』と聞かれても何も答えられません。そうした子どもは、周りの子と話し合って自分は何が分からなかったのかを明確にしたり、分からなかったことを生成AIに質問していくことで、得られた知識を転用可能な形にまとめ直すことができるようになります」と話す。

「聞く」「話す」力を伸ばし
個別最適な学びを実現

生成AIの活用は校務を効率化し、教員の働き方改革を実現する可能性を秘めている。一方で、生成AIを使うことに苦手意識をもつ教員も多いだろう。「教育×テクノロジー」をテーマに現場課題と向き合う企業「みんがく」は24年2月、教育に特化したAIアプリ作成プラットフォーム「スクールAI」をリリースした(➡こちらの記事)。

「スクールAI」では、テンプレートを現場の課題に合わせてカスタマイズしていき、教師自身がAIアプリを簡単につくることができる。テンプレート機能も豊富で、英作文添削、長文テスト作成、小論文添削、実験シミュレーター、学習相談コーチ、そして教師の業務効率化に役立つ指導案作成など、120近いテンプレートが用意されている。

21年に同社を起業した代表の佐藤雄太氏は、「生成AIは真の個別最適化を実現するラストピースになり得ます。正しい付き合い方を知るために、まずは先生方に使い倒して欲しいですね」と話す。

また、個別最適な学びは、英語の4技能の内、「話す」「聞く」力を伸ばすには、特に求められるだろう。2015年にGoogleの出資によって誕生した「ELSA(エルサ)」は、英語4技能の中でも「スピーキング」に特化したAI英会話アプリだ(➡こちらの記事)。

一斉授業では見落としがちな一人ひとりの弱点に寄り添うツールとして、個別最適な学びを実現し、教育現場での導入が広がりつつある。

ELSAは、学習者のスピーキングの弱み(発音・アクセント・イントネーション・流暢さ・語彙力・文法)を特定し、短期間での改善に導くアプリ。ELSAでは、AIが個々の苦手をベースに、1日10 分の学習カリキュラムを作成する。苦手克服にフォーカスしたカリキュラムのため、いち早く、効果を実感できる。

ELSA Japanの髙橋一也氏は、「生徒がスマホやタブレットに向かって発話すれば、その声を音素レベルでチェックし、正誤を拾い、どうすれば修正できるかを指示し、課題達成度を表示します。もちろん、発話のきっかけを提供する音声の読み上げスピードは好みに合わせてカスタマイズも可能です。学校によっては、英語をコミュニケーションツールのひとつと捉えて、国語や高校の探究学習でも活用しています」と話す。

今年4月、OpenAIは、日本法人OpenAI Japanの立ち上げと、アジア初となる東京オフィスの開設を公表。同時に日本語に最適化されたGPT-4カスタムモデルの提供を発表した。これによって日本語テキストの翻訳と要約のパフォーマンスやコスト効率が向上し、前モデルと比較して、最大3倍高速に動作するという。同カスタムモデルは、数か月以内にAPIで広くリリースされる予定だ。

こうした背景もあり、今後、日本で生成AIの活用・普及の加速が予測される中、活用する教育現場としない教育現場で教育格差が拡大する懸念もある。本特集では「生成AIの活用」をテーマに、情報活用能力、教師の実践例、AIアプリなどの視点から、その意義や課題などを探った。教育現場の生成AI活用における一助となれば幸いだ。

全国の学校において教育活動や校務での生成AIの活用実践が徐々に蓄積している。

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